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~第2話~

 1つは120センチほどの剣。

 肉厚だが触れるだけで斬れそうな程に研ぎ澄まされた剣身。柄や鍔に施されたきらびやかな金細工が不思議な模様を彩っており、一見して値打ちものだと分かる。


 もう1つは40センチほどの金属製の短杖。材質は剣と同じ。

 上から下にかけて細くなっている杖身は、傷一つなく磨き上げられており、鈍い光沢を放っている。先端部分につけられた三日月形の装飾が異彩を放っていた。


 淡々とした口調で語った酒麗神しゅれいしんが説明を始める。


「まずは剣。その剣は『使用者』に超一流の技量を授け、その刃は次元を斬り裂く。次に杖。その杖を使えば『アレヴィエル』に存在する全ての魔法を使うことができる」 

「ちょ、超一流の剣士で、次元まで斬り裂けて、おまけに全部の魔法を使いこなせるって……!?」

「やってくれるか?」


 問いかけられたユウマはしばらく考え込んだ後、自分に言い聞かすかのようにウンウン頷いた。

 そして2人に顔を向けた。


「やらせて頂きます」


 その言葉をユウマが口にした途端、スイッチが入ったように酒麗神が満面の笑みを浮かべた。


「そうかそうか。やってくれるか」

「はい。あ、けどまだ聞いておきたいことがあるん――」

「では、早速向かってもらおうかの」


 言質は取ったと言わんばかりに酒麗神が言葉を被せ、転移神がスッと手をかざした。間髪入れずにユウマの体が光り出し、その光は徐々に強くなっていく。


「えっ、何だ、これ……⁉ ちょっ――」

「言ってなかったが言葉や文字は大丈夫じゃ。肉体を組成するときに脳をいじった」

「は? 脳を、いじった……って、え⁉」

「あと、創造神様にバレると強制終了じゃから、異世界人であることはもちろん、お主の世界の知識や技術も口外するな。そして、期限は創造神様が宝物庫の見回りをする約10年後じゃ」

「バレるって何⁉ 強制終了⁉ それに期限って後出しってレベ――」

「おかしくない服装、食料と水、多少の路銀も付けておいてやる」

「へ、あ、ありがとうございます。じゃなくてちょっとこれ止め――」


 その言葉を最後に、ユウマの体が完全に光に包まれた。そして、パッと光が消えた後には何も残っていなかった。

 静まり返った部屋に酒麗神の声が響く。


「ふぅ、やっと送りこめたの」

「ねぇ……。これ、ホントによかったの?」


 一仕事終えた解放感に包まれた様子の酒麗神に対して、転移神の表情はどこか浮かない。


「何がじゃ? 命が助かるチャンス、2つの神器、服、食料、水、路銀、言語、相手の了解、まさに至れり尽くせり。全ての女神が手本にすべき完全無欠、天下無双、超絶完璧な異世界転移ではないか」

「いや、だって」


 まるで知性を感じさせない台詞を自信満々に吐いた酒麗神。不安そうな顔を浮かべた転移神が答える。


「あなたじゃない。その打ち上げ役の神って」

「ん? そうじゃぞ。それがどうした?」


 酒麗神がケロッとした様子で答えた。


「あの異世界人の子、勘違いしてたわよ。あなたとその打ち上げ役の神は別人だって」

「なに? なぜじゃ?」

「……『打ち上げ役を任されておったものの手元が狂ってしまい』っていう部分、あの子『打ち上げ役を任されておった者の手元が狂ってしまい』って受け取ってたわよ」

「はぁ?」


 転移神の指摘に酒麗神が考え込む。しばらく考え込んだ後、はじき出された答えが酒麗神の口から告げられる。


「うむ。わしは悪くないな。何を勝手に勘違いをしておるのじゃ、あやつは。それにお主も分かっていたなら言わぬか」

「あんなに自信満々に説明する人が犯人だと思わないでしょ……それにあなたが口を出すなって言ったのよ」

「そうじゃったか? まあ、どうでもいいじゃろ」


 自信満々の表情を崩さない酒麗神に、転移神の口から小さな溜息が出る。


「それよりも第2段階完了じゃ。馬鹿共のせいで余計な手間じゃったわ。とっとと屋敷に戻って一杯やるぞ」

「私が悪い訳じゃないでしょ」

「わしも悪くない。全く、創造神様の言いつけも厄介なものじゃ」


 転移神と酒麗神の体が光に包まれ始め、その光が消え去った後に2人の姿はなかった。



―――――


 ルーベル王国の南西部に位置するフリクセル子爵領。その子爵領の中でも外れの方に位置するポッタ村から、さらに外れの村へと続く小さな街道近くの森に異変が起こった。


 森の中の今まで何も無かった空間に突如生まれた小さな光。

 その光は段々大きくなり、人1人包み込める程の大きさになった途端、消えてしまった。


「てくだ、さ……いぃぃぃ⁉」


 光が消えた跡にはユウマが立っており、現れてすぐに驚きの声を発した。

 自分の視界を遮っていた光が消えた途端、今までの白一色の無機質な部屋から一変して、陽光が降り注ぐ色のある景色へと放り出されたのだ。


 ユウマはしばらくの間そのまま固まっていたが、慌てた様子でキョロキョロしだした。

 だが、そんなことで何かが変わる訳がない。


「マジ、かよ」


 四方を取り囲むように生い茂る木々。

 植物や土の放つ強烈な自然の匂い。

 遠くから聞こえる鳥のような鳴き声。

 その全てが、ユウマをあざ笑うかのように圧倒的な存在感を放っていた。

 ユウマは否応なしにここが森の中であることを理解した。

 

「マジだよ、マジじゃん……。ヤバい……これ、マジのやつだ」


 マジとヤバいを散々呟いた後、ふと何かに気づいたようにユウマは自分の姿を見下ろした。

 ユウマの服装は黒のマント、オレンジ色の長袖のシャツ、黒の長ズボンという簡素だが動きやすそうな服装だ。


「言ってたやつか。ここって、異世界、なんだよな。じゃあ……」


 何かを決心したユウマが、右手を前に出して高らかに声を張った。


「ステータス・オープン!」




 とても、とても静かな時間が流れた。




「違うの、か? じゃあ、ステータス・ウィンド! ステータス! ウィンドウ・オープン! スキル・ウィンドウ! スキル・チェック⁉ スキル・オープン⁉」


 だが、一向に何も起こらない。焦りを伴い始めていたユウマの声が、森の中に虚しく響き渡るだけだった。


「無い世界、なのかよ。誰も居ない、よな……ん?」


 少し顔を赤らめたユウマが周りに誰もいないことを確認しようとした時、自分のすぐ後ろに置かれている物を発見した。


 中身が詰まっていそうなリュックと、リュックに立てかけられている2つの道具。

 酒麗神が授けると言っていた剣と杖の神器だ。


「あ、残りのやつか」


 手を伸ばそうとしたユウマの動きが、一瞬止まった。

 しかし、すぐに動き出して剣を手に取り、恐る恐る持ち上げてじっくりと観察する。


「やっぱ、実物って重いんだな。にしても……凄いな、この剣。確か、神器って――」


 好奇心に動かされたユウマがそう呟いた瞬間。


『何が凄いのだ?』


 そんな声が、ユウマの頭の中に直接届いた。

 

誤字、脱字、読みにくい等のご指摘を頂けると幸いですm(_ _)m

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