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ジレルとスライム 中編

 半透明の青いドーム状物質。全高1メットルのスライムがポヨンと揺れた。


 ワタシの外部器官。意識の一部が独立した存在。でも記憶層は同調共有している。

 触手の王カムイの総代理意識体であるが、やはり多少は性格の違いが出てくる。


 劇的なオレ登場シーンに、聴衆は感動のあまり体をこわばらせていた。


 セトは思考を停止している模様。

 ジレルは、固まったまま動かない。


 両方とも、まるで状況を理解できず、正しい命令が体に届いていない様に見えるが、気のせいだ。


 ジレルがスライムを指さした。

「魔物が喋った……」

「そっちかい!」


「いたぞー!」

 むくつけき男共が現れた。手に武器を握っている。

 ジレル達は追っ手に見つかったようだ。


 どうせ狙いはジレルとセトだ。紳士は泰然と構え、成り行きを見守っていればよい。手を出すのは愚の骨頂!


「魔物だ!」「スライムか?」「だったら影響ないぞ!」

「影響ないって、……なんだとコラァー!」


 頭に来たオレは、子供二人の間をかき分け、追っ手の前に飛び出した。


「スライムなめんじゃねぇー!」

 オレは猛然と襲いかかった。半液体のため普段の動きはノロイが、ダッシュ力には定評がある。


 追跡者の先頭。兜をかぶった男は、慌てる事無く剣を振り下ろした。


 スパッ!

「おや?」


 オレの体が真っ二つになった。慣性の法則で、飛びかかったスピードそのまま、左右二つに分かれた体は兜男の左右を飛んで……。


 合体!


「ぶわっ!」

 兜男の体を挟んで合体した。

 彼はオレの体内に閉じ込められる。


 スライムをなめてもらっては困る。

 体内は粘液で充満しているから息はできない。粘っこいから思うように剣を振り回せない。


 放っておくと窒息死。

 脱出できても粘液まみれのため、お風呂を探すという大きな隙ができる。


 男を体に抱えたまま、体の一部を高速で打ち出す。

 秘技、スライムパンチ! 続いて、のしかかりの無敵コンボ。


 三人のむくつけき男共を体内に治めて数分間のシャッフル。

 ごぼりゴボリと口から泡が出てきたのを見届けてから解放した。


 粘液による溺死。

 ふふふ、我ながら恐ろしい技である。


 ……あれ? 人間には不干渉だったはずなんだけど、片方に荷担してしまった?


 まあ、済んだ事は仕方ない。誰にでもミスはある。それを許せるか否かで器が計れるというもの。オレは許す!


 そういう事で、お子様二人をかまう事にした。

 あらためてみるとジレルちゃんが酷い事になっている。

 左目は失明だろうな。


 セト少年を守るため、大人二人は犠牲になった。ジレルはジレルで、健気なまでに仕事に忠実だ。

 なんでこんな事してるのだろう?


 オレは土地神と呼ばれた大魔族だ。森の中の出来事なら何でも解るし何でもできる。しかし、外の出来事に暗いという欠点を持つ。近い将来、何とかして解消したい事象だ。


「何故、この森に入った? この森が死の森だという事は知ってるな? お前達はなんだ? あいつらは何ものだ?」

 セトはジレルの後ろにかくまわれたまま。ジレルは小刀を構えたままで後ずさりしている。その構えが絵になってる。この子、アマチュアじゃない。


 ここは一つ、ソフト路線に変更しよう。  

「こう見えても、お兄さんはこの森の主、カムイというか、カムイの分身だ。お兄さんといる限り、魔物は襲ってこない。話によっては手助けしてやらない事もない事もない。どうだい?」

 オマケだ。ゆるキャラ路線でポヨンと揺れてみる。これくらいすれば子供の心なんざ鷲掴みだぜ!


 ほら、ジレルを押しのけて、セト君が話しかけてきた。

「スライム風情が生意気な口を聞くな!」

 何だとこのガキャ!


「ワシはモゼルの次期国王じゃ! ワシを助けたら恩賞は望みのまま。ワシを助けよ!」

 ジレルが慌ててセトを押さえた。彼女は解っている。


 オレは紳士である。頭に登りかけた血を――血液は流れてないけど――無理矢理鎮める。

 ヒッヒフー……、うむ、ベタだった。反省する。……呼吸器官無いしな。

 

 モゼルっつったら……、ちっちゃい国だな。オレの本体である触手の森に浸食されたいくつかの国の一つ。たしか、海に面した小国家だったな。


 歴史は古いけど、もともと小っちゃい上に、さらに小っちゃくなったおかげで、国としての体裁が取りにくかろう。恵まれた港を持ってないから、海運業が発達しない。

 漁業と農産物だけの小国家。


 ここからだと……ほぼ白紙委任の森を横切った、反対側の海側にある。  

 そこの世継ぎか? ちっちゃな地位に取り込まれた世間知らずのガキか。

 ちったぁ世間ってもんを知らしめてやろう。


「じゃさ、何くれるの?」

 かわいらしく小首をかしげ――首なんて無いけど――セト君に聞いてみる。


「金でどうだ? フェーベ銀貨100枚でどうだ?」

 相変わらず上から目線だな。

 銀貨百枚は好条件なのだろう。ジレルが残った目を丸くしていた。

 でもさ、スライムに金渡してどうしろっての?


「うーん、銀貨ねぇ」

 とりあえず困った顔――顔無いけど――しておく。


「ならば、銀貨の他に地位はどうじゃ? 伯爵をくれてやってもよいぞ!」

「うーん……」

 考えるフリをする。まだまだ値段が吊り上がりそうだ。


「よし、ならば土地もやろう。そなたは地方領主じゃ!」

 ジレルが物欲しそうな顔をしている。彼女は土地が欲しいのかな?


「ちょっと時間が欲しいな」

 焦れさせるために間を開けようとしたが、セトはオレが前向きに考えてると取ったようだ。顔がにやけている。


 護衛の大人二人を失ったんだ。残った少女は大怪我してる。

 そこに現れた人なつっこくてかっこよく強くて今はやりのユルキャラ=スライム君。頼ろうとしたセトを誰が責めよう。


 でもさ、オレが悪魔だったらどうする? いかにも悪魔っぽい登場の仕方だぜ?


「とにかく場所を移そう。チミ達、怪我してるし疲れてるだろ? 今のところ追っ手は来ない。そうだろジレル君?」

 自己紹介前に名前を言い当てたオレ。ジレルがオレを見る目付きが変わった。


 彼女の頭の中は超高速で回転してる事だろう。彼女にとって、ここが分岐点なのだ。

 ジレルはゆっくりと頷いた。

「その通りです」

 言葉遣いが丁寧になった。


 うむうむ、見た目は子供だけど、中身は詰まってるか。話をするのはこっちだな。


「よーし、移動しよう。少し歩いた先に身を隠す絶好の場所があるんだ。ほら、歩いた歩いた」

 オレは子供達の前で、プヨプヨと揺れながら道案内を始めた。

 子供の一人は疑うことなく、もう一人は疑わない外見を装ってオレについてきた。


「先日、モゼルの国王がお亡くなりになりました。セト様はモゼルの国王後継者のお一人であらせられます。コア帝国の都へ遊学に出ておいででした。急遽、モゼルのお城に呼び戻されたのです」

 オレの求めに応じ、ジレルが経緯を語り始めた。


「私たちゼフの里の者が、護衛の任を承りました。狼藉を働いた者共は、セト様を王の地位につかせまいと暗躍する不埒な者共。御礼が遅れました。此度は危ないところを助けていただいて誠に有り難うございます。我々は――」

 ジレルの話は理路整然としていた。おまけに異種族であるオレに対し礼儀すらはらっている。


 オレはジレルの話に途中で割り込んだ。

「だいたい解った。簡単に言うとこういう事かな?」


「セト君は王位継承者のなかの一人なのだな。君たちゼフの里の者は金か何かで雇われた。追ってきたのは正規の騎士連中。モゼルの国は今、泥沼の後継者争いの最中だと」


「……いえ、滅相もない。セト様こそが正当後継者。前王の告別式までにモゼルへ入ることができれば、次の王になるのは間違いないところ。別の候補を立てた勢力が、形勢逆転を狙って刺客を送り込んできたのです」


「告別式はいつだ? どこまで運ぶつもりだった?」

「告別式は4日の後。3日後までに、白紙の森とモゼルの境目までセト様をお送りいたします。行動変更は別の者が伝えているはずです」


 ジレルの右目が、このままなし崩しで助けてください、と訴えている。

 劣勢なのはセト君の方か……。セトの里の立ち位置が解らないなあ。


 ジレルは頭が良い。このまま成長すれば、ゼフの里とやらを背負って立てる逸材となろう。

 生きてこの森を出られればの話だけどね。


 セトは助けてくれたら何でも与えようと言っている。


 生きてこの森を出られればの話だけどね。


次話「ジレルとスライム 後編」に続く!


そろそろ走り始めますですよぉ!

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