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転生者 後編

「「「 最終回 」」」

「エンカウント想定領域へ進入完了。索敵開始」


 処理された情報が粛々と入ってくる。

 ここは作戦室兼戦闘指揮所。


 照明は明るい方だが、外に漏れる心配は無い。なぜなら四方を強固な防壁で固め、オマケに隔離した二重構造となっているからだ。


「敵艦隊補足。数、三十七隻。三本マスト二十七、その他小型十」

「総員戦闘態勢!」

 総員といっても、ここにはオレと巨神さんしかいないが、雰囲気が大事だと思うの。


「よーし、ナガト浮上!」

 オレの号令を受け、巨神さんがレバーを引いた。


「メインタンクブロー。上げ角45。ナガト浮上!」

 アクションに連動して魔道機関が唸りを上げる。


 ドッカーン!


 海面を割り、白い波を蹴立て、海中より躍り出たのは真っ黒な金属の船!


 東の海岸と海賊艦隊のちょうど中間海域に現れたその勇姿は、しんりゃくしゃである、あくのかいぞくかんたいに鉄槌を下す力を持っている。


 全長224メットル、全幅28メットル、総排水量3万2千トソの艦体。


 0.3メットル厚の非腐食魔鋼鉄製装甲に覆われた艦体は、物理法則や魔法法則で打ち破ることはできない。

 0.38メットル三連装回転式主砲が、艦体前部に二基。後部に一基。計九門。

 0.15メットル三連装回転式副砲が、前部に一基。後部に一基。計六門。合計十五門の重力砲がハリネズミのように砲身を掲げていた。  


 艦橋塔から複合探査器、排気筒にかけた両舷に、無数のバルキリーズジャベリン連装砲を配備。近づく物体は穴だらけになるだろう。


 船体中央やや後方に巨大な艦橋がそそり立つ。

 コンゴウ型弩級戦艦ナガトである!

 白紙の森、府中半島軍制府改め、府中鎮守府所属、府中戦艦ナガトが勇姿を現した!


 コンゴウ型とは名ばかりの、実は大和型モドキの艦影。……巨神さんが空を飛ぶ方の大和型デザインしか記憶してなかったのでこうなった!


「汽笛を鳴らせ!」

「了解!」

 巨神さんが天井からぶら下がった紐を引く。


 ボオォォォーッ!


 魔神か、海獣か? それはまるで巨獣の咆吼!


「ふふふ、海賊共が驚いているぞ」

 オレは愉快だ。愉快だと声高々に宣言しよう!


 正面と左右の魔法スクリーンに隊列を乱す木造船の姿が映し出されている。

「敵影補足。照準合わせ。艦長! 主砲発射準備整いました!」

 巨神さんの報告が上がる。特に決めていないが、巨神さんは艦長職ではなく、戦闘科の長をやりたいらしいので、こうなった。


「一番主砲、発射っ!」

「てーっ!」

 第一主砲の砲口より轟音と白い煙が発せられた。


 時を置かずして、海賊の船一隻が爆散した。木造船である。攻撃魔法の極地、マギナ・グラビティ・ブレッドを喰らって、タダで済む物質などこの大地球に有りはしない。


「続いて、二番主砲、発射!」

「第二主砲、てーっ!」


 音の壁を打ち破り、不可視の砲弾が三発撃ち出される。

 今度は二隻の大型艦を串刺しのうえ破砕した。


「よーし、計画通りに各個撃破。全砲門撃て!」

「全砲門、てーっ!」

 あれ? 巨神さん、その掛け声はなんかプロっぽいじゃん。かっこいいじゃん。なんで打合せの時、教えてくれなかったの?


 艦内乗組員同士の微妙な齟齬をよそに、戦艦ナガトは次々と砲撃していく。


 海賊にとっちゃ、たまったもんじゃないだろう。

 いきなり水中から鉄の巨大船が現れ、彼らの認識にない飛び道具を撃ちまくっているのだ。


 彼らの頭脳に、潜水艦も鉄船もない。長距離砲の概念にバリスタはあるが、筒状の砲など理解の外だろう。

 そしてその砲弾は実体がない。重力の塊なのだから。


 お化けが出た。海の魔物が出た。船のバケモノだ!

 そんな声が聞こえてきそうだ。


「残存数五隻。逃走に入りました。予定より数が少ないです」

「攻撃が速すぎた様だな。しかし全滅よりマシだ。計画通り一隻を残して残りを沈めよ! 左に舵を切って後を追え!」


「バウスラスター作動。取り舵いっぱーい!」

 え? 取り舵って何? 専門用語なら前もって言ってくれないと!


 巨神さんが艦の向きを変えた。逃走する五隻の真後ろに艦をつける。

「火力を前面に集中! 撃ちかた始め!」

「うちかーたー、はじーめ」

 あ、またなんかそれっぽい発音してる。狡いぞ巨神さん!


 巨神さんの射撃は正確だ。

 全速で逃げる帆船を一隻、また一隻とゆっくり撃ち落としていく。


 逃げる方は恐怖の渦中にあるだろう。僚船が一隻、また一隻と海の藻屑と消えていくのだ。次はこの船か? 次は自分が死ぬのか? 恐怖に心臓を鷲掴みにされていることだろう。


 それが本作戦の要である。


 敵に恐怖を植え付けること。そして……。

「残り二隻。……残り一隻。撃ち方、やめーぃ」  

 巨神さんの猛攻が止まった。たった一隻残った幸運の船が、それこそ汗を飛ばしながら帆走している。追い風だから、まずまずの速度だ。


 さて、本作戦の要は……。


 一隻逃すこと。そして植え付けた恐怖を持ち帰ってもらうこと。恐怖の伝染。恐怖の伝説化。これである!


「本作戦は、これをもって終了する。ご苦労様でした」

「帰りましょう、古里へ。お疲れ様でした」


 府中戦艦ナガトは艦首を翻し、母港への帰途についた。


「さて海賊共は、この海域に恐怖を感じ取ってくれたかな?」

「大丈夫ですよ触手さん。正体不明の悪意を持った何かがこの海域にいる。そういう風に思うようになれば、海賊も来なくなります」


「正体不明か。考えたね。この艦は魔族が関係するにしては造りが細かい。人間が関係するにはオーバーテクノロジー過ぎる。結局、魔族でもなし人間でもなし。謎そのものの存在として存在する」


 そういうことなら魔族の関与は疑われない。なにせ、この世界に魔族は居ないことになっている 。ただ魔獣のクラス付けにSクラスがあるだけだ。


 ……そんなのが3万匹も居るんだ。


 ……そんなのが3万匹集まる地下格闘技場で何が戦ってるの?



「この一回で引き下がることはないでしょうが、あと2・3回繰り返せば、海賊共の襲来もなくなるはずです。日を変えて、海賊の支配地域に艦砲射撃を加えましょう。それで全作戦は完了です」


 海賊は襲撃程度に思っているだろうが、こちらは戦争のつもりである。綿密な準備とシミュレーションを繰り返した結果を元に、こういった行為に及んでいるのだ。



「あ、触手さん大変です。左舷(ひだりげん)奥部艦底に浸水です」

「ぬ、急造だからな。ポンプ動かしてみるよ」


 白紙委任の森・府中要塞を鎮守府に作り替え、ドックを設置するのに5日。それから試作艦一号を作るのに7日。

 試作艦一号は全長300メットルの巨艦だったが、試験航海開始直後にあえなく沈没。

 触手クレーンを総動員して引き上げた後、原因究明のため分解解析。

 失敗を踏まえて試作艦二号は220メットルに縮めた。


「触手さん、これじゃ小回り効かないし、タグボート作る余裕無いしバウスラスターとスターンスラスターを付けましょう」

「巨神さん、左右の動きだけじゃつまらない。上下の動きも付けよう」

 こうして潜水能力が加わった。


「砲塔の連装化は譲れません! あと、対地攻撃能力を持たせるため、重力に左右されない光線系は採用できません!」

「うむ、いいだろう。主砲発射の際、揺れ防止のためもう少し船幅を広く取ろう。それと秘密兵器、透明金属! これを艦の窓に使おう」

「デザイン優先……もとい、造波抵抗打ち消しのため、バルバスバウも採用してください!」

「しかし巨神さん、前世持ちは、こういう時頼りなるね」

「そういう触手さんも、ずいぶんと詳しいじゃないですか?」

「うーん、まあね。いろいろあってね」


 悪のりしたオレ達は、試作艦二号を元に魔改造プラン艦・ナガトを制作。ここまでで計30日かかった。巨神さんに言わせれば30日は驚異的な速さだという。






「ヤバイヤバイ! ポンプ出力より海水流入量の方が多いみたいだ!」

「バ、バケツはどこだ!」

「おちけつ、巨神さん!」

 非常事態が、回想シーンからオレ達を現実に戻した。


「うおっ、ちょ! バランス取れバランス!」

 右往左往しながら、ドックへと帰還する為、全速で海上を走らせる。

 計算すると、航行不能になる前にドック入りできそうだ。



 真正面の陸地に、夕日が沈んでいく。

 通常航行用艦橋内部が、オレンジ色に染まる。


 巨神さんが思い出した様に聞いてきた。

「触手さん、ずいぶんとこっちの世界に詳しいじゃないですか? 実は俺と同じで転生者じゃないんですか?」

「違う。けど関係ないこともないか……」


 オレは昔の、ある時期を思い返していた。


「森の中央にいきなり異世界移転した者がいてね。そいつを興味半分で保護していた事があったんだ。色々と話聞いてたのさ。たぶん巨神さんの故郷から来たんだと思う」

「おや、その人は今どこに?」

 巨神さんが身を乗り出して聞いてきた。興味あるのだろう。


「ずいぶん前に死んじゃった。移転の時作った傷が元でね、病気併発しちゃってね。当時のオレじゃ直せなかったのさ。外界に助けを求める手段も無かったし」


 二人の会話は、少し間が空いた。


 巨神さんは俺から視線を外して、聞いてきた。

「……仲、良かったんですか?」

「……友達だ」


 再び視線が合わさった。

「お墓に手を合わさせてもらっても良いですか?」

「……ああ、頼むわ」


 オレは血の色をした太陽をまじまじと見つめた。生物としての目じゃないから、見つめていても害は無い。


「神殿の庭にある。案内するよ……。ま、それが元でいろんな薬作る様になったし、それが波及して変な技術手に入れたりしたし、外界の情報や、外界への接点を求める様になったのもそれが原因かもな。おっと、到着だ」


 日が暮れる前に、ナガトは岬のドックへと到着した。浸水で航行不能になる前に着いてホントよかった。


 その夜は、二人ともナガトの整備に追われ、休憩の一つもできなかった。

 結局、戦艦建造中を含め、一ヶ月の間不眠不休で働いていたことになる。

 もっとも、半島全てが体でもあるオレに疲労は無縁の存在だ。

 巨神さんも眠らなくても良い体だそうな。


 次の日の朝早く、一睡もしなかった巨神さんは白紙委任の森を出立した。もらった休暇が一ヶ月だったということらしい。もの凄い駆け足で去って行った。

   




 今回の一件で――

 ワタシは外洋航行可能な船を手に入れました。

 ゼルビット地方全域に情報網を張り巡らせることもできました。


 さて、ワタシは芝生の様な存在です。

 根さえ張れば、本体から切り離されても増えていくことができます。


 ゼフの者を使えば、白紙委任の森から離れた土地に繁殖することも出来ます。

 ナガトを使えば、海の向こうの大陸にも繁殖することが出来ます。



 ワタシは、安穏とした暮らしの終焉を予感していました。  

 さあ、お遊びはこれからです。





 触手ノ王 な日々 「完」


今回でお終いです。

短い間でしたが、お付き合い有り難うございました。





触手が疼きだしたら、新しい冒険がはじまるかもしれません。


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