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転生者 前編

 オリュンポス山脈の南に開けるゼルビット地方。そのさらに南端部に巨大半島がある。

 その地の殆どを魔の森が占めていた。

 人々は恐れと畏怖を込め、白紙委任の森と呼んでいる。


 申し遅れました。ワタシはその地そのものである触手の王と呼ばれる存在なのです。




 さて、今回、白紙委任の森にお客様をお迎えする次第となりました。

 迎賓館はもちろん神殿です。


 少々特殊な立場の方なので、ワタシの分身たるスライムでお出迎え致します。


「ども、こんにちは!」

「やあ、久しぶり!」

 訪れたのは魔族では珍しい人型をした方。身長2.1メットル。一見、全身を鎧で覆った姿。


 シェイプチェンジ.lev1を取得して間もない巨神さんである。


 さっそく玄関ホールにおかれた新しい美術品に目が行ってる模様。


「触手さん、この銅像、変わってますね? やたらリアルだし、目のやりどころに困る一品ばかりですが」

 巨神さんは、特に女性賢者……もとい、一番賢そうな女性像が気に入ったご様子です。

 

「彫像な――。さすが会長、目の付け所が違いますな。これら6体の彫像は、二度と手に入らない幻の名作ばかりです。手に入れるのに苦労しました。それこそ命がけですよ。配下の魔獣共が幾人犠牲になったか」


 巨神さんは会長と呼ばれるだけあって、オレが所属するハーレム勇者撲滅委員会の会長であらせられる。

 ハーレム勇者撲滅委員会副委員長見習い心得のオレとしては、会長職にあるお方を下に置けないのである。


 魔族としての格はあんたが上だろう? って声をよく聞きますが、そうじゃないんですよ。


 魔族間に格付けはありません。

 もし、順列をつけるとすれば、その場その場の立ち位置で変わってきます。


 今は巨神さんを会長として扱っているので、オレより目上です。しかし、先輩後輩としての立ち位置ならオレが上でしょう。


 あと、戦闘力でいえば……どうだろう? 同僚みたいなもんだろうか?

 戦闘力を純粋に数値化すれば、確かに魔王さんと触手の王たるオレがツートップでしょう。


 森の中なら、魔王さんを撃退するほどの戦闘力を持っています。対空、対地もSクラス判定が出ている。しかし、オレは森の外へ出られない。グランドキャノンや爆炎の飛翔体が届かない距離で悪口言われても、為す術がありません。


 青い犬さんなら、地の果てまで追い詰めて叩き伏せる事が可能です。地上では無敵だろう。でも空からの攻撃を苦手とします。水中戦も苦手のようです。


 オレも、海からの攻撃に関しても迎撃が精一杯。水中に対して、こちらから攻撃する術がない。


 巨神さんは地上S、水中A、空中戦はできないけど対空はSという判定を持っている。


 一概に誰が強いかと言えない状況である。いかにしてこちらが得意とするフィールドに持ち込むかが勝敗の分かれ目だ。

 そんな感じで、純然たる戦闘力が上下を決めるという感覚が魔族にはない。


 そうそう、忘れていた。

「巨神さん、名誉魔族認定おめでとうございます!」

「あ、こりゃどうも。わざわざご丁寧に有り難うございます」


 巨神さんは元々魔族ではないのだが、いろいろな功績があったり、めんどくささを省くために名誉魔族というカテゴリーを最近得たのである。

 特にこれといった特典は無いが、滅多になれる物ではない。魔族の自治会長である魔王さんと真剣勝負をして、実力で勝ち得たカテゴリーである。


「ちなみに、どんな勝負だったんですか? オレも魔王さんと定期的に戦ってますが、魔王さん強いですよ。毎回ギリで撃退しているのが真相ですよ!」

「条件が良かったんですよ」


 巨神さんは、その経緯を話してくれた。


「魔王が言うには『何でもいい、ワシに一発勝負して勝てばいい』それが第一条件でした。勝負内容も『肉弾戦上等! あるいは、チェス、将棋、囲碁、などの頭脳戦でもいい。先手を取らせてやる。ほらやろう、すぐやろう!』なんていわれたモンですからね……」


 さすが魔王さん、魔族のエリートだけあって、自信満々だ。

 ガチバトルOK。

 ゲームでもOK。ゲームの場合は、巨神さんに種目と先手を与えるという太っ腹。

 何という自信に溢れた方だ。さすが自治会長。あんなめんどくさい役職に就いてるだけある!


 ちなみに魔王さんは150年連続魔将棋永世九段である。魔囲碁は300年連続魔族本因坊。五目並べは竜王の位保持者。魔族トレーディングカードゲーム大会の昨年度チャンピオンだ!

 ゲームじゃ魔王さんに勝てない。これは巨神さん、バトルに出たな?


「……で、ゲームを取りました」

 え? 


「俺が先攻の条件ですから。種目は2目並べ」

「巨神さんも勝ちに出たな、おい!」


「魔王さんが言うには『やってみなきゃわかんねーぜ!』でした」

「魔王さん漢だな!」


「試合の見届け人、兼観客として、王都コアのドーム型コロッセオ地下に、極秘で設けられた地下魔族格闘技場に3万人の魔族が集まりました」

「全員、ルール知って集まったんだろうな?」


「第一試合は俺の勝ちでした」

「死闘を繰り広げたんでしょうね……って第一試合?」


「魔王さんの『泣きのもう一試合』が入りました。土下座されちゃあね!」

「魔王さん、情けないぞ!」


「負けた者が先攻になるルールに改変しました。第一試合が生きてますから、結局俺の二勝一敗で勝利が確定しました」

「魔王さん、安い土下座だったな」

 

「でも観客が納得しなくて。魔王さんがゲームで負けるわけねぇ! って騒ぎ出して、3万人の魔族が暴動を起こしたんです」

「魔族ってそこまでバカだったっけ? いやいやいや、喧嘩になったのか?」


「先生がふらりとやってきて、ズン! ギラッ! で騒ぎを押さえてしまいました」

「先生って誰? 魔族の勢力図が変わっちゃうよ?」


 以後しばらく、魔族の間で2目並べが流行ったというが、オレは魔族として恥ずかしい!

 そんなこんなで、お互いの近況を語り合っていた。




 そして話は、最近の俺の行動に移る。


「塩や綿の販売で活躍しておられるようですね。あっちこっちでゼフの商標を見聞きしますよ」

「いやー、シルクケトル加工は巨神さんからの受け売りですからねー。綿畑の管理はゼフの皆さんに任せるようになってから楽してますよ」


「綿畑を譲渡しましたか。……他に隠し球があるからじゃないですか?」

 巨神さん鋭い!

 実を言うと、より高度なテクに走っているのだ。


 それは製鉄。


 白紙委任の森を成す山地には鉄が取れる地域がある。少量ではあるが、ボーキサイトも産出している。近くでは各種魔晶石も産出しているのだ。

 鉄を生成するには高温が必要だ。普通、炭を使ったりするが、木を切り倒すので自然破壊が問題となる。


 オレは違う方法で熱を手に入れている。


 それは、対魔王兵器グランドキャノンのエネルギー源でもある。ベスギア=ガノザの地下深く。もっと深くにマグマ溜まりがある。

 その熱を利用しているのだ。


「なるほど、大地球に優しい製鉄技術ですな! これはエコだよ!」

 巨神さんに褒められて大変嬉しい。


「他に何があります?」

「良い話はこれまでなんですよね……」

 オレはがっくりと項垂れた。


「え? どうしたんです?」

「ふぅ」

 オレは弱々しく息を吐いた……風なセリフを喋った。


 そう、これは小芝居。巨神さんが持つ異世界の知識を引き出すための擬態である。

 有利な条件を引き出すためなら土下座でも何でもする、それが魔族共通の性質!


「俺で役に立つなら何でも言ってください!」

 巨神さんはお人好しで有名である。思った通り乗ってきてくれた。

 これでアイデアをタダで借りられる。


「実はね……」

 俺はつとつとと悩みを打ち明けた。


 それは東の海の海賊。


 ゼフの民が追いやられ、この地に移住したきっかけでもある海賊のことである。

 前にも話したことがあるが、海賊共は力を付けた。付けすぎたのだ。


 海賊の組織はオトリッチ王国に戦争を仕掛けているつもりだ。オトリッチ側は戦争とは思っていない。そこが海賊共の付け目。勝敗の分かれ目だった。


 海賊はオトリッチ王国にがっちりと食い込んでしまった。

 王国に戦う力は殆ど無い。全くないと言うわけでは無い。そこそこの戦力が残されているのだが、海賊の政治的介入で無力化したのだ。


 それだけなら魔族的に問題は無い。人間同士の戦いなのだ。いつまでも人間同士、矛を交えて遊んでおればそれでよい。


 しかし、その矛先がこっちへ向いたら話が違ってくる。


 オレの本体である触手は、増えすぎたため、一部が東の海へ落ち込んでいる。直接、海に触手が浸かっている地域があるのだ。

 中くらいの村が四つばかり作れる面積を持つ半島だ。

 白紙委任の森防衛は、三つの軍制府で仕切っている。その真ん中にあるので、その半島を府中半島と呼んでいる。

 塩を採取する重要拠点である為、実際に「東部中央軍制府要塞」を置いて、重要防衛拠点としているのである。


 図に乗った海賊共は、その府中半島にちょっかいを出してきた。

 オレ事、触手の王たる者の弱点を突いてきたのだ。


 さっき言った様に、オレは、森の中では無敵である。今まで、オレに攻撃を加えてきた愚か者共がいたが、全てが白紙委任の森の中での戦いを余儀なくされたのだ。



 森の中というオレのフィールド内で勝てるはずなかろう?

 事実、その悉くを撃破してきた。攻め手は命からがら森を出て逃げる。


 そう、森から逃げる。言い換えれば、森から逃げれば安全なのだ。

 そこを突かれた。

 海賊共は森の外、つまり海から魔法による遠距離攻撃を仕掛けてきたのだ。

 府中半島は、勇者と魔王さんを想定し、陸戦と対空戦闘に特化した軍制府要塞となっている。海からの攻撃は想定してなかった。


「それは問題ですね!」

「うん、いっそのこと爆炎の飛翔体かグランドキャノンを艦隊に撃ち込んでやろうかと思うんだけど」

 巨神さんは俺の話を聞いて、少し考えている。


「それは魔族的にちょっとまずいですね」

「どうして?」

「魔族って、表だって人間の活動に介入する事を禁じているはずです。白紙委任の森がオトリッチの味方についてはいけません」

 それを認識した上で打つ手が無いから巨神さんを頼ったんだ。


「魔族が手を出しちゃダメ。人間に力を貸すのもダメ。……良い考えがあります!」

 巨神さんの目がキラリと光った。


「発光機能を追加しました」

 巨神さんに死角はなかった。


「相談しましょう。触手さんには色々と準備していただかなくてはなりません」

 魔物二人による(はかりごと)が始まったのであった。




次話・最終回「転生者 後編」

お楽しみに!

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