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青い犬さんとエルフの里 後編

今回、短いです。



「エルフを含む人種は、神秘を恐れる。求められるのは崇拝の対象。つまりは偶像(シンボル)だな」

「ふむふむ」

 オレはメモを取りながら、青い犬さんの講義を聞いていた。


「一番の良策は、祈りを捧げる対象、つまり神殿を建てる事だ!」

「何故ですか?」


「神秘とは、人目にさらす事によりその商品価値が下がるモノ。常に人目にさらす事により、神秘性が薄れ日常と化す。豪勢な貢ぎ物も、時間と共に塩と洗い米に変わる事だろう。そのために神秘の可視化が必要だ」 

 うむ、いちいちごもっとも。青い犬さんの説は、一本筋が通っている。


「わかりました。神殿を建てましょう! ちょうどここに……」

 広場の隅っこに作られた石塔に視線を向ける。


「昔、この森にうっかり迷い込んで死んだ人間の墓があります。神殿を建てるにはうってつけです」

「……白紙委任の森の中心部でおっ死んだ人間ってのも珍しいな?」

 青い犬さんは突っ込んではいけない所に突っ込んだ。


「では、早速建材の用意を――」

「まあ待ちたまえ、触手の!」

 青い犬さんが待ったをかけてきた。


「普通に建てたって、有り難みがねぇぜ。ここは考えどころだ。ちょっと顔を貸せ!」

 俺たちは頭を付き合わせ、相談を始めた。


「ある程度の大きさが……」

「格式も求められる。古代ロマリア風……」

「サプライズも……」




 こうして白紙委任の森・大神殿建造大計画は、実行に移される事となった。

 


 場所はここ。エルフの里を見下ろす丘の中腹。


 建設現場の木々をこっそり切り倒す。でも目隠しのため、外側の大木は残しておく。

 続いて土台の建設を始める。下からの角度があるので、幸いにも相当高くまで組み上げられる。


 そして、建設予定日の前日がやってきた。

 太陽が西の地平に沈んでいく。


「いよいよですな、青い犬さん」

「ああ、いよいよだ、触手の! 日が沈んだら建設開始。日が昇るまでが勝負。二度目はねぇ。一発勝負だぞ!」 


 いやが上にも緊張が高まる中、オレ達は静かにその時を待った。 


 日没。完全なる闇。

「建設開始!」

 号令が掛かる。つっても働くのは触手だが。


 建材は、別の場所で前もって各パーツごとに作成完了している。

 幾日も掛けて少しずつ建設現場へ運んでおいた。

 あとは力ずくで組み立てるのみ! 


「うぉりゃー!」

 触手が唸る。うねる。ほとばしる!


 対魔王戦でもここまでの出力を記録した事がない。まさに全力。

 その威力は、オリュンポス山からドラン王国間を十五往復分だ! 





 朝日が昇る。

 自然と共に生きるエルフ達の朝は早い。


 ふと彼らは丘を見上げる。

 そこには昨日まで確かに無かったはずの、白亜の巨城が朝霧の中、どどーんと建っていた。


 

 シルエットはシソデレラ城そのもの!

 エルフ一族に長く語り継がれることになる一夜城伝説の幕開けであった。





「フフフ。どうでぇ触手の! エルフ共愚民の……エルフ達の驚き様は!」

「フフフ。正に予想通り!」


 尊厳と驚きの目を持ってこちらを見上げるエルフの皆さん。その晴れやかな顔を見るや、積み重なった睡眠不足や疲労が吹き飛ぶというもの。


 今を吉祥に、祭壇のお供え物も減っていくだろう。

 エルフ達との関係も重苦しいものから、比較的軽いものへと変わるだろう。

 肩の荷が下りる思いである。


「これで、触手のんの長年の懸念が払拭される事であろう」

「いやー、有り難うございます青い犬さん」

「いやー、礼には及ばねぇぜ。気にすんなって」

 オレ達は、(はかりごと)の成功に気をよくしていた。




 その日の夕刻。

 過去最多の物量を誇るお供えと共に、美少女エルフの生け贄が捧げられていた。




「逆効果? 青犬さん、逆効果だよね? あれ?」

 音速で走り去る青い犬さんの後ろ姿が、遠くに見えたのであった。

次話「勇者来襲 その2」

お楽しみに!

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