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ジレルとスライム 後編

 森の中を進むスライムとセトとジレルの三人。魔物とお子様二人の道中である。なかなかシュールな絵面となっている。


 ジレルの息が荒い。頬が赤い。剥き出しの腕が青い。特に指先が氷のように冷たそうだ。

 怪我による発熱である。



 さて、そうこうするうちに腰を下ろせる場所に着いた。見晴らしがよくて、湧き水があって、風が遮られる場所だ。


「ここは安全だ。今日はここで休もう」

 目的地だと解ったのだろう、セトは我先にと湧き水に顔を突っ込んだ。


 ジレルは立ったまま、用心深く見渡しているが、目がうつろだ。相当熱が高いな。

 得心いったのか、小川の流れで傷ついた目を洗っている。


 ガサゴソと近くの藪で物音がした。

 片刃の小刀を抜き、身構えるジレル。物陰に隠れるセト。


 現れたのはコボルドが数匹。こっちに向かって歩いてくる。背に小汚い布袋を背負っている。


「やあ!」

 オレは体の一部をちょこんと突起させた。


「ワン!」

 コボルトも挨拶を交わしてきた。

 彼らは布袋から果物を取りだした。俺の前に置いて去っていく。


「今のは?」

「コボルト君だ。この森の住人だな。この果物美味しいよ、お腹減ってるだろ? 遠慮無く食べなよ」

 ジレルは迷っていたが、セトは迷うことなくかぶりついた。お行儀が悪いな。お里が知れようというもの。


「なあ、セト君。チミ、無事に森を抜けられれば、確かお金をくれるって言ったよね?」

「うむ、申したぞ!」

 憶えているだけで彼の株が上がるのはなぜだろう? ああ、そうか、オレがバカにしているからだ。


「その金でオレは何をすればいい?」

「食べ物とか……あ!」

 最初に気づいてくれて手間が省けた。


「そうだね。オレは食べ物に困らない。家も必要ない。森には美術品も家具も無いから、お金は使えないし、……必要ないんだな、お金」


 続いて、オーガーが三匹ばかりやってきた。

 手に血も滴る生肉片を提げている。鹿のモモ肉と思われる。

  

 オレに向かって軽く会釈をくれた後、おもむろに火を起こしだした。

 あっという間にウエルダンステーキのできあがり。真っ白な塩をパラパラと振って、葉っぱのお皿に盛りつける。付け合わせは、赤い水玉模様が鮮やかなキノコのソティー。


「塩が白い!」

 セト君が良い所に目を付けた。


 世間に出回っている塩は不純物が多すぎる。よって市井の塩は白くない。白い塩は高級品である。

 そんな上等な塩を未開の怪物オーガーが所持している。

 人類は高級塩の大量生産に至っていないのだ。


「その塩はイオン交換式という……」

 そこでハタと気づいてセトの顔を見る。

 やっぱ、理解させるのは無理だ。


「……白い塩が取れる渓谷があるんだ」

「へぇー」

 セトは画期的な新説を鵜呑みにした。ジレルは胡散臭そうな目をしていた。

 ジレル君、子供はもっと素直にならなきゃ!


 そうこうしている内に、料理ができあがったようだ。

 オーガーは、作り終わった料理を並べ、一礼して去って行った。この男前!


「オレは白紙の森の土地神・カムイの代理人だ。この森の全ての魔獣がオレのために働いてくれる。ハクシャクって偉いの? 森の中で座ってると食べ物持って来てくれるの?」


 セトが何か言いたげだったが、オレは言葉を続けた。

「みろよ、この大地!」

 ここは一方が開けた高台。夕日に染まる森と山々が一望に見渡せる。


「ここから見えるだけでモゼルの三倍はある。白紙委任の森はモゼルの百倍できかないぞ。セト君、君はオレに白紙委任の森の何倍の土地をくれるんだ?」


 さて、セトは……。

 すごい悔しそうな顔をしている。

 王として、失格だな。

 しばらくウジウジしていなさい。


「さて、ジレル」

 反応が無い。ジレルの残された目が死んでいた。


 手を――手は無いので――体の一部を触手のように伸ばし、彼女の額に当てる。

 すげー熱。


 顔から包帯を外すと、現れたのは腫れ上がった顔。

「残念だ」

 後ろからのぞき込んだセトが、不機嫌な声を出した。


「この旅が終われば側女に引き立ててやろうかと思っておったが、その顔では無理だ。ワシが助かるまで、精々死なぬよう気をつけておれ」


「よかったなジレル。セト君の側にいなくてもいいそうだ。どれ、傷をよく見せて見ろ」

 肉体的疲労と精神的疲労に怪我が追い打ちをかけたか? 目の傷口から進入したバイ菌が、内部にまで侵略の手を広げていた。


 おそらく眼孔と副鼻腔が炎症を起こしている。左の内耳もダメだろう。ひょっとしたら脳にまで回っているかもしれない。


「ジレル! よく聞け。そして選べ! まず、オレは人体実験が済んでいない開発中の薬を持っている。いいな? 聞こえたな?」

 ボーとした顔でジレルが頷く。


「お前の怪我はかなり酷い。このままだと今夜中に死んでしまうだろう。理解できるな?」

 顎が僅かに下がる。頷いたのだろう。


「そこで提案だ。オレは得体の知れない薬と治療法を実験したい。飲み薬じゃないぞ。筒状になった針で直接傷口に注入する残酷な方法だ」

 オレは触手を細く伸ばした。その先端は堅く、細く尖った針になっている。

 海に住む生物、クラゲを模倣し、蚊の嘴を参考にした触手だ。


「助かるかどうかはオレにも解らん。助かったとしても後遺症が出るかもしれない。どうだ? それでも賭けてみるか?」


 ジレルは息を吸い込んだ。

「お願いします。わたしはゼフの里のため、今ここで死ぬわけにはいかない。セト様をゼフの民がお届けした事を証明しなければならない。薬を使ってください!」

 熱に犯された目だが、その奥底に、確かな光が潜んでいた。


「よーし、針で毒、もとい、……薬を注入する。痛いが我慢しろ。我慢できなかったら大声を出せ。楽に殺してやる!」


 ジレルの返事を待たず、太い針を目の傷口に突き刺した。

 薬液をひしゃげた眼球に注入する。

 ジレルの形良い口が、悲鳴の形に変わる。


「ぉぉぉ――」

 声にならない悲鳴があがった。だけど声をださない。

 体も動かさない。


「もう一丁!」

 こめかみに針を突き刺した。針の先端は、視神経束に届いたはずだ。むっさ痛いはず。

 海老ぞったまま、必死に耐えている。


「処置完了」

 抜き取った針の先端から、黄色い滴がこぼれる落ちる。


 ジレルは荒い息をしていた。

 でもね、真の苦痛は、ここから始まるんだ。

 処置は終わったが、体組織の修復はこれからだ。それも無理矢理の修復。


「あぐぅ……」

 ジレルは包帯の切れ端を噛んだ。


 ――我慢できなかったら大声を出せ。楽に殺してやる――

 それを覚えていたか。


「律儀だなヲイ!」

 ジレルは約束を守り、声を出さないよう必死に耐えている。


 ちなみに……オレはなんでこうもジレルに入れ込んでいるのだろうか?

 うーん、セトがあまりにも小物だから、相対的にジレルが立派な人間に見えてしまうのだろうか?

 いやいや、なんか、こう、なんか頭のどこかに、毒クサリカタビラ草の棘みたいなのが引っかかって、気持ち悪いんだよな。


 やがて日が暮れた。


 まん丸の月が東の空に現れる。

 すごく大きい。そして綺麗だ。


 太古の昔より、月は静かにこの大地球を照らしていた。いつもと同じルートで東から出て西へと入る。

 そして生命の営みを見つめるだけ。


 ……俺に似ている。



 結局セトは、ステーキも平らげて、とっくに横になっていた。


 ジレルは真夜中になっても、小声で唸っている。

 いやー、これは失敗かな? 完治速度が速すぎる。子供の体力じゃ保たないな。


「うるさいぞジレル! 眠れない「プスッ!」だろ、う――」

 眠れないなら睡眠誘導剤(新薬)を注射してあげよう。


 セト君は、子供のくせに病的なまでの甲高い鼾をかいて爆睡し始めた。体に変調が無ければよろしいのですが……。


 ジレルの意識はとうに無い。薬害かもしれない。

 薬害といえば、ジレルに注入したポーション。ただ怪我を治す働きがあるだけではない。

 細胞を強靱な物に作り変えてしまう。自己変化の能力を持ったポーションなのだ。

 損傷が大きければ大きいほど、組織は作り替えやすい。運が良ければそれなりの特殊な効果が得られる。


 ――かもしれない!


 オレは星々が輝く空を見上げて副作用を世界平和のために忘れる事にした。

 夜空では、ゆっくりと、月が西へ移動していくのであった。


 そして朝が来た。


 セトの受け渡しまであと2日である。



次話「ジレルとスライム 完結編」に続くったら続く!

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