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宝物はあげない  作者: 白猫
4/4

あなたにあげるときにはこの花もきっと。

「ハッピバースデーハルちゃん!はいこれプレゼント」

「うわー、ありがとー!」

「あ、私もー!はいこれ!」

「うわうわ!本当ありがとうーなんか感動」

「って、ハルちゃんもくれたじゃない」

「大したものじゃないけどねー」


 誕生日前日、教室に入ると友達がプレゼントをくれた。リップとかマニキュアとかクッキーとか、小さくて可愛らしくて、掌の上に乗せて見ているだけで幸せになれる物。

 私も上げてたから交換みたいなものなんだけど、やっぱりいざ自分の番になったら凄く嬉しい。


「何々、中谷さん今日誕生日なんだ?」


 後ろの彼が私の肩越しに顔を出した。


「あ、おはよ。うん、今日じゃないんだけど、当日休みだから」

「へー、んじゃ、ちょっと待って、俺も…」

「え?」

「あった!はい、おっめでとー!ハルちゃん」

「わーありがとう!…なにこれ?」


 一応袋に入ってるけど…なんか汚れて…?


「知らん。昔服買ったらショップの人がくれた。ちっさいし多分女物じゃね?」

「それってゴミとか言わない…?」

「やだーそんな、い、け、ず☆いつかハルちゃんに上げようと思って鞄の中にずっと大事に取っておいたんだから☆」

「なんで唐突にオネェ」


 皆で笑って、私も笑って。

 彼が小さな包みを私の掌にのせたちょうどそのとき、扉が開く音がした。


「お、おはよー悠」


 後ろの席の彼が声をかける。私はそっと視線を反らす。それが私たちのルールでマナー。でも、その一瞬に見てしまった。駄目だと思いつつ反らした視線をもう一度ユウに向ける。

 ──ユウ?


「…………はよ」


 ……どうしたの、なんでそんな、苦しそうな顔…?

 

 常にない表情は、座っている私だけが見える角度で誰も気が付いてないようだ。心配のあまりにルールなんてぶっ飛んで声を掛けようと椅子から立ち上がりかけた。

 と、それよりも先に。


「せんせー呼んでる」

「……へ?」


 え?私?え?なになになになに?何でユウが私の手を掴んでるの?ここ教室だよユウ!?

 ポカンとする皆を横目に何が何だかさっぱり分からないまま、プレゼントを持っていた手首をぐいっと引っ張られ、私達はあっという間に教室を抜け出した。

 そのまま、碌に言葉もかけられないまま、ただ私を引っ張り続けるユウの背中を必死で追いかけた。





 ドォン、と低く鈍い音を立てて扉が閉まった。それはいつもの聞き慣れた音なのに、何故か今日は私の胸を強く締め付け落ち着かなくさせた。


 あと物理的に息が切れる、足ががくがくする。足の長さがね!違うからね!階段ダッシュは帰宅部にはキツイ。

 腕を掴む掌の火傷しそうな熱量とは裏腹に、ユウの背中は明らかに私を冷たく拒絶していた。

 私の息が整うくらいの時間が経っても、ユウは口を開こうとしなかった。


「…ど、どうしたのユウ。先生は?」

「お前あいつと付き合ってるのか」

「………へ?…あっ」


 それは突然といえば突然すぎる質問で。呆気にとられていたら、掌に握りしめたままだった包みをペイと取り上げられた。


「お前知ってんの?あいつ後輩と他校とバイト先の女全員に粉かけてて三股状態だってこと」


 マジか、凄いな後ろの彼。そのうち刺されるぞ。


「それで?四番目に落ち着いたってわけ?こんなもの貰って…こんな、の………なんだこれ?」

「鞄の中で絶賛発酵中だった用途不明のノベルティ」


 どうやらその小汚さに気が付いたらしい。剣呑だった視線が訝しむ様な物に変わる。


「なんでそんなもの誕生日にやるんだ…?」

「あーまぁその場のノリだからねぇ」


 今朝の会話の流れを簡単に説明する。すると、自分の勘違いに気が付いたのかユウが真っ赤になった。片手で隠してるけどお耳が見えてますよ、ユウさん。


「……」

「あはは、心配してくれたの?ありがとう。安心して、さすがにいくら私でも四番目の女はないわー」

「だってお前、彼氏からじゃない男からはプレゼント貰わないって…だからてっきり…」

「え?そんなこと言ったっけ?」

「言っただろ!」

「えー?いつ?」

「こないだ!放課後!絶対言った!」


 こないだって…あの日?


「まぁ確かに…」

「だろ?」

「でもニュアンスが違うくない?あれはユウがいきなりあんなこと言うから理由がないって言ったんであって…誕生日のプレゼントはまた別でしょう」


 もちろん高いのとかは別だけど。ささやかな、それこそ使わないノベルティとかなら男友達に貰うものとしては妥当だと思う。勘違いのしようがないって意味で。

 むしろ今回のはゴミを押し付けられたレベル…あれ?やっぱりなんかちょっと虚しいな!


「…………目だ」

「え?」

「あいつに物なんか貰ってんな!」 

「…え?」

「なんかすげーイライラする。俺からは受け取らない癖にあいつのは受け取ってるとか」

「ユウ?」

「分かってる、俺がこんなこと言うのおかしいって!でもそう思っちまうもんは仕方ないだろ?そもそも教室でもお前は隙が有り過ぎるんだよ!レンタルとか意味不明な理由で男に簡単にスマホを貸すな!かと言って一緒にゲームされて楽しそうに笑われてもすげーイライラするけど!……は…俺のなのにとか、全部、俺が…やり方とか一から全部教えたのにとか、いろいろ…」

「………」


 怒りよりも羞恥が勝って来たのか、だんだんと口調に勢いが無くなっていく。顔を赤らめ羞恥で口を歪ませているユウに、突然何?とは言えなかった。だってそれは私がユウに常々思っていたことで。でもまさかユウも同じように思ってくれてたなんて。次々に告げられる言葉に胸の奥から何かが込み上げてくる。


「…きなんだよ!お前と、ここで一緒にゲームして過ごすのが!すげぇ大事だから、…誰にも邪魔されたくない」

「…うん」


 また一緒。凄い、嬉しい。嬉し過ぎて泣いてしまいそうだ。


「馬鹿みたいな独占欲だって分かってる。でも…それが本音。俺は…のこと独り占め、したい」

「うん、いいよ」

「…マジで?」

「うん、マジで!ていうか元々ユウのモノみたいなもんじゃない?」


 へへへ、って笑ったら。ユウも強張らせていた顔をますます赤くさせて、ははって、照れながらも凄く優しく笑った。

 それは教室で見てた、クールぶって唇の端だけ歪めてるような変な顔じゃなく、いつも屋上で見てた、あの心底嬉しそうな、幸せそうな、私の一番好きな顔。


「ハル…」


 その笑顔に思わず見惚れていたら、いつの間にかユウの顔がやたら近くにあった。元々煩かった心臓がより大きく音を立てる。慌てて一歩後ろに下がった。


 …っぶな!なんか今顔がぶつかりそうじゃなかった?し、心臓が止まるかと思った…。

 赤くなってしまった頬を俯いて隠し、ごまかすように必死で口を開いた。


「そ、それにしても!ユウってば本気で惚れ込んでるよね!まぁあの嵌り様だもんねー」

「……え?」

「まぁ、ユウにだったら別に譲っても構わないんだけど…でもお兄にバレたら煩いし…あっ、でももう仕事忙しくてゲームなんてする暇ないかも」

「………は?何言って…?」

「え?何言ってって…これでしょ?」


 そういってスマホをプラプラと振ってみる。ユウが今熱く愛を語った私のキャラボックス。なんせ神レベル。


「……っ!?ち、ちがっ!!」

「そんなに恥ずかしがらなくても。ユウがこのゲーム愛しちゃってるのなんかとっくに知ってるってば。好きだから独占したいってのあるもんねー。うんうん」


 お気に入りの物を他人に弄られたくないっていうのは誰しもが持つ自然な感情だ。確かに持ち主は私だけど、経験値やら強化素材やらを共闘しながらちまちまちまちま時間かけて手に入れて、全キャラを鍛え上げてくれているのは実質ユウだ。そりゃ愛情も一入だろう。


 そっかそっか、そんなに熱く独占欲愛を語っちゃうほど大事にしてくれてたのか。確かにこれはもう私だけのものじゃないよね。そう言えばお兄もよく語ってたもんなー、ゲームのレベル上げには、他人とは分かりあえない孤独と忍耐と時折襲い来る強烈な虚しさを乗り越えた先にそれはもう素晴らしい達成感があるんだって。言うなれば既にこのボックスにはユウの魂が染み込んでるってヤツ?なのに私ってば人に簡単に貸しちゃったりなんかして、悪いことしちゃったな。


 他の人には悪いけど、これからはお兄に言われたっていってスマホを貸すの断ろう。確かにちょっと嫌だったんだよね。いろんな人にスマホ触られるの。自意識過剰ぽくて言い出せなかったんだけど、ユウが言ってくれて良かった。


「はぁーー!?違うっつってんだろお前ちゃんと人の話聞いてたのかよ!てか、前に言っただろ!お前のボックスなんかなくても全然余裕だって!」

「えー?今更そんなカッコつけなくても。ちゃーんと分かってるってば!「俺の」何でしょ?」

「だーかーらーーー!!それはっ……!」

「あれー?違うの?じゃあ削除しちゃってもいいんだ?このアプリ」

「……っく」

「ほらほらー♪」


 私の言葉にユウが目を白黒させる。もう、素直になればいいのに。ここまでこっぱずかしい事言ったんだからさ。

 まぁゲームに飽きたら黒歴史だよね。いや、そんなことは言わないけどね?今のところその兆候は無さそうだし。


「あははー面白、おなか痛い。いいよー、そこまで熱く愛を語ってくれたユウ様には、コレの独占権を差し上げまーす」

「……ヤバい、なんだろうこの腹の底から沸々と湧いてくるドス黒いもんは…無性に目の前の奴を泣かせたくて仕方ない…」

「あれ?いらない?」

「…………いる」

「でしょ?」


 だって、元々ユウのモノ、みたいなもんだからね!


「私も好きだよ」

「っ、」

「ユウとここでゲームするの。とっても『大事』で『誰に邪魔されたくない』、かな」


 散々からかってしまったお詫びにと、私もユウの言葉を借りて真面目に熱い友情を語ってみた。ユウにばっかり恥をかかせるのも可哀想だしね。

 これでお相子、と胸を貼って言い切ったら、ユウは逆に顔どころか全身を真っ赤にさせて呻き声を上げながら蹲ってしまった。…あれ?逆効果?トドメさしちゃった感じ?


 …まぁでもこれぐらいは許されるよね?年頃の女の子に向かって勘違いしそうな事ばっかり言うんだから。私じゃなかったら絶対に勘違いするレベルの口説き文句。ユウは絶対後ろの彼の事言えないと思う。


「………まぁ、とりあえずは…それで」

「とりあえず?」

「…何でもない。マジ覚えてろよ…そのうち絶対…」


 なんだかぶつぶつと忙しそうなので、私は適当に画面を弄る。あ、ログインボーナスでコイン貯まった。ガチャでも回すか。


「えいっ…あー…?」

「…ちょ、おま、人がかつてないほどの羞恥にのた打ち回ってる横でガチャ回すとかどんな鬼……は?え?はぁぁぁ!?おい、それこないだのぶっ壊れキャラ…はぁぁぁぁ?何で?ありえねぇ!こないだ当たっただろ!?」

「うん、三つ目ー」

「みっ!?……もうこいつマジでどうしてくれよう…って、ちょっと待てっ!なんで合成画面開けてんだよ!お前まさかとは思うがソレ素材にする気じゃ……?馬鹿か?馬鹿なのか?」

「えっ?でももう同じのあるよ?三つもいるっけ?」

「馬鹿ヤロー!それぐらいなら俺に回せ!!」








 ユウは完全に忘れてる。去年のバレンタインに私が告白してチョコと手紙を手渡したこと。

 ユウは女の子にモテるから、きっと面識のない私の想いなんか、他の子に紛れちゃったのかな。


 生徒名簿で名前を見つけて、偶々すれ違い様に誰かが呼んだ名前でその姿を知った。

 背が高くて、声も低くて、髪も真黒で硬そうで、何だかちょっと怖そうな人だと思った。同じ「ナカタニ」でも、小さ目ですこし丸っこくてどこかポヤポヤしてる家の男性陣とは偉い違うなってこっそり笑った。

 一度認識してしまうとやたらと目についた。サッカー部に入ったんだとか、リレーに出るんだとか、数学が得意なんだとか、どちらかというと無口な質なんだとかそういうちょっとしたこと。

 そのちょっとしたことを集めるのがだんだん楽しくなった。そしていつの間にか小さな種になった。

 集めすぎて溢れた種は私の心のよくわからない場所にパラパラと蒔かれて、気付いた時にはそこかしこに芽が息吹を上げていた。


 ある日ふと視線を向けた先で、彼が馬鹿みたいに顔をくしゃくしゃにして笑ってた。

 衝撃だった。知らなかった。笑い方一つでこんなに心臓がざわつくなんて。


 何があったんだろう、何を話してるんだろう、誰を見ているんだろう、何を考えているんだろう、また見たい、またああやって笑ってるところを──気付けば毎日せっせと芽に水遣りしていた。


 上手く行くだなんて思ってなかった、でもせめて、私を知っていて欲しかった。


 返事が無い事が返事だと、忘れようと諦めようと水遣りを止めた。たくさんの芽が緩やかに萎れてまた種に戻っていくのがただ悲しかった。せめて最後まではと、集めた種を掌の上で愛で慈しみ眺めていたら、予想外にも同じクラスになって心臓のざわつきを止められなくて。喜びに震え過ぎたのか、枯れたはずの種は水遣りもしてないのに勝手にすくすく育ち、とうとう蕾まで付けてしまった。


 そしてあの日、出会ってしまった。知ってしまった。


 私にとって何でもないこれが、ユウにとっての宝物だってこと。

 普段の教室では滅多に見せてくれない笑顔が、私が堕ちたあの子供のような無邪気な笑顔が、ここに来れば出血大サービス見放題だってこと。


 ギャップ怖い、プルプルより怖い。普段クールぶってるから余計に攻撃力が凄まじいのよ。人が必死で死守していた蕾を一瞬で花開かせるくらいに。

 ユウといる時には不意打ちには十分に備えるようにしてる。それでも、些細なことで鼓動が激しく打つから、痛いわ煩いわ花はどんどこ咲くわ蔓まで伸ばして侵食するわと手に負えない。


 言葉を交わして、笑みを交わして、同じ時を過ごして。

 見ていただけの時には分からなかった事も知ることが出来た。


 基本上から目線でいつも私の事馬鹿にするし、人の境界線キパって引いてる外面大王だし、小姑並みにお小言大好きで煩いし、口は悪いし、性格も悪いし、顔もムスッとしてると凄く怖いし、あれ?いいとこどこ行った。

 ふふふ、でも好きなことには周りが見えなくなるくらいド嵌りしちゃって凄く可愛い。

 ゲームも勿論、サッカーだって同じぐらい好きだってことも、豪胆な振りしてもやるべきことはきちんとやらないと気が済まない真面目なところも、私を誘うときにはちゃーんとよく見て暇そうにしてる時だけだってことも、私が楽しんでるかいっつも気にしてるところも、私が座る前にはいつも丁寧に埃を払ってくれることも。


 花はひっそりと、ただ私だけに甘く芳しく咲き乱れた。そして伸びた蔓はとうとう丸ごと全部覆いつくして、私の柔らかいところにどっしりと根を下ろしてしまった。


 本当びっくり、抑えようとしても全然止まらない、もう笑うしかない。


 大輪の花は、摘んでも摘んでもしぶとくまた蕾をつける。そりゃ当然、ユウの言葉一つ、笑顔一つが私の中で全て蕾に代わるんだから。


 ユウはきっと思い出さない。それでいい。

 今更、どの面下げて言えっての、ねぇ?実は昔、あなたに一目惚れして、思い悩んだ余りに面識なく告って、案の定あっさり振られてしまって、尚且つその告白すらも忘れ去られてしまいましたーって。

 これ以上ないってくらいキッパリとした振られ方。無意識だからこそ重い、リベンジを願う余地も無い。むしろ墓まで持っていくレベル。気まずいにも程があるでしょ?絶対バレたくない!


 本当は分かってる。さっさと離れて次の人を見つけた方がいいって。ボックスなんて熨斗付けて上げてしまったらいいって。


 けど、誰に望まれなくてもこの花はとても綺麗で。泣きたくなるくらい本当に綺麗に咲いてるから。

 せめて私ぐらいはもう少しだけこのまま、この景色を眺めていたいんだ。

 


 だから、ね。


 いずれこの花達が全て上手に枯れるまで。


 しょうがないから貸してあげるね、私の宝物。


 




そのうち気付いて悶々とすればいいと思うの(*'ω'*)


拙作をお読み頂きありがとうございました。

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