プロローグ 終焉の始まり
---終焉の始まり
全ての色が暗黒の闇に誘われた時、目の前の光景を呆然と見ていた一人の兵士が、乾いた声でそう呟いた。
至る大地が裂け、全ての植物は枯れ、そこは存在する生ける生物の全てが死に絶える。これは終焉の一部始終であるほんのひと時。
彼らには戦意もなく、微かな希望すらも見いだせず、倒れ伏す仲間達と同じ、それは生きた屍と化す。抗えぬ絶望しか存在しえない為である。
突如虚空から現れたその圧倒的な力を前に、ある者は恐怖し、ある者は怨嗟の声を上げ、またある者は我を忘れ、美しいと感嘆の息を漏らす。
空を覆う巨大な『それ』は、一振りで大地を砕き多くの生命に死を齎す。その姿はまるで、鎌で死人を一振りで狩る『死神』。
誰もが『死神』をもっとも恐れ、そして最後には誰もが必ず巡り会う。
そして最悪に巡り会ってしまったのが、今この時だった。
『何で…何でよ…!』
そんな最悪の中を巡ってしまった、乾いた地面に倒れかけた一人の少女は、嗚咽交じりな悲痛の叫びを上げ、無力な自分が悔しくて涙を流していた。
ポタポタと頬を伝って一粒の涙が落ち、それでも傍にある鋼色の剣を手に掛けると、硬い地面に突き刺し剣を支えに立ち上がる。
嘆くにはまだ早い、諦めるにはまだ早かった。
こうしている間にも、全てを守ろうと黒を纏った剣士は死に物狂いで『それ』と対峙していた。
マシンガンを一斉に連射したような鋭い金属音が鳴り響き、摂理を超越した目には見えない速度で剣技を繰り出していく。
幾数千万の軍勢でも敵わない相手を、黒の剣士はたった一人で『それ』相手と攻守の戦いを無数に繰り広げ、今を繋ぎとめ続けていた。
『私には…ただ黙って見ていることしか出来ないの…ッ!?』
しかし、そんな強靭な、強力な夢はいつか時間が経てば消えてしまう。
徐々に黒の剣士が足を後ろに下げて行き、顔には疲労の色が濃くなっていく。勢いが段々と衰え、遂には攻守であった戦いが、黒の剣士の一方的な守備へと変わっていく。刻々と体中に傷跡が刻まれ、それでも尚黒の剣士は死から抗い続ける。
『……こんなの…違う…』
目に余る物全てが虚であって欲しいと、掠れた声で切な願いを呟く。前はもう、涙で霞んで見えない。
---気がつけば、終わり無く続いていた金属音が嘘のように止んでいた。
全てを託していた微かな希望が敗れ、それに今度こそ数多くの者が膝を突き、諦めの音を上げていく。
---希望の光が、今目の前で潰えたのだ。
『何で……使えないの?』
疑問に首を傾けさせ、自分の持っている『≪スキル≫』を覗く。
そこには『≪治癒魔法≫』『≪特殊効果付与≫』『≪異常回復≫』『≪耐性付与≫』……持ちえる魔法全てには赤で表示され、使用が禁止状態になっていた。
---ただ一つ、たった一つだけのスキルを除いて。
少女は表示された『≪スキル欄≫』の中からそれを見つけると、一つだけ違う色の『≪スキル≫』をきつく睨みつける。
手にしてから一度も、この『≪スキル≫』だけは使えた試しが無かった。
運に任せるものでは無かった。攻撃では無かった。
能力が飛躍するものでも無かった。特殊能力でも無かった。
魔法と一言で片付けて扱える代物では無かった。彼女の強さでは無かった。
特定の条件下が必要では無かった。感情に左右されるものでも無かった。
知りえる限りの全てを試しても、この『≪スキル≫』の発動条件を満たせるものは、存在していなかった。
---では、この『≪スキル≫』は何のために存在しているのだろう。
『どんな代償だって厭わない…ッ!…だから…!お願いだから…!……私の願いを叶えて!!』
少女は切な願いを胸に秘め、奇跡を求めて『≪スキル≫』を発動させる。
---その日、世界は静かに終焉を遂げた。




