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勇者襲来 

 勇者の一行が森に入ってきた。


 武装した戦士らしき者と二人連れである。

 

 状況的に見て……、ワタシとよしみを通じる為の訪問ではなさそうだ。

 こちらとしては勇者と事を構える理由が見あたらないのだが?


 ワタシは勇者の好敵手とされている魔王と、ここしばらく敵対関係にある。

 敵の敵は味方というではないか?

 力を貸せとは言わないまでも、協力関係の構築を勇者サイドから求めてくるのが正しい戦略というモノだ。


 ちなみに、わざわざこちらから接触しようとした努力を台無しにしたのは、勇者の(サイド)である。


 ワが領土の第一次防衛ラインを勇者一行は無断で通過した。

 それに対し、ワが分身を正式な使者を遣わせた。

 礼儀正しいワタシとして、それはごく自然な思考結果である。


 勇者が、ワが分身であるスライムを一刀両断にして捨てた行為を敵対行為と呼ばずになんとするか?

 いきなり目の前に愛くるしい直径1メットル強のゼリー状物体が、ボトリと音を立てて落下しただけであの驚き様。あの仕打ち。

 無体である。


 おっと! 状況を説明し忘れていましたな。


 ここは大地球の海に顔を覗かせた大陸の片田舎で、ゼルビット地方と呼ばれています。

 オリュンポス山脈により広大な大陸は東西に分離されております。

 その分離された東南部に突き出た亜大陸クラスの半島。


 それがここ。

 ワタシの「本体」であり、拠点である土地なのです。


 北は王都を臨み、南はアレス海に突きだした広大な大半島。

 その半島をほぼ占める形の山地を実質支配しているのが、このワタシです。


 ちなみに、大半島の南西部より南、並びに南東の海岸部分に、たいした国家は存在してません。

 なぜなら、ワタシ自身の勢力が、今まさに半島より、はみ出さんとしているからなのです。


 あ、申し遅れました!

 ワタシは人間ではありません。


 魔物目の、魔獣科の、魔族に属する高等知性生命体です。

 その中でも、六つの災害魔獣の一つ。山脈の触手、テュポーンのカムイとか何とか呼ばれています。人から。


 ぶっちゃけ、触手です。


 生物学的には、植物と動物の中間に位置します。

 わかりやすい様に例えると、芝生みたいな存在です。

 太陽と土地と水があれば、どんどんどんどん増えていって、挙げ句の果てに広大な半島を占めるまでに成長しました。


 ここ数百年の間、私の成長は止まらず、人間が住まいする土地にまで浸食してしまうていたらく。迷惑かけてます。

 現在は……四万平方キロメットルを越えた時点で計測するのを止めました。今は四万五千位に膨らんでいるかもしれません。

 地下くぐって飛び地になってるところもあるんで、計算がややこしいんです。


 そこんところは植物系性質なんで、芝生みたいなもんなんで、増えるワカメみたいなもんで、増殖に制限掛けられないんで、人間の方々には仕方ないと諦めてもらうしかありませんな、ハッハッハッ!。


 まあ、周辺のどの国より遙かに大きいみたいなんですけどね。


 芝生みたいな存在ですから、千切られても千切られた先っぽが繁殖していくんですよぉーっ!



 話し戻して……。


 ワタシは、この森一帯を治める魔族の長でもあるのです。

 謙遜は致しません。少なくとも、魔王と名乗る魔族の個体と対等に渡り合える力を持っております。

 長生きしてる間に、自分でも狡いかな? と思うような技能や出力を備えてしまいました。

 魔王より反則技と指摘された、ある取り込み事件を経て、多彩な思考方法と知識も手に入れました。


 地に根を張っている故、移動に制限がありますが、迎撃戦闘ならほぼ無敵。

 過去、周辺四国家の同時責めに耐え、反撃の上、海から蹴落としたという戦歴を自慢しております。

 いやー、皆さんに見せてあげたかった!




 さて、話を戻しましょう。

 勇者がワタシの体である森に分け入ってきたところでしたな……。


 彼の者は、歴とした男勇者だ。

 森の中、獣道をかき分けかき分け進んでいる。

 なまら力を感じる剣を腰に佩いている。邪魔だとかで背中に回してないところが実戦経験の豊富さを感じるところ。


 年の頃は十七を過ぎるか過ぎないか。

 ハンサム系だけど、顔は子供っぽさを拭い切れていない。

 ぶっちゃければチャラ男。


 おっと、こんな書き方だけだと、彼を羨ましがってるのではないかと、あらぬ疑いをかけられるのがオチですな。

 判断は、もう少し先に延ばしていただきたい。

 自分なりの理由があって、勇者を疎ましく思うのだから。


 まず第一にこの勇者、なにをトチ狂ったか、ワタシを殺すために険しい山道に入り込んだ。


 勇者なら魔王の首でも狙っていれば良いものを、なぜゆえワタシを狙うのか?

 理由は知っている。

 使者として立てたスライムが虫の息状態の時、勇者は声高らかに進入の理由を述べたのだ。


「白紙委任の森に巣くう触手の王、カムイを倒し、その威勢をもって魔王に当たる!」

 

 このガキャー!


 ワタシとの戦いを魔王との前哨戦と位置づけてやがのだ、この勇者は!

 大変迷惑な話である。いてもうたろかコノヤロー!

 何度も言うが、ワタシの立ち位置は魔王と相対するものッ!


 この世界にも、ご多分に漏れず魔物が生息している。魔族がいる。それを束ねると設定されている魔王も存在している。

 魔窟の魔王、迷宮の黒霧、堕落王(サタナ)などとの二つ名を持つワがライバル、魔王アンラ・マンユその人……その魔王である。


 過去、幾度もその魔王と矛先を交え、都度撃退しているッ! 感謝され生け贄の一人や二人を用意しつつその協力と加護を願い出るのが愚かな人間共のスジというものであろう!


 勇者を嫌う第二の理由。

 それは彼の仲間である戦士にある。


 いや、仲間のせいにしてはいけない! 仲間は、見たところ真面目な戦士だ。

 勇者の前衛よろしく、前に立ち露払いをしている。


 小振りのサークルシールドは背中に回し、幅広の長刀は鞘に収めたまま腰に佩き、鉈のような山刀を片手に藪や小枝を切り開いて進んでいる。

 自分の立ち位置と役割を心得たなかなかの人物であると推測される。


 ただ、ワタシが問題としている点は……、

 戦士が女の子であるということ。


 勇者と同い年かな? 体のラインを強調したアーマーを纏っている。

 ボンキュッバーンなスタイル。

 長いピンクの髪。鋭い目尻。凛々しさの中にあどけなさを残しつつ、女の部分も垣間見える美少女。


 勇者と毎晩よろしくヤッテおいでなのか?

 くそっ! ピンクビッチかよ!


 ワタシはハーレム勇者撲滅委員会副委員長見習い心得という肩書きを持っている。

 ちなみに委員長は巨神で、副委員長はおっきな犬である。


 おっと、また話が逸れましたな。


 話を元に戻して……、立場上、怒っているのではない。

 女子を前衛に出すというその心構えに我慢がならぬ! と、ワタシの体のどこかにあるハートと拳が熱く訴えているのだ!

 

 

 なんだかんだ言ってる内に、結構深く進入されてしまった模様。

 ワれながら、油断しすぎ!


 とはいうものの、仲間が一人の勇者など、たかがレベルが知れている。

 ワタシは、推定されたレベルに応じた魔物を用意した。


 魔物共は配下、と決められたわけではないのですが、ワタシの土地に住む以上、ワタシの恩恵を受けているわけで、故にワタシの希望に添わぬ事を良しとする魔物は居ない。

 命令には嬉々として答えてくれるのが常。


 ワタシは、シェードとゴブリンを数匹ずつ、迎撃に向かわせることにした。


 迎撃地点は一段低くなった窪地。

 ぴょこんとゴブリンが一匹飛び出した。


 勇者と戦士はそれぞれの得物を抜き放ち、目の前の敵に身構えた。うむ、なかなか良い反応である。

 二人の猛者に対し、シェードは上空より、ゴブリンは左右と後方から同時攻撃を開始した。


 異種族であるにも関わらず、見事な連携。そして最初に飛び出したゴブリンは視線誘導のための囮と来た。

 なかなかの策士共である。この程度の芸当くらいこなさないと、ワが森で生きていく資格はないと思っているのだろうか?


 これで勇者も肝を冷やして……、

 返り討ちにあったーっ!


 ピンクビッチの戦士は、囮のゴブリンに目もくれず振り向きざま、手に持ったままの山刀を勇者の背に狙いを付けたゴブリンへ投げつけた。

 これが見事なまでのクリティカルヒット。額がぱっくり割れて即死である。


 勇者はゴブリンを戦士に任せ、もっぱらシェード対策である。

 勇者が気合いを入れると、剣が淡い光を放ちだした。


 一閃! ジャンプして剣を振るう。

 攻撃魔法でしかダメージを与えられないはずのシェードが切られる!

 着地したときにはシェードが二体、成仏していた。


 体を捻りながら真横に剣を振るう。

 最後の一体が闇へと帰った。


 そのころにはゴブリンもピンクビッチに片付けられていた。

 ぬっ! なかなかやるな、勇者共!


 ……まるで悪の魔王みたいだが、ワタシは魔王ではない。あくまで魔王と敵対関係にあると設定されている存在なのだ。

 魔王の真似は死んでもやらない。やりたくない!


 軽々と魔物共を返り討ちにした勇者一行。


 卑劣にも、きゃつらは貧乏で有名なゴブリンの懐を探りだした。そして表面が擦り切れたなけなしの銅貨を自らの財布へと放り込んだのだ。


 返り血を浴びた顔が笑顔に歪む。

 元が良い作りなだけに、いっそう壮絶である。


 もう許せぬ! 赤い血潮が……赤くないし、そもそも血なんて流れてないけど――血潮が渦巻き、体のどこかにあると思われる心が勇者を倒せとたぶん叫んでる!


 次の刺客を送り込んだ。

 ハイオークとゾンビウルフである。

 行け! 君に決めた!


 あ、いや、ちょっと人間っぽい部分の癖が出ただけで赤白ツートンのボールは持ってないんだからね!



 身長二メートル五十センチ、体重三百キロを誇るハイオーク。

 時速八十キロで突っ走るゾンビウルフは不死の(死んでるけど)アンデット。

 この組み合わせは我ながら凶悪だと思う。ふふふ!


 一時間後。

 六匹のハイオークと十二匹のゾンビウルフ隊が全滅した……。

 腐っても勇者。いや、腐ってるのはゾンビウルフか……。


 第二次防衛ラインは、魔王にしか突破された事ないのにっ!


 こうなればワタシ自ら出陣せねばなりますまい!

 ワタシの凶悪な本性をここで現してくれよう!


 幸いにも、勇者一行は展望の開けた丘の上で休憩している。

 四方に見晴らしが良いため、いち早く襲撃を察知できると踏んでの場所取りだろう。

 それが命取りだというのだ!


 何の前触れもなく、4本の触手が地を割り、天へ向かってそそり立つ!

 太い触手。ウネウネと無秩序に蠕動しつつ、粘液を巻き散らかしながら起立する姿は何度見ても雄々しい。

 おっと、見た目だけの通報はやめてくれたまえ!


 勇者と戦士に向け、四方上空より、触手が一斉に躍りかかる。

 敵も然る者。4本の触手を抜き打ちに切って捨てた。


 恐るべきは勇者達の反応速度である。


 ならばと、次は倍の8本の触手を出現させた。

 これも一撃のもと切り倒された!


 続いて16本。続いて32本。64本。168本。336本。

 飛んで112,896本。

 さすがに捌ききれなかったのか、112,896本による一撃の後、勇者と戦士は粘液にまみれ、ネトネトになって転がっていた。


 これだけで済まないのが触手品質。

 彼らが転がっている見晴らしの良い丘。


 そんなのは元からここにない!

 

 その正体は、ワタシの体の一部を変形させた疑似大地であった。

 丘そのものが一つの触手なのである。


 極太の触手が、ピストンよろしく、空に向けて跳ね上がった。

 彼らにかかるGは……骨くらい折れるものだった。筋組織なら潰れるか? 内蔵など保たないぞう。うまいこといえた。


 上空の勇者達に向け「爆炎の飛翔体」十本を発射した。


 コイツは触手を改造した武器で、硬質の筒状10メットルの細長い円筒形をしている。

 筒の上三分の一に火種と爆発火材が詰められている。下三分の二には推進用の固体発火材が仕込まれている。

 下部の発火材が燃える事で急速に体積を増す。それを下方へ放出すると反作用で本体が高速飛行する。


 対魔王用決戦新兵器をここでテストしてくれよう!


 魔王は禁呪クラスの魔法を軽くレジストしてくれる存在だが、案外原始的な手法が通用するのだ。


 キュボボボボボン!


 一人に対して五発の爆炎の飛翔体が命中した。

 空中に二対十個の巨大火球がかぶって開く。


 黒煙が晴れた後、何も無い空に、ただ風が吹くだけだった。



 さて、エビせんべいでも食って寝るか。



今回のお話しは、中編? です。

お題は8話ほど。

前後編とかもありますから、合計14話程になります。


次回「ジレルとスライム」に続く。

お楽しみに!



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