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黒炎の勇者の似非物語  作者: 勇者くん
4/10

第三説 旅支度

「っしょっと……まあこんなところかな?」



 ある程度冒険に必要と思われる荷物を確保すると、散らかった部屋を見て満足気に一息つく。何せいくら散らかしても、面倒な後片付けはじじいがやってくれるからである。



 部屋を抜けて階段を降り、新品同様の革靴を履いて扉を開ける。差し込む光が目に映り込み、眩しさに一瞬目を瞑ると薄っすらと瞳を開く。



 トラゼウスの呼び出し意外で自ら外に足を踏み入れたのは、一体何年ぶりだろうか。


 半強制的なじじいの命令で外に出たのに変わりは無い。ただそれでも、この一歩を私は望んでいたのだろう。

 憂鬱だった気分が嘘のように消え、今では先に待ち受ける世界がどんなのかを想像した途端、鼓動の高まりを私は確かに感じた。



「さて…と。じゃあ………いってきます」



 小さな私だけの箱庭を見つめ、小さくお辞儀をする。別に名残惜しくは無い。それでも長年の時を共に過ごした部屋を後に去るのは、少し寂しく感じられた。



「……それじゃー別れの挨拶も済ませたことだし、いっちょいこうじゃない」



 顔を横に向けると、しばらく歩いた先にある巨大な扉へ目掛けて歩き出す。

 辿り着くと見張りの兵士が開門の声を上げ、次第に扉が開いていく。その初めて瞳に映り込んだ遥か広がる無限の世界を見据え_





「私の新たな冒険ものがたりを始めに…ね」





 _私は小さく微笑を浮かべた。














…・…・…














「……報告します。アルス・レイラ様がつい先ほどこの国から旅立ちになされました」

「……そうか…」



 膝を突き、頭を垂れて状況を報告したパウロを見つめると、トラゼウスは覇気の無い返事を返して小さく肩を下ろした。



 パウロは元気を失った様子のトラゼウスが心配になり、レイラが旅立ったとされる方角に顔を向けると口を開く。



「……やはりレイラ様には戻るようお伝えてして…」

「…それはならん」

「…何故です?……何故トラゼウス様は…レイラ様を危険な道へ進むよう促したのですか?…あれほどまでにレイラ様の事を大事に慕っていらっしゃったではありませんか」



 パウロは普段からトラゼウスの右腕として傍に置かれていた。その為、トラゼウスがどれだけレイラを大事に思っていたのかを、パウロは初めの頃から知っている。



「だというのに……私にはトラゼウス様の考えが理解できません…」



 トラゼウスの表情からは普段と変わらない愛想や風格が感じ取れる。しかし、パウロだけが長い間傍で連れ添っていたからこそ、ほんの微かな表情の変化で、トラゼウスが今どんな心境でいるのかが分かる。


 分かっているからこそ、その行動の意図が掴めない。



「…………パウロ…。お主は確か……ワシの傍に仕えもう5年の月日が流れるな…」



 しばし黙り込んでいたトラゼウスは口を開くが、切り出した内容はパウロの質問とは全く関係性の無い話だった。


 パウロはその突拍子の無いトラゼウスの発言に、何かを言い掛けて口を紡ぐ。



「………そう…ですが……それがどうか致しましたか…?」

「……この国の勇者として、お主を任命したいと思っておる」

「それは……レイラ様にはもう手配してあると申しておりましたが…私の事でしたか…。トラゼウス様がそう望むのであれば、私は一向に構いません」



 手を胸に当て、再び頭を垂れる。

 しばらくして、パウロは自身の『≪ステータス≫』を開いて状態を確認する。種族は『王族』から『勇者』へと確かに変化していた。



「……それで、しつこいようですが、何故レイラ様を…」

「…………パウロ…。ワシはお主を信用しておる」

「……光栄です…しかしそれは…」

「…ワシは近いうち、お主にこの国を任せる所存でいるのだ」

「それはまたどうして…」

「辛い役目を押し付けるようで……心から申し訳ないと思っている」

「……トラゼウス様…?」



 まるでパウロの言葉に耳を貸さず、トラゼウスは独り言のように淡々と喋り出す。いつもと様子がおかしいことに気がつき、パウロは疑問に首を傾げる。



「……ゴホ………ゲホ…」

「……体調が優れないのでしたら、少しお休みになられた方が宜しいのでは…?………トラゼウス…様?」



 様子がおかしいのは体調が悪いからかと、咳き込むトラゼウスの姿を見たパウロは具合を伺う。

 しかし次に目にした時、咳き込む際に口元に置いていた手を退けると、トラゼウスの手と口元には大量の赤い液体が付着していた。



「ッゲホ…ゲホゴホ!!…ゴホォ!!」

「トラゼウス様!?」



 咳き込む度に吐血を漏らし、口から溢れ出る大量の鮮血が床を染めていく。



「え、衛兵!支給治療班をここに…ッ!」

「……ゴホ…止すんじゃ…」



 咄嗟に駆け寄ってトラゼウスを支えていたパウロは、声を上げて助けを求めようと試みるがトラゼウスに腕を掴まれて静止させられる。



「っな!何故止めるのですか!?このままでは危険です!」

「ゴホッ…何…まだこの程度では死にはせんわい……。それに…下手に騒がれたりでもすれば、出て行った小娘に気づかれてしまう……」

「……トラゼウス様…もしや貴方様は……」

「………あの子はな…優しすぎるんじゃ…。……父を亡くし、母も不慮の事故で亡くしたにも関わらず、自分のことよりもワシが息子を失ったことで落ち込まないよう常に気遣ってくれていたんじゃよ……本人はワシが気がついていないと思っているようじゃがな……」

「…トラゼウス…様…」

「……これ以上……この小さな檻の世界に留めておくのは…見てて辛いんじゃよ………じゃから_」




 トラゼウスの瞳がパウロの瞳をしっかりと捕らえる。




「_ワシが死んだとしても、そのことをレイラには伝えないでくれ」




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