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~第8話~

「先に『アレヴィエル』での魔法の説明をします」


 ミラはそう言ってリュックに近寄り、その中をごそごそと探し始めた。

 取り出した物は1枚の羊皮紙。


「酒麗神様から魔法の説明をする時に読むようにと渡されていたんです」


 ミラがその羊皮紙に目を通し始める。


「では、読み上げます。

 『まず、そちらの世界での化学、物理法則と似たような法則がこちらの世界にも存在する。

 例えば、燃焼という現象を起こすためには①可燃性物質②酸素③発火点以上の温度の3要素が必要である。この法則はこちらの世界でも共通している法則じゃ。

 そして、そちらの世界には無く、こちらの世界に存在する法則の1つが魔法法則、いわゆる魔法じゃ。

 ①発動に必要な魔力②イメージによる術式構成③呪文詠唱④魔法名の宣言という4つの要素により⑤定められた現象が生じるという法則である』」


 ミラの大きな目には真剣さがにじみ出ている。

 だが、負けじとユウマの目にも真剣さがにじみ出ていた。

 重い雰囲気の中、ミラが次々に読み進める。


「『例外は存在するが、①が多ければ⑤の威力や規模が大きくなる。

 ②が緻密であれば⑤をより自在に操れる。

 ③は省略可能じゃが要素を省くため⑤の威力や操作性が落ちる。

 ④は必須である。

 ま、どうせお主は使えんからこのぐらいザックリとした説明で――』」

「ちょっと待ったぁぁぁ!」


 ユウマが突然大声を上げた。

 読み上げることに集中していたミラがビクッと体を強張らせてしまう。

 そして、目を限界まで見開かせて凝視しているユウマに向かって尋ねた。


「ど、どうしました⁉」

「え……いやいやいや、え、何? 俺、魔法使えないの? 何で? 嘘だろ? 何で使えないんだ?」

「え、えっと、酒麗神様が言ってたんですけど、ユウマ様の世界には魔法法則が存在してないので、魔力自体も存在してないらしくて」


 あったら使ってるわ、ユウマは反射的に心の中で言い返した。


「酒麗神様は、こっちの世界に取り寄せたユウマ様の魂を基にして肉体を組成したんですけど、魔力についてはどれだけ保有させようとしても、微量しか保有させることができなかったらしいんです」

「じゃ、じゃあ、少しは魔力があるってことか?」

「は、はい。無理やり詰め込んだって言ってました」

「む、無理やり……ど、どのぐらい⁉」

「えっと、子供の平均魔力量を100とすると」

「え、子供……?」


 何で子供が出てくるんだ、そんなユウマの感想が声になる前にミラが答えた。


「大体8ぐらいらしいです。なので、とても魔法を放てるほどでは」

「は……は……ち……?」

「はい。あ、子供っていっても種族ごとにばらつきがあるそうなんで、大体6歳から12歳までだそうです」

「それって、小学生……の8%の魔力……しか、ないって……」

「しょ、しょうがくせい……?」


 知らない単語だったため、ミラにはユウマが何を言っているのか分からない。

 そんなミラが語った、異世界の子供を舐めるなと言わんばかりの説明。


 もっとも、ミラとしては何の悪気も無かった。

 むしろ何故ここまでユウマが熱くなっているのか、さっぱり理解できていなかった。


 酒麗神からユウマのいた世界に魔法は存在していないことを聞き、じゃあその世界の人にとって魔法は必要な存在じゃなかったんだ、とミラは素直に考えた。

 だからこそ、その世界の住人であるユウマが魔力を殆ど持てていないことに、ここまでショックを受けているのが不思議でしょうがなかった。


 ただ、ミラにはユウマがショックを受けていることは理解できている。

 ユウマが、座っていた石から崩れ落ち、地面に突っ伏したまま微動だにしなくなっているからだ。

 その体勢のまま、呪詛のようにブツブツと何かを呟いているが、ミラの耳までは届いていない。


 ミラがとりあえず励まそうとした時、ユウマががばっと身を起こした。


「な、なあ⁉ 増えたりは? 成長したら増えていくもんじゃないのか⁉」

「えっと、こっちの世界の人はそうですけど、ユウマ様は……その、おそらくですけど、ほぼほぼ増えないのではと」

「え……何、で?」


 石に座っているままのミラを、まるで王様のように地面から見上げるユウマ。

 罪悪感を覚えつつ、ミラが止めを刺した。


「えっと、『アレヴィエル』では昔から魔法が使われてきたので、世代を重ねる毎に魔法を使うことに向いた体質になっていきました。けど、ユウマ様の世界ではそもそも魔法が存在しないので……肉体自体、無理やり詰め込んだ魔力に適応しにくいのではないかと」


 ミラの説明が終わった。

 それにより、ユウマは魔法の異世界間格差に打ちのめされ、ぐうの音も出なくなっていた。

 おずおずと、ミラが羊皮紙の続きを読み上げ始める。


「あの……一応、続きを読みますね。

『追伸 『アレヴィエル』には魔道具というものが存在する。しかし、これは②③を必要としないだけで、①は必要なので結局のところ、どうせお主には使え――』」

「どうせって、どうせって何だよ⁉ 2回も言う必要ないだろ⁉」


 涙目になっていたユウマの叫びがミラの説明を遮った。

 ユウマとしては書いた本人である酒麗神に向けた言葉だったが、読み上げてしまったミラが慌てて謝る。


「す、すいません! つい読み上げるのに必死で……あの……これで全部です」


 だが、その言葉が届かない程に落胆した様子を見せているユウマ。

 ミラがおろおろしていると、ユウマが何かに気づいたように急に顔を上げた。

 

「あれ? けど、ミラを使えば全部の魔法を使いこなせるって酒麗神が……」


 ――全ての魔法を使うことができる――


 あの不思議な部屋で酒麗神が語った言葉が、ユウマの脳裏に浮かんでいた。

 さらにユウマは気になった点をミラに確認する。


「それに、さっきの説明だとほうきの神器って、魔法法則に従っていないってことか?」

「は、はい。さっきの神器は『タイラントストーム』を放てると言いましたけど、厳密には違います。①②③④の要素を用いずに、神器自身の力を使って『タイラントストーム』と同じ現象(⑤)を生じさせているだけなんです。生じる現象を、既存の魔法に合わせたほうが分かりやすいっていう配慮らしいです」

「神器を使って同じ現象を起こすってことか……けど、それだと魔法を使ったとはいえないよな?」

「いえない……んですかね」


 いえないだろ、とユウマは心の中で相槌を打った。

 ユウマは今までに色々なアニメや漫画を目にしている。その中には魔法を使う際に呪文詠唱の省略が可能だったり、スキルさえあればいいという設定もあった。


 しかし、絶対に共通する点。それは魔力を消費するということだった。

 魔力を使わないなんて魔法を使ったとはいえないだろ、とユウマは思いつつミラへ問いかけた。


「ミラもそうなのか?」

「いえ……私は神器の中でも特殊なタイプで、『特性』を発動させるためには『使用者』の魔力が必要なんです」

「特殊ってことは、珍しいのか?」

「はい、私以外聞いたことがないです」

「ひょっとして、そのせいで『降具』できなかったとか?」


 違うんです、とミラは首を横に振る。


「直接の原因は違います」

「じゃあ、何でだ? あらゆる魔法を使いこなせるって、すごい『特性』じゃないか」

「……私の『特性』は、『アレヴィエル』に存在する魔法のうちの1つを放つものなんですけど、何が放たれるかは選べないんです」

「選べないって……何の魔法が放たれるかわからないってことか?」


 ミラはコクリと頷き、さらに続けた。


「それに『特性』を発動させたら、『使用者』の全魔力を強制的に使用させるんです」


 『特性』を発動させるには全魔力が必要。しかも、発動させた結果、何が選ばれるか分からない。

 自分では使えない魔法かもしれないし、普通に使えた魔法かもしれない。

 的外れな魔法かもしれないし、一発逆転の魔法かもしれない。


 まさにミラクルショットだな、と合点がいったユウマだったが当然のごとく疑問が湧いてきた。


「何でそんな『特性』にしたんだ? 魔力を消費させなかったら、その、面白い『特性』なんじゃないのか」

「あの、私を創った神様は賭博神とばくしん様なんですけど……『ギャンブルにはチップが必要だろ?』って、言ってました……」

 

 賭博神とばくしん

 ここ『アレヴィエル』において、賭博を司り、あらゆるギャンブルを好む神。

 その賭博神の手にかかれば、『全ての魔法を使うことができる杖』すらも、1つのギャンブルとなる。

 全ての魔法を使うことが出来るとは、全ての魔法を使いこなせることに非ず。

 ミラの『特性』はそのことを如実に物語っていた。


 同じ手口に引っかかった、と次元を斬り裂けるというフレーズに深く考えもせずに食いついたユウマが溜め息をつく。

 だがすぐに気持ちを切り替えて、ミラに顔を向けた。


「魔法って何種類あるんだ? あとどんな魔法があるんだ?」

「全ての魔法は初級・中級・上級・超級のランクに分類されます。そして、火・水・風・土・氷・雷・光・闇の属性魔法に回復魔法、強化魔法、防御魔法、空間魔法、時間魔法、隷属魔法等の特殊魔法、複合魔法まで全部合わせて999種類です。戦闘で使いものになる魔法は一般的には中級以上とされています」

「999種類、か。結構多いんだな。けど、999分の1でさっきの魔法が選ばれるのか……」


 ユウマは口に手をやって、独り言のように呟く。

 その心中は複雑だった。

 魔法法則に従っていない点ではミラは他の神器と同じである。

 しかし、ミラは他の神器と異なり魔力を対価としている。


 魔法の在り方自体にはこだわりがないユウマとしては、自分の魔力を対価にしている以上、魔法を使っていると十分評価できるものだった。

 もっとも、そう思わないと自分が魔法を使えないことになってしまうという打算も、多少はあった。


 兎にも角にも、魔法を使ったといえるためにはミラを使うしかないが、ミラの『特性』から何の魔法が選ばれるかわからないという事態に陥っているのである。

 魔力がほとんどないユウマからすれば、贅沢とも思える悩みだ。

 そんな悩みに苦しんでいるユウマに、ミラが申し訳なさそうに口を開く。


「いえ、違うんです。どの魔法が選ばれるかは均一じゃなくて、ランクが上がるにつれて選ばれにくくなってるんです」

「ランクが上がるにつれて出現率が低くなるって……おい、それって、ガチャじゃん……どんな割合なんだ?」

「すいません、大まかにしか分からないんです。ただ、今のユウマ様が私を発動させると、99パーセント以上の確率で初級魔法が選ばれると思います」

「へ……?」


誤字、脱字、読みにくい等のご指摘を頂けると幸いですm(_ _)m

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