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黒炎の勇者の似非物語  作者: 勇者くん
2/10

第一説 勇者の始まり

 『勇者』というのをご存知だろうか?



 いや、今のは少し質問の仕方が悪かったかもしれない。



 『勇者』とは、どのような存在だろうか?



 そう聞かれれば、大半の者が口を揃えてこういう。




   『国を守る、英雄だと』




 その響きはとても素晴しいものだ。多くの人々が憧れ、期待と存亡を掛けて数々の窮地を守り抜く。そして勇者は大切な物を守る為、これからも国を背に、正義を胸にして闘志を燃やす。



 一体、どれだけの人がそれを望んでいるのだろうか。



 数多くの者から選抜される勇者。一度その名を馳せた者は語り継がれる戦歴を地に刻み、歴代から受け継がれてきた『勇者』には、凡人には計り知れない、尋常ではない力をその身に宿す。



 見るもの全てを圧巻させ、次々と地に足跡を残す者達。数々の至難を乗り越え、幾度となく国を守る勇敢な姿を目にしたある者は、勇者を人ではなく神の末裔と呼んだ。



 何者にも勝る圧倒的な力。曲げることの無い信念。折れない心。






「おお、勇者よ、死んでしまうとは情けない」






 ---しかし、そんなものはただの空想の世界だけに過ぎない。



「…え?」



 無意識に声が漏れる。本来なら、見る者全てが唖然として同じような声を上げたかもしれない。幼い頃、私が唯一覚えていた光景は、世界を守り続けた勇者が目の前で力尽き、倒れ伏せる姿から始まった。



 勇者は重心を失って倒れると、生々しい傷口から溢れ出た血が床に飛び散る。そして、それを冷ややかに見下ろす一人の人物があった。




 【国王:グラン・オーシャン】

 その名の通り、彼はこの国を統べる国王に位置している。先ほど、国の英雄に向けて『情けない』などと発した男だ。


 第24代目元勇者。過去に多くの竜族を仕留めていたことから【竜殺し】の異名を持つ。青頭を逆立て、足に鉛を付けている国王は、『勇者』の座を引退後も決してとは伺えぬ立ち振る舞い、足腰についた豊満な筋肉、そして尚も衰えない野獣のような眼光を持ちえる。数年という時が流れても、その本能は健在していた。


 が、現国王であるオーシャンは、国王の座についたのはまだ数年前のこと。近年までは第23代目元勇者であり【元国王:アルバ・オルビル】が国王を務めていた。


 彼の異名は不明、持ちえていないのではという噂も存在している。そんなオルビルは、異名を持ちえず命24という若さで国王となった異例の天才だった。だが、オーシャンの前国王を務めていたオルビルは、オーシャンの堂々たる振る舞いに民衆の支持が上がり、オルビルは国王の座についてから僅か3年でその座を降りることとなる。



 しかし、それから今に到る数年で、オーシャンに対する支持率は著しく減少の一手を辿った。原因はオーシャンの気性の荒さと怠慢な態度、国王という座に付くには、あまりにもオーシャンには不適切だった。時が流れていくにつれ、国民は徐々に不満や怒りを募らせていき、遂にはオーシャンの国王の座を降ろしてオルビルを再び国王に戻そうと、反乱やオルビルの捜索が開始される。



 しかし、オルビルは一向に見つかることはなかった。国王の座を降りてから行方を暗まし、それ以降姿を見た者がいないことから、オーシャンによって暗殺ではないかという疑惑が懸念されている。





 私にはまだ記憶に新しい、今知っている限りの情報。王族の近親ということから、付近にある機密書や過去の本に一通り目を通し、幾らかの情報は会得していた。



 私は、本音からいえば現国王であるオーシャンは嫌いだ。



 偶然国王に選ばれたことで、持っている権力を貪りにし、国民には一切の施しが無い。むしろ、それどころかオーシャンは大雑把な取り決めを次々と作り出し、国民に多大な影響を及ぼしている。



 冷たい氷のように感情が無い。いや、感情は存在しても、それはまるで道端に転がっているアリを踏み潰すように、行動全てに躊躇いが感じられなかった。



 まるでゴミを扱うかのように。それが世界を守り続けた勇者の成れの果て。


 

 ---なんて酷な末路だろう。



 まだ幼い私には、その瞳に移りこむ光景は目を疑うものだった。それはそうだろう。英雄と呼ばれ続けた勇者が死んでも、その場にいた誰もが表情一つ動かさないのだから。

 いや、顔色が変えられないくらいに、この凍りついた世界ではそれが極当たり前の光景なのだ。



「…ま、待って…お父さんを何処に連れて行くの…?」



 だが、当時幼い頃だった私には知る由も無い。冷たく閉ざされた世界でも、それが実の父親なら尚の事だ。



 遠ざかっていく父の姿を見つめ、覚束ない足取りで後を追う。



「待って…、待ってよ!」


 

 幼いとは、何と無力なのだろうか。いくら必死に後を追っても、この10歳にも満たない自分が大の大人に追いつくはずも無い。最後に抱きつき、顔を拝む、最後に別れの言葉を投げかける……そんなこともままならず、父の姿はすぐに扉の向こうへ消えて行く。



「お、お父さ…ん…」



 込み上げる感情に、嗚咽を漏らし、次第にそれは喚き声へと変わり、大粒の涙が瞳から溢れ出す。泣き声が部屋全体に響き始めると、死人を見ても平然として表情一つ変えなかった人々は、鬱陶しがるように顔を顰めた。



「…おいおいおい、その子供を早く何とかしろよ、鬱陶しい!」



 オーシャンの発したその怒気の混じった声に、母親は小さく悲鳴の声を漏らすと「も、申し訳ありません」といって頭を深々と垂れる。



「…んぐ…むぐぅ!!」



 父親の名前を、私はもう呼べることは無かった。母親が私の口を塞ぎ、そのまま引きずるように部屋を連れ出していく。それに力の無い私は抗うことができず、ただただ父親との距離が離れていくことに、無力な自分が悔しくて涙を流す。



 そんな中、私は切に強く願った。



 もしもこの世界に希望があるのなら、

 もしもこの世界に未来があるのなら、

 もしもこんな私に…世界を変えられるだけの力があるのなら。



 闇の奥底に消えてしまっていたが、それでも父の姿が見えなくなった先を、私は食い入るように最後まで力強く見つめ続けた。














---



 













 


「んん……」



 眩い日差しが部屋の中に差し込む。そのあまりの日差しの鬱陶しさに、私はうなされながら目を覚ました。


 薄っすらと瞼を開ける、見れば日差しが差し込んでいたのは丁度顔の部分だけ。どうやらちょっと動けば日差しには当たらないようだ。そう横目でそのことを確認するや否や、寝相を打って光の当たらない位置に移動する。



「んむ…ぐぅ…」



 そのまま二度寝。目覚ましなんて無粋なものはこの部屋には存在しない。ましてや起こしに来るような輩もいない。

 そう、ここは、誰にも邪魔されることのない私だけの安息の地。再び睡魔に意識を委ね、もう一度夢の世界へと旅立とうではないか。



「ふにゃ………ぐぅ………にへらぁ…」



 大した時間を掛けることなく一瞬にして再び安眠。心地よさに我を忘れ、頬が崩れ口元が緩む。その快感を全身心行くまで味わおうと思い切り寝相を打つ。



「っうぎゃ!」



 だが、快楽の並も束の間。『ゴスゴスゴス…』と何かがぶつかる鈍い音が3連撃。ほぼ同時に短い悲鳴が部屋の中に響く。どうやら軽弾みで行った行為が、積み上げられた本の山に手が当たり、雪崩となって崩れ落ちて脳天に無数の本の角が直撃らしい。



「ッ~~~!!」



 無論そんな推測などしても痛覚が消えることは無く、快楽から一転押し寄せる痛覚に涙目で頭を抑え、そして悶絶。節々に伝わる衝撃と、鈍い痛みで一瞬にして目が覚める。



「うぅ…最悪な一日の始まり方だわ…」



 何この最悪な目覚め方。誰だってこんなんで起されたら憂鬱な気分になるわ。窓ガラス割ったとき、おじさんに雷が落ちて殴られたときより痛いし……下手したらショック死ものね。



 ブツブツと文句を垂ながらも、また落ちてくるのが怖いため慎重に身体を起す。見渡せば部屋周辺の到るところに本が山積みになっている。そう、ここは気がつけば迂闊に暴れることが許されない危険地帯と化していた。



「はぁ…読み終わった後、うっかり後片付けするのを忘れていたわ…」



 つまり、片付けるのがめんどくさく、後回しにしていた結果だ。本を読むには何倍もの時間を有するというのに、何故こうも本を読んだ後の後片付けはめんどうに感じるのだろう。「はぁ…」と小さく溜息を漏らす。もう、この狭い部屋にどれだけ引き篭っているのか。それすら分からない。



「……当分はお別れ…かな」



 もう一度小さく溜息を漏らす。周囲をグルリと見回すと、惜しむように山積みにされた本に視線を落とす。何故なら今日は、私がこの部屋に居住める最後の日だったからだ。









…・…・…











 視界全てに広がる光景、それは誰もが一度は羨む、光沢で装飾された品ばかりが飾られている。一つ一つが宝石や金で造られ、誰もが一度は振り向き、立ち止まって見入ってしまう。……そんな豪邸を、私は見慣れたように財宝には気にも留めずに、広い廊下を淡々と進んでいた。




 しばらくして、自分の数倍もの大きさがある扉が立ち塞がる。私の存在を確認すると、その両端に佇む銀装で武装した兵士が扉を開く。石造を動かすような重い音が鳴り響く。



 扉の向こう側を抜ければ、そこには途方も無く広い屋敷、そしてその中には大勢の武装した兵士と、煌びやかな衣装を纏う高貴の面々が佇む。その中央を通り過ぎ、突き刺さる視線を掻い潜っては、丁度部屋の真ん中に位置する地点まで歩を進めると、そこで足を止める。



「…ここに来たということは、お主を呼び寄せた理由はもう分かっているじゃろう」



 高い位置から発せられる声。顔を斜めに傾けて見上げると、まず一目に付くのが金や宝石で飾り付けられたイス。次に同じく装飾で飾り付けられた王冠。そして図々しい態度で見下すように見下ろしている、口元の鬚を左右跳ねさせた人物に目を向ける。



「ううん。知らないわ。…それで?今日は一体何の用件で呼び出したわけ?くそじじ……おじいちゃん」

「今の発言は聞かなかったことにする。だからもう一度入り口から出直してくるんじゃ」



 人を呼びつけておいて、なんていう態度だ。これが人に物を頼む態度なのだろうか。


 此方は面倒だというのに、わざわざ重たい足を運んで来てやっているというのに……。



「……というか、もしや呼ばれた理由知らないんか?確か令状をお主宛に手配しておいたはずじゃったが……」



 理由はどうやら先に通達されていたらしい。そういえば数多くの本を読み漁っていたとき、確か偶然そんな紙を見つけた覚えがある。



「面倒だから読んでないわ」

「無礼にも程があるじゃろ」



 そうはいわれても、私にとってはしょうがないことだった。



 読書に没頭している私を、何かとあれば仰々しい令状を送りつけ、個人的なお願いを頼んでくるのだ。

 

 一昨日通達された紙には、市場にある『ボボボンフレーツ』を買ってきて欲しいと、気味の悪い顔文字と共に最後に☆マークをつけて送ってきた。

 勿論送られてくる事に、きちんと手紙を読んだ後は跡形もなくなるまで粉々に破り捨てている。



 ……結局この前しぶしぶ買いにいったけど、何あの『ボボボンフレーツ』とかいうの。まるで女性の胸みたいな形してたし……一国の王が、乙女に買わせる代物じゃないわよ。



「…お主…王に向かってそのような口を利けば、本来なら即刻打ち首拷問ものじゃぞ?」



 私をここに呼び寄せた人物。それは絶対的な権力を持つ、この国に住まう現国王だ。

 長く伸ばしたバネのように跳ねた白い鬚を摩りながら、私の態度に目を点にさせる。




 第20代目元勇者【現国王:カルバーン・トルゼウス】

 7年前、反乱を企てたのは現国王であるトルゼウス。暴君であったオーシャンの国王の座を落とそうと、数多くの民衆を率いるのに中心となって活動していた人物だ。

 だが、トラゼウスは元々、反乱を企てるような真似はしてはいなかった。


 温和な性格であるトラゼウスは、何とか話し合いで解決しようと、あれこれと『勇者』の肩書きを頼りに情報を掻き集め、検討しては模索を繰り返していた。


 だが、温和だったトラゼウスは突然和解は不可能だと切り出し、反乱の計画が取り上げられる。



 それをさせる切っ掛けとなったのが、父の突然による謎の死だった。



 父は第26代目にして『勇者』の称号を得ている。トラゼウスはそんな私の父の親、私からすれば祖父の存在に位置している。


 初めは怒りに身を震わせていたが、『不慮に発生した危険種が原因』と報告されていたことから、一度は落ち着きを取り戻し、再び共和を試みた。

 しかし、オーシャンはそんなトラゼウスの心境を見て嘲笑うかのように、『現国王の私欲によって息子が殺された』。そう位置づける証拠が、トラゼウスの元には父に与えられた『勇者』としての使命の中に、いくつもの無謀な命令が提示されていたのを発見された。


 それに激怒したトラゼウスは立ち上がりを決意、その怒りが奮起となって国民の多くに共感を与え、僅か半年という驚異的な速度で数万の民衆が集まる。それにより見事オーシャンを王の座から下ろすことに成功した。


 中でももっとも反乱の中心として活躍していたトラゼウスは、空いた国王の座を埋めるようにして任命され、現国王として今の国を治めた。それにより、この国は今、2年前から平穏な日々を築きつつある。






 …・…・…






 それだけ歴史的に語り継がれるであろう大乱を起した、バネ鬚を生やす人物を見つめる。



「うるさいこのエロじじい」




 ---そうね。これからは気をつけます。




 そんな事情を知っていたところで、私に対する数々のセクハラ行為が既に犯罪の一歩手前まで近づいていることから、侮蔑と軽蔑と憎悪を込め、冷ややかな目でトラゼウスを見つめると、建て前と本音を逆にして告げる。



「お主、ワシのことどう思っているわけ?」

「ロリコンエロじじいよ」

「何を言っておる?ワシの一体何処がロリコンというのじゃ」



 心底驚いた様子のトラゼウス。ロリコンという言葉に反応を示したが、エロじじいという点については否定するつもりが無いらしい。

 それによりトラゼウスに向けられる嫌悪感が増したのはいうまでも無い。



「……はぁ、まあいいけどね…それよりも私を呼んだ理由をいい加減教えて欲しいのだけど」



 険悪な目つきで睨みつけた後、トラゼウス相手では余計疲れるだけだと、諦めに溜息を漏らして肩を下ろす。

 これ以上時間を費やすようなら、もう帰るつもりでいる。



「まあそうカリカリせんで、少しはゆっくりしていったらどうじゃ?」

「………(イラ)」



 ---危ない。もし手元に剣があったら危うく切りかかるところだったわ……。



 そのカリカリさせている元凶の物言いに、怒りのボルテージが切れ掛かる。……が、なんとか気持ちを抑え込み、早く帰ろうと話を進める。



「そんなこといってもさ、私には本を読むことで年中無休忙しいのよ。ってことでもう帰っていい?というか帰るね」



 しかし、国王からの返事を待たず、話を続ける前にきすびを返すとそのまま扉の向こうに向かう。もう面倒になって帰りたくなっていた。


 国王が私に言う言葉は、一言目には命令、二言目にはワガママと、どちらにせよ面倒事しか押し付けられていない。

 そこまで考えると、これ以上話を聞いても得策ではないと帰る選択を選んだ。



「ま、待つんじゃ!本題はこれから話す!だからその歩を止めぃ!」



 しかし、必死なトラゼウスの発言に扉の前に居た兵士が反応し、歩みを止められてしまう。「お戻りください」と呟かれ、どうやら退きそうも無く、舌打ちを鳴らす気分で再びトラゼウスの前に戻る。



「…全く…毎月誰が資金を支給していると思っているんじゃ…少しは働けわがまま娘」



 呆れたように呟くトラゼウス。そう、私には国王であるトラゼウスから、一定の額を定期的に支給してもらっている。嫌々ながらも足を運んで出向いているのはそれが理由だ。



「…んで?何よじじいちゃん?」

「…もはや本音が半分見え隠れしておるのじゃが……」

「……私を呼んだのはどういう理由なの?」



 本来なら、ここでトラゼウスが突っかかった時点できすびを返している。しかし、どうやら今回の呼び出しはいつものセクラハとは少し違うようだった。

 仰々しい令状はいつもとは変わり栄えの無い、普通の文書が書かれていたが、呼び出し人の名称が【カルバーン・トラゼウス】ではなく、【国王】と記されていた。

 トラゼウス個人の頼みではなく、現国王の立場として呼び出されたのはこれが初めてのことだ。



「だから…その理由を書いといたんじゃろうに…まあよい。お主のことだ、どうせまた下らない用件だと思っているんじゃろうて」



 困り果てたようにいうトラゼウス。それにピクピクと眉を吊り上げ、何か勘違いしているようだけど、そう思わしているのは貴方よこのじじい。と心の中で吐き捨てる。

 すると、トラゼウスは急に手を二度叩くと一人の名前を呼んだ。



「パウロ、例の物を彼女に」

「ッハ」



 パウロと呼ばれた人物が凛とした声を上げると、ピンとした背筋を綺麗に折り曲げ、肩膝をついて頭を垂れるとそっとお供え物をするように差し出される。それを見て受け取ると、左右に振ってみて思わず目を白黒させた。



「…何これ?」

「見て分からんか、剣じゃ」



 それは見て分かっていた。見た目の形質は剣そのもの。長さは私の身体の丁度お腹辺りまで伸びている。周囲の光を反射して鋼色の鋭い光を放つ剣は、しかし私の腕一本程度の細さという、何処と無く持っていて心元無さがあった。


 ただ、驚くべきことにこの剣にはまるで重みが感じられない。まるで紙や葉を持つような感覚。本来あるべき質力がないのだ。


 無機質にも見える鋼色の剣は、良く見ればそこら中に薄っすらと模様のようなものが堀刻んである。目にしたことの無い紋様だったため、興味本位で解読を試みた。



 心の中で『≪スキル≫』と唱える。すると頭の中に『≪スキル一覧≫』という記述が表示された。



 これはこの世界の全ての種において、『≪スキル≫』というある特殊な能力が潜在している。『≪スキル≫』はその者が持つ強さを示し、『≪火炎≫』と唱えれば火が迸り、『≪加速≫』と唱えれば自身の速度を飛躍的に上昇させる。


 ただし誰もが持ちえている『≪スキル≫』は、必ずしも使えるわけではない。『≪スキル≫』を使うにはある一定の条件、個人の強さを示唆する『≪LV≫』を上げるか、技術を学んで会得する必要があるのだ。


 『≪LV≫』は魔族を倒すことで上げることが出来る。『≪LV≫』が上がると内に秘めた能力が解放され、同時に『≪スキル≫』によっては『≪スキルLV≫』が上昇し、使用したときの効果が増す。振り分けられる能力は様々だが、『≪スキル≫』によっては驚異的な効果を発揮した。



 私は展開した『≪スキル一覧≫』を覗くと、所持している『≪スキル≫』の中から『≪解読≫』を使用する。これはありとあらゆる本を読み漁る内、自然と会得したものだ。


 手持ちの剣を対象に、ジッと眼差しを剣に向けて見つめる。すると発動者しか見えることのない文字が、剣の周囲を漂うようにして表示された。







黒炎 鴉魔カラスマ



武種:秘剣



能力


??????????????????????






---解析不能。







「……ただの剣…じゃないわね……」



 『≪解明≫』を持ってしても解読が不可能な『鴉魔カラスマ』を見つめ、小さく溜息を漏らす。トラゼウス個人の頼みでなく国王として今回呼び出された理由は、どうやらこの『鴉魔カラスマ』の正体を解明させる依頼のようだ。



「随分と面倒なものを寄越してくれるわね……まあいいわ、部屋の本を丁度読み終えていたところで退屈していたところだし、手伝ってあげる」



 そういって、トラゼウスの極めて珍しい気前の良さに、少し気分が向上した私は一度トラゼウスに向けて小さくお辞儀をすると、今度こそきすびを返して帰ろうと扉の向こうへ歩き出す。

 しかし、トラゼウスが私に投げかけた言葉は思いもよらぬことだった。



「待つんじゃ、お主を呼んだ理由はそれではない」

「…え?」



 進めていた歩を止め、振り向いた私は思わず間抜けな声を漏らす。呼ばれた理由がこの『鴉魔カラスマ』で無いのなら、一体何が理由で呼んだというのか……。




「【アルス・レイラ】」





 その疑問に答えるよう、トラゼウスは初めて私のことを名前を呼んだ。

 




「これは祖父願いではない…この国の王として命を下す。………本日を持ってお主を、勇者に任命する」






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