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勇者襲来 その2

 オリュンポス山脈の南に開けるゼルビット地方。そのさらに南端部に巨大半島がある。

 その地の殆どを山岳地帯からなる魔の森が占めていた。

 人々は恐れと畏怖を込め、白紙委任の森と呼んでいる。


 申し遅れました。ワタシはその地そのものである触手の王と呼ばれる存在なのです。


 なのですが……、最近困った出来事がありました。



 触手の王にふさわしく立派な神殿を建てたのはよいが、それをどうやら魔物の城と勘違いしてしまったらしい。(モデルはシソデレラ城なんだけどね)


 そのため、余計なお荷物を背負い込んでしまった。

 お荷物とは、長い金髪、緑の目、とんがった耳。エルフの少女である。

 清楚を絵に描いた美少女。触手の一本も振ればひしゃげてしまいそうなくらい華奢な造り。



 正直参った。  


 困った困ったと狼狽えたって何も解決しない。

 エルフの少女にはとりあえず、神殿に入ってもらうことにした。


 対応するのは、いつも通り代理人にして分身のスライムである。

 本体である触手が直接対応すると、絵面的に大変まずいことになる。

 エルフと触手の組み合わせ。お話しのリビドーが変な方向へ進みそうで大変怖い。


「チミ、名前は?」

「……シャミィと申します。わたっ、わたっ、わたしはどうなってもかまいません! 里のみんなは、お友達は、お父さんとお母さんの命だけは助けてください! お願いです! 殺さないでくださいー!」

 あとはワンワンと泣き崩れるだけ。


 ……うわー。


「そ、そうだな。……じゃあ、神殿で働いてもらおうか」

「あ、ありがとうございます! 一生懸命、魔王城で働きます」

「神殿な」


 命が助かったと思ったのだろう。里が救われたと思ったのだろう。泣き笑いの表情で額を床に擦りつけている。

 とって食おうってつもりは全くないんだけど。むしろ、気さくな付き合いをしたかったんだけど……。


「一生をかけてお仕えいたします! どうか、どーか末永く可愛がってやってください!」

 あ、だめだ。

 エルフの皆さんと仲良く暮らす計画が終了いたしました。


「そ、そうね、そうね、えーと、とりあえずメイドさんとしてお掃除とかやってくれちゃう? ここ建てたばっかりで、散らかってるしね」

「はい! よろこんで! 毎日お母さんのお手伝いをしてますから、お掃除は得意です! 魔王城をピカピカにして見せます!」

「神殿な」


 なんだろう、この罪悪感は? なんだろう、この加害者意識は?


「うむ、盆と正月には休みをくれてやろう。がんばるんだぞ!」

「はいっ!」

 こうして扶養家族が一人増えたのである。




 メイドさんといえばメイド服。オレデザインのメイド服は黒を基調としたゴシック様式。 うーん、凝ってみた割に触手が動かんなぁ。

 動かん動かん。


 股下0.15メットルのスカート丈。白いサイハイがデフォルト。

 動かんなあ。動かん。


 下着は水色と白のボーダー柄。

 やっぱり動かん。動かんぞー!

 



 人の……もとい、触手の困惑をよそに、日夜それこそ命がけで働くシャミィ。お城の中はみるみる綺麗になっていく。

 そんなある日。魔王城に……神殿に警報が鳴り響いた。


 ガッシャン!

 磁器製の皿が一ダースばかり割れてしまった。


「え? なに? 何が起こるんですかぁ? 助けてくださいよぉー!」

 シャミィが泣き出した。プルプルと震えている。


「いやいや、大したことないから。遠い所の出来事だから。大丈夫だから。お皿の掃除しとけば良いから」

 シャミィを落ち着かせながら、警報のスイッチを切った。この子に男のロマンは早すぎたようだ。


 超感応体が白紙委任の森への侵入者を感知したのだ。

 光学反映ジェル体に侵入者の姿を映し出した。


「なんだ、また勇者か!」

 少し前に撃退した勇者の姿が映し出されていた。


 前回、肉片に変えた上、焼却してお空の彼方へ吹き飛ばしてやった。にもかかわらず、復活したのだ。

 さすが勇者。理不尽な復活能力だけは褒めてやろう。


 物腰や目つき、装備に関し、前回より増した力強さを感じる。レベルアップしやがったな? 瀕死の重傷を負えばレベルアップするなんて、どこの戦闘民族だ?


 にしても、またこの進入経路か……。

 前回の勇者、ジレルとセト、もう一回勇者。全部三本角の右側からだ。

 ここ、なんかあるのか? つーか、この地点に侵入対策を設けなきゃならないな。


「む?」

 勇者に続き、ピンクヘアーの女戦士が、藪をかき分け現れた。赤いビキニアーマーは前回にも増して露出過剰。変わらねぇなこの野郎共。


「おや?」

 女戦士の後ろから、もう一人姿を現した。

 赤い髪。紫のマント。魔力がこもった杖を手にしている。


「女魔法使い?」 

 さすが勇者。レベルアップして、ハーレムに磨きかけやがったな!


「え? まだいるの?」

 女魔法使いの後ろに、まだ人がいる。

 オレンジのピッタリスーツ。青い法衣に、青いロングヘアーがよく似合う。


「女僧侶……」


 フハハハッ! 殺意とはこの事か!


 女戦士のみならず、女魔法使いに女僧侶に囲まれやがってぇッ!

 いい加減にしろよこの勇者(ヤロウ)


 天が……もとい、魔神が許しても、ハーレム勇者撲滅委員会副委員長見習い心得の立場がユルサンっ!

 対魔王用必殺フルコースをお見舞いしてやるっっっ!



「スタッフは戦闘司令室へ集合!」

 スタッフったってオレしかいないが。……恐がりのシャミィが付いてきた。賑やかしになるし、ま、いっか。


 無意味に光学反応ジェル体が林立する部屋へ入る。隣の部屋だから、あんまし意味が無い。地下に作っとけばよかった。

 オレは魔物の先生方に出動を要請する。


「いてまえ!」「うおりゃー!」「生かして帰すな!」

 そんな威勢の良いかけ声(翻訳済み)を上げながら、魔物達は勇者に襲いかかっていく。


 勇者共は、魔物を迎撃しつつ第二防衛ラインを突破した。

 ここを抜いたのは魔王と勇者だけだ。……ジレルはオレが案内したからいいんだ!


 そうこうする内、勇者達は予定の迎撃地点へと到達した。

 そこは周囲より少しだけ盛り上がった場所。


「迎撃プログラム『逆鱗の竜』スタート!」

「プログラムスタンバイ。迎撃シークエンススタート。迎撃プログラム第一段階。フレイムアロー砲塔群起動。砲撃開始」

 オレの熱い命令に、オレが冷静な声で応える。攻撃するのもオレだから、一人芝居感半端ない。寂しくなんかないんだからね!


 百基を超す砲塔群が一斉に起動。雨あられと勇者に向け、炎の魔法を発射していく。

「カウンターマジック!」

 女魔法使いがレジスト専用のスペルを唱えた。

 炎の弾丸が、ことごとく弾かれる。


「な、なにぃ!」

 前回も同じ事があったから慌てるこたーないのだが、そこはそれ、魔物としての矜持である。


「迎撃プログラム第二段階へ移行。バルキリーズジャベリン砲塔群起動。バルキリーズジャベリン発射」

 機械的なオレの声が城のフロアに響く。   


 戦乙女の聖なる投げ槍が宙を飛ぶ。

「ホーリーシールド!」

 女僧侶が祈りを捧げた。


 それに応え、バルキリーズジャベリンが消滅していく。

 全てレジストされると知りつつ、火力を集中させる。勇者の足止めが目的なのだ。


「このまま押していけ!

「迎撃プログラム続行。フレイムアロー、ならびにバルキリーズジャベリン連続発射」

 一人芝居がだんだん身に応えてきた。


「すごい! すごいですぅ!」

 シャミィが目をキラキラさせていた。


「そうか、すごいか? ウワハハハ! よーし、次いってみよう!」

「迎撃プログラム。第三段階へ移行」

 勇者達の足下が盛り上がり、空へ向かって勢いよく弾けた。

 丘自体が触手なのだ。ここへおびき出して空中へと放り上げる。


「レビテーション!」

 勇者が重力制御の呪文を唱えた。空中で持ちこたえやがったか!

 だがそれも想定のうち。


「爆裂火槍改、発射!」

 爆裂火槍改。それは対魔王用に開発した広域破砕兵器の改良版である。


 全長10メットルに及ぶ爆裂火槍改は、その下部より炎を吹き上げつつ上昇していく。その数三十本。

 初速は遅いが、巡航速度は音速を超える。音速の数倍の速度で、どこまでも目標物を追尾していくのだ。


 Xナンバーがとれたこれは、試作品段階で勇者に叩き込んだ物とはその性能が違う。

 こいつをこの世界の魔法結界で防ぐ事はできない。実体弾なのでレジストできない、という優れもの。


「全弾命中!」

 大空に幾重もの火球が生成されている。


「精霊結界!」

 女僧侶が物理結界を設けた。

 さすが勇者。同じ手は通じないという事か!

 だが、それはオレとて想定済みの事。次なる手は、もう打ってあるのだ! 


「迎撃プログラム最終段階へ移行。グランドキャノン発射シークエンス実行中」


 魔王城……まちがえた! 神殿の北に鎮座するベスギア=ガノザの大穴。その直径は2キロメット。エルフ達が本能的に恐れる神秘の大穴。

 最終シークエンス実行に移った今、ベスギア=ガノザの大穴が光の粒子を噴出させている。


 その光は、最終兵器の先走り。

 収束し損ねた荷電粒子である。


 魔法の力で物質を構成する素子を荷電させ、光速にまで加速させて打ち出す。実際は亜光速までしか加速できないが、その威力はべらぼうである。魔法の防御は一切通用しない。


「発射角修正、方位ゲル=ドノレバ。仰角+2!」

「エネルギー充填120%。発射準備完了!」 

「グランドキャノン、発射!」

「発射ーっ!」


 天に向かって巨大な光の柱がそそり立つ。

 直径2キロメットの荷電粒子砲が発射された。


 見えますか? エルフの皆さん。これはあなた方を含めたこの森の住民を守るための光ですよ! 力強い光でしょう?


 真上に上がった光の柱は、無理矢理方向を変え、勇者に向かって突き進む。

 約7セコンダ間の照射。


 光の柱は唐突に消えた。

 イオン臭漂う中、超感応体が全力で走査するも、勇者の反応は無い。


「勝った!」

 こうして白紙委任の森に平和が訪れるのであった。



 この後、エルフの里からの貢ぎ物が爆発的に増えたのだが、それはまた別の話。




 どんまい!



次話「融合」に続く。

お楽しみに!

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