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beloved ZONE  作者: 鶏の唐揚げ
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【七】

【七】


 練習後に柊人との自主練を終えた李々香は、帰ってすぐにお風呂へ入る。

 今日は柊人の初練習の日で、その初練習で柊人のパスから、Aチーム相手に一点を決めた。

 あの時、あのプレイの直前、柊人と目が合った李々香は、柊人が必ず前のオープンスペースに向けてパスを出すことが分かった。そして、そのオープンスペースへ走り込んでパスを受けなければいけないと思った。

 李々香と柊人の目が合ったのはほんの一瞬。その後、柊人にボールが渡った瞬間に、李々香は走り出していた。

 柊人から送られてきたパスは、ノールックのヒールパス。李々香を振り返ることなく踵で蹴り出されたそのパスは、李々香のコントロールし易い距離へ的確に送られてきた。

 そして柊人と練習していたファーストタッチコントロール。柊人に「ファーストタッチコントロールは、まずちゃんと周りの状況を確認することからだ。周りに居る選手の位置をしっかり確認してから出す位置を判断しろ」とアドバイスを受けていた。

 李々香はそのアドバイスをきちんと守り、真正面から近付くディフェンダーをよく見ていた。そして、構えるディフェンダーの股が大きく空いているのも。

 李々香は思わずその時のことを思い出して、喜びに我慢出来ず湯船に溜まったお湯の水面をバシャバシャと叩く。

 綺麗に決まった股抜き。唖然とするディフェンダー。周囲の驚いた声。そして、右足を振り抜いて放ったシュートがゴールへ突き刺さった光景。思い出しただけで喜びが湧き上がってくる。

 でも、李々香にとっては、柊人と目線だけでの意思の疎通、アイコンタクトが出来たことが嬉しかった。

 アイコンタクトは、言葉やジェスチャーを使わない、目線のみで互いの考えてることを伝え合うコミュニケーション方法。だが、言葉とジェスチャーを使わないため、互いの考えやプレイの特徴を十分理解し合っていないと成功しない。それが李々香は一番嬉しかった。

「柊人はどうだったのかな……。も、もちろん上手くいって良かったってことだけどね!」

 一瞬、自分とアイコンタクトが取れたことについての柊人の気持ちを考え、それに何とも言い難い気恥ずかしさを感じた李々香は、自分以外居ない浴室で首を振り、頭に浮かんだそれを別の話題にすり替える。そして李々香は、長風呂で妙に火照った体を冷やすため、若干慌てながら湯船から上がった。


 柊人は困っていた。

 次の日、部活の休憩中、リフティングをしていた柊人には、Bチームの面々からの視線が向けられている。そして、少し離れた所に居るAチームの面々からも視線を注がれ、どうしようもない居心地の悪さを柊人は感じていた。しかしそれが、露骨に柊人を嫌悪するものではなく、柊人に興味を示す視線で、その今まで感じたことのない部員からの視線に柊人は眉をひそめる。

「柊人のリフティングって、何を見て勉強してるの?」

 給水を終えた李々香がボールを持って駆け寄って尋ねる。その李々香にリフティングを続けながら柊人は答える。

「ネットでフリースタイルフットボールの動画見て、カッコいい技があったら真似する感じかな。最初は全然出来なかったけど、やり続けて出来るようになって、それが嬉しくて次の技をって感じ」

「私にも出来るかなー」

「練習すれば出来るようになるさ。リフティングしてればボールタッチの練習にもなるし、自然と自分の扱いたい位置にボールをコントロール出来るようになる。ああ、これは言ったな」

「うん。でも、リフティングはやるようにしてるけど、そんな技みたいなのはやってないから。私もやってみよう!」

 柊人の技を見て、李々香は見よう見まねで技をやってみる。しかし上手く足が回らずボールはあさっての方向に飛んで行く。

 そんな李々香と柊人を遠巻きに見ながら、恋は言葉を吐き捨てた。

「あんな大道芸が出来たって、実戦じゃ何の役にも立たない」

 恋の言葉に反応を示す部員は居なかった。

 昨日のミニゲームから、柊人の評価はガラリと変わった。それは好意的な方向へであり、それに反するように恋の存在は希薄になっていく。

 恋は手に持っていた給水ボトルを恋は握り潰す。

 サッカー部全員が羨む圧倒的な技術に、男として羨む女子からの人気と可愛い彼女。それらを、柊人のせいで潰された。そう恋は思っていた。だが、技術が足りなかったのも、李々香に振られたのも、柊人の責任ではない。全て、恋のおごりと自分勝手さが招いたことだ。

 今や、不動の司令塔、サッカー部の頂点、その恋が座っていた席も、足元がグラグラと揺れていつ崩れ落ちてもおかしくない状況だった。

 恋は近くにあったボールを蹴り、クロスバーに当てて跳ね返らせる。その跳ね返って来たボールからリフティングを始め、合間にまたボールをクロスバーに当ててリフティングをするというのを繰り返した。明らかにリフティングで注目を集める柊人への対抗。

「やっぱ、櫻井はすげえな」

 Aチームの一人からその声が上がり周囲の視線を集めていることを感じて、恋は勝ち誇った表情を柊人に向けた。しかし、恋が視線を向けた柊人は、まだ完璧に出来ないリフティングの技を練習し、首を傾げながら考えていた。全く、恋に視線も意識も向けていなかったのだ。

 それに苛立って恋はクロスバーに強くボールを蹴る。そして強く跳ね返って来たボールに合わせて左足を振り抜き、ゴール中央へ蹴り込んだ。

 恋を見に来た制服姿の女子から拍手が起こり、AチームやBチームの面々からも羨望の視線を向けられる。でも、それでも、グラウンドの端でひょうひょうとリフティングをする柊人の姿が目に焼き付き、全く気分が晴れないどころか、さっきよりも気分は悪くなった。


 ミニゲーム開始直後、ボールを受けた柊人は強烈なショルダーチャージを受ける。自分よりも体格の良い恋からのチャージを受けながらも、何とかボールを落ち着かせてサイドへボールをはたく。

 AチームとBチームのメンバーを混ぜてのミニゲーム。AとBのメンバーを混ぜてミニゲームを行う場合は釜田がメンバーを分ける以外に、AとBのキャプテンがじゃんけんし、勝った方から交互に自分のチームに欲しい選手を指名して選んでいく方法がある。今日のメンバー決めは、後者のやり方だった。

 そして、そのメンバー決めで恋の不機嫌はピークに達していた。自分が指名されたのが二番目だったからだ。

 ミニゲームと言っても、負けるより勝った方が良いに決まっている。だから、メンバーを選ぶ両キャプテンは自分のチームを勝てるチームにするために、自分のチームに上手い部員を集めたがる。

 今までは、恋が居るか居ないかでほぼミニゲームの結果が決まっていたため、事実上、恋を取れれば勝ちになっていた。だが今回は、一番に選ばれたのは恋ではなく、柊人だった。

 それは恋にとって相当に屈辱的なことだった。チームメイトから、チームを束ねるキャプテンから暗に言われたのだ。「お前は二番だ」と。だから、不機嫌がピークに達した恋は、柊人に対して厳しいチェックをする。それをかわされていることにも、不機嫌さは増していた。

 ボールを持った瞬間、恋は間髪入れずすぐに右サイドに出来たスペースへボールを出す。だが、出されたボールをいつもBチームでプレイする二年が追い掛けるが、触ることが出来ずにタッチラインを割ってしまう。

「動き出しが遅い! 何考えてプレイしてるんだ! ちょっとは頭を使え!」

「ご、ごめん」

 ボールに追い付けなかった二年を怒鳴り散らし、怒鳴られた二年は言い返すことも出来ずに俯いて謝るしかない。

「櫻井と雪村チェンジ」

 いつの間にか仕事を終えて部活に顔を出していた釜田が、大きな声でそう告げる。柊人の返事が聞こえて、恋は黙ってポジションを入れ替える。

 ポジションを入れ替えてから、幾分機嫌が持ち直してきた。Aのキャプテンが集めたメンバーには、両サイドがレギュラーの選手で固められている。だから、さっきよりも恋のパスが通りやすくなっていたからだ。

 視線の先で柊人がボールをキープして前を向く。しかし、すぐにパスを出そうとせず、目の前選手をキックフェイントでかわしてから右サイドへパスを出した。

「テンポが遅過ぎる」

 せっかく中盤で奪えてショートカウンターに繋げられたボールを、無駄に一人抜くということで、こちら側にカウンターへ備える時間を少しでも与えた。そのミスは自分のテクニックに固執したからだと、恋は笑う。しかし、その笑みはすぐに消えた。

 柊人が右サイドに出したパスは、右サイドを駆け上がった選手に渡る。そして、その右サイドの選手が放り込んだクロスボールを、中央に上がった選手がヘディングで合わせて得点に繋がった。

「おい! なんでさっきそのプレイをしなかった! まさか、さっきは手を抜いてたのか!」

 今の攻撃は、さっき恋が柊人のポジションに居た時は成功しなかった形だ。しかし、柊人に替わった途端、それがちゃんとした形になり、得点に繋がった。それは恋からすれば、右サイドの二年が自分の時に手を抜いていたとしか思えなかった。

「い、いや普通に何時も通りやってた」

「そんな馬鹿な話はあるか! さっきは追い付けもしなかっただろうが」

「櫻井、大平と替われ」

「クソッ!」

 地面を蹴って不服を示しながら、釜田の指示に従う。そして釜田の横を通り過ぎた時、追い付いた釜田の声が聞こえた。

「頭を少し冷やせ。頭に血が上りすぎだ」

 その言葉を聞きながら、恋は給水ボトルを乱暴に掴んで中のドリンクを飲む。

 柊人からのパスを受けて得点に繋がったクロスを上げた二年。彼は、彼の主張通り恋の時に手を抜いていた訳ではない。ましてや、柊人の時にいつも以上に速く動けていた訳ではない。二つの状況で異なっていたのは、パスの出されたタイミングだ。

 恋はボールを持ってすぐに、予め確認していた右サイドへボールを放り込んだ。そのボールは、レギュラーでスタミナもあり足も速い、いつも恋のパスを受けている選手なら繋がったパスだった。だが、ボールを今回受けていたのはレギュラーよりもスピードもスタミナも技術も劣るBチームの選手だった。それに、恋のパスを出すタイミングも、熟知している訳ではない。

 対する柊人は、予め右サイドにスペースがあるのは確認していた。だが、まだ右サイドの選手が走り出していなかったため、ボールをキープして走り出すための溜めを作り出したのだ。

 恋からすれば余計な時間を使うスタンドプレイに見えた。しかし、選手がスペースに走り込む時間を作る重要なプレイだった。だから、恋の時は繋がらず、柊人の時は繋がった。

 それは以前までの、特に世代別代表の選考合宿に行く前の恋なら、すぐに気付いて修正も出来ていた。だが柊人を意識し、今日を含めここ最近は特に、頭に血を上らせてばかりだった恋には気付けなかった。

 チラリと恋が視線を向けた先には、真面目な表情でプレイをする柊人の姿があった。


 練習終わり、一年だけが集められ、釜田が一年全員を見渡して両手を組んだ。

「来月の第一週の末に新人戦がある。これは新一年のみで構成されたチームで戦う公式戦だ。全国や地区大会のない、県大会で終わる試合だが、同年代との実力差を比べられるいい機会だ。優勝する気でやれ。それと、この新人戦だが、顧問は一切手出しが出来ない」

「「「えっ?」」」

 釜田の言葉に、柊人以外の一年全員が驚く。

 新人戦に顧問が手出し出来ない、というのは、試合中ベンチに入れないという意味だ。だが、それは監督不在を意味する。

 新人戦では、選手達の自主性を育むためとして、試合中に監督からの指示が一切出せない。だから交代のタイミングはもちろん自分達で考えなければいけないし、試合中のポジション変更等の戦術も自分達で考えなければいけない。

「一応、ライン際に立って見ることは出来る。怪我をした時みたいな緊急時も手を貸すことは出来る。だが、それ以外は自分達でやるんだ。言っておくが、明日から一年だけで練習しろ。練習にも俺は口は出さない。今週末の練習試合も一年だけのチームでやる」

 しかし、入部して一、二ヶ月しか経っていない一年にはかなり困難な状況だ。一からフォーメーションを考えて戦術を組み立てるのは難易度が高い。

「だが、一年にいきなりフォーメーションを考えて戦術を組めと言っても、無理だろうな。実際、今の三年も二年もフォーメーションと戦術に関しては俺が指示した。しかし、今年は戦術面に関しては適任者が居る」

 釜田からチラリと視線を向けられた柊人は、無表情で釜田を見返す。

「戦術担当は雪村にやらせようと思う。異論のある奴は居るか?」

 一年全員に釜田が尋ねるが、誰からも異論は出なかった。それを肯定とみなした釜田は次に李々香に視線を向けた。

「次にキャプテンは春海、お前だ」

「わっ、私ですか!?」

 いきなり名前を呼ばれた李々香は、体をビクッと跳ね上げ、若干裏返った声を上げる。

「あ、あの、柊人じゃないんですか?」

「言っちゃ悪いが、雪村にキャプテンは無理だ。こんな何考えてるか分からん奴に纏められる身にもなってみろ。チームで一番上手いからと言ってキャプテンが務まるものじゃない。その点、春海は行動力もあるしよく声も出している。俺は一年のキャプテンとしては春海が適任だと思う。よって春海がキャプテンだ」

 その言葉にも一年全員から異論は出なかった。無言の多数決で、李々香は一年チームのキャプテンに決定した。

「話は以上だ。解散」

 釜田に解散を告げられて、呆然とする一年の中で、スッと柊人が立ち上がり、みんなから離れて用具の片付けを始める。

「しゅ、柊人!? 何してるの?」

 戸惑った表情で尋ねる李々香に、ボールを脇に抱えた柊人は、特に動揺した表情も浮かべず至って普通な表情で口にする。

「何って、片付けに決まってるだろ。下校時間を過ぎるぞ」

 そのマイペースな言動と行動に、一年全員が釜田の言葉を納得した。

 確かに何を考えてるか分からない、と。


 次の日の部活で、柊人は釜田から借りた作戦盤を片手に、練習をする一年を眺める。そして、作戦盤にくっ付いたマグネットを並べ、首を傾げて並べ替える。それを何度も繰り返していた。そしてやっと手を止めた柊人が李々香に声を掛ける。

「春海、フォーメーションと大まかな戦術が決まった」

「みんな! ちょっと集合!」

 柊人の言葉を聞いた李々香が一年を集める。そして、全員が集まるのを確認すると、柊人が李々香に作戦盤を差し出した。差し出された作戦盤を受け取ろうとした李々香が、ハッとした表情になり作戦盤を柊人に押し返す。

「柊人が説明してくれないと、私じゃ分からないよ!」

 人前で話すのが苦手な柊人は露骨に嫌そうな顔をしながらも、渋々と言った感じで全員に作戦盤を向ける。

「四―二―二―二でいく」

 フラット型のディフェンダー四人と、守備的ミッドフィルダーが二人、サイドに開いた攻撃的ミッドフィルダーが二人、そして横に並んだフォワードが二人のフォーメーション。

 この四―ニ―ニ―ニは、四―四―ニの派生型フォーメーションで、単純にミッドフィルダーをフラットに配置する四―四―ニがサイド攻撃に特化しているのに対して、四―ニ―ニ―ニはサイド攻撃、中央攻撃の両方に適している。

「…………柊人、続きは?」

「続きと言われてもな。基本的にはAが主流で使ってるサイド攻撃を主軸に行こうと思う。場合によっては、センター攻撃を試してもいいかもしれない。後は中盤は大変だ、くらいしか言いようがない。特にサイドに開いてる攻撃的ミッドフィルダーは運動量が多くなる」

 そこまで言うと、柊人は李々香に視線を向けた。柊人から視線をもらった李々香は照れと困りが混ざった笑みを浮かべ、柊人に視線を返す。

「と、とりあえず、そのフォーメーションに並んで役割とか色々確認しようか」


 柊人はタッチライン際に立ち、二、三年チームにこてんぱんにやられる一年チームを見詰めていた。

 体格も技術も劣る一年が二、三年に簡単に勝てるわけがないのは当然だ。そして、今日からやり始めたフォーメーションと戦術がすぐに機能するわけがないのも分かっていた。

「どうだ雪村」

「見ての通りですね」

「まあ、初日はこんなものだろうな」

 ざっと眺める釜田は、セントラルミッドフィルダーの選手を見て顎に手を置いて籠もった唸り声を漏らす。

「うーん、小田原(おだわらがキツそうだな」

「そうですね。でも、体格が上の二年、三年相手にあれだけ当たられてもなんとかやれてますし、一年相手では多少厳しく当たられても大丈夫だと思います」

 中央で攻撃の組み立てを行うセントラルミッドフィルダーの小田原は、二、三年から厳しいプレッシャーに晒されていた。しかし、柊人の言う通り厳しく当たられてボールを取られる場面もあるが、上手くボールをキープしてサイドにパスを出せている場面もある。柊人が一年にしては身長も高く体格の良い小田原をセントラルミッドフィルダーに配置したのは、強く当たられてもボールキープが出来る選手が適しているからだ。

「で? なんで雪村は出てないんだ」

「木村が右サイドをやりたいと言うので。後半は俺が入りますけど」

 一年の木村は、部員の中で特に李々香に強い想いを寄せている一年だ。だから、攻撃時に右トップの李々香と連携を取ることが多い右サイドミッドフィルダーを希望した。だがしかし……。

「木村はゴールキーパーだろう」

「そうは言われても、やりたいと言われればやらせるしか。それにフィールドプレイヤーをするのもいいことだとは思いますし」

「まあな」

 二人で木村のプレイを眺める。キーパーをやっていてフィジカルが強いからか、二、三年相手のフィジカルコンタクトにもなかなか対応出来ている。パスの技術はまずまず。だが、何分ドリブル突破力が壊滅的な域に達している。

 スタミナは十分あるようだが、サイドを切り崩す能力が絶望的なため、右サイドがほとんど機能していない。

「右サイドは別の奴だな。木村じゃこなせん」

「でもこだわってますし……」

「適性というものがあるからな」

「では、後で春海に言ってもらいます」

「なんで雪村が言わないんだ。戦術担当はお前だろう」

 釜田に尋ねられた柊人は何時も通りの真面目な顔を釜田に返して言った。

「ミニゲームの前に、両サイドの攻撃的ミッドフィルダーは、運動量が豊富でなければいけなく、ドリブル突破やクロス等のパスで攻撃を組み立てる必要がある。木村にはその適性が無いから右サイドには向いていない。と言ったら、バカにするなと怒られました」

 柊人の真面目な話を聞いて、釜田は腹を抱えて大きな笑い声を上げる。それを見た柊人は内心、笑いごとではないと思っていた。

「バカ正直に適性を説明してどうする」

「適性を説明しないと分からないでしょう」

「適性を説明されて、その適性が無いと言われれば、お前は下手くそだから向いてないと取るに決まってるだろう」

「俺は別にそういう意味で言った訳ではないんですが……。確かにフィールドプレイヤーとしては適性がありませんが、一対一の飛び出しや、ハイボールでの競り合いでは思いっきりの良さとガッツがあります。十分、キーパーとしては上手いと――」

「全く、お前も不器用な奴だな」

 柊人の話を遮った釜田は、ポンポンと柊人の肩を叩きニヤッと笑みを浮かべた。柊人は、その人を食ったような笑みに、なんだか居心地の悪さを感じて顔をしかめた。

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