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彼女は天才、彼は秀才  作者: 大和麻也
飛び回る彼
20/27

V 「見つけた」

「才華、いま家にいるかい?」

『いるよ。尻尾を摑んだんだね?』

 興奮した声が帰って来る。かくいうぼくの声も弾んでいる。

「平馬がバスを使って、菅野総合医療センターに向かうらしい。家に戻ったらすぐ自転車で先回りしてみようと思うんだ」

『解った。任せて』

 携帯を閉じ、まっすぐ家へと歩いた。

 窪寺の駅を離れて十分ほどで家に着くと、私服に着替えた才華が自転車を準備していた。

「さあ、すぐにでも行けるよ。走りながら、経緯を教えてもらうよ」

「ありがとう。まずね――」

 ある程度の顛末を話しながら自転車を漕いだ。平馬がバスを利用したならば相手は所詮路線バス。停留所で時間を使っているあいだに先回りできるはずだ。

 信号で止まると、才華がこちらを振り返った。

「ねえ、平馬くんがこの方角のバスに乗っている、と弥が考えた理由を聞いていないんだけれど」

「江里口さんに答えてもらった中で、一番もっともらしいから」

「いや、だから。平岡方面に行くんじゃないか、とは考えないの?」

「ええと、『終着まで乗る』と言っていたから、医療センター行きが濃厚だと思った……いや、これじゃあ確証にはならないね。……そうだ、平馬は窪寺のゲームセンターに行っている。平岡の方に行けば、もっと別の遊び場くらいあるじゃないか」

 才華は渋い顔だ。

「窪寺じゃないとダメな理由があるのかもよ。帰宅時間も考えているのかも」

「そうか……」考えていると、信号の色が変わった。走り出しながら声を出す。「そうだ、平馬自身がそこまで難しくない事情だと言っていた。それってつまり、自宅方面に行くってことでいいんじゃない?」

 言い終えてから顔が熱くなった。一切筋が通っていないじゃないか。案の定、才華からは痛烈な批判が返ってきて、

「全体の話が簡単なのと、行き先が簡単なのとは話が違う」

「……そうだね。でも、平馬は普段から家にはまっすぐ帰るんだ。何か目的があって窪寺周辺をうろうろするなら、窪寺周辺で何かがあったんじゃないかと思う。寄り道をするにしたって、菅野駅の街に行かなくたって買い物は別のところでできる。だから、目的があるとしたら病院のほうが納得がいくんだ」

 才華がちらりと振り返った。口角を上げ、満足そうな顔に見えた。

 お眼鏡に叶いましたか?



 病院の玄関近くにあるコンビニで買い物がてらにバスが来るのを待った。

「弥、見つけた。来たよ」

 五分経ったころ、そう言って才華が指差したバスからは平馬が降りてきたから、ふたりで小さくガッツポーズをして喜んだ。

 こそこそと怪しまれない程度に病院の外から中を覗くと、平馬がワンピースを着た女の子と親しげに話しているのが見えた。才華にふたりの様子を探るよう頼むと、才華は一般市民よろしく院内に入って行った。才華は平馬と面識があまりないし、才華はもう私服を着ているから、制服を着た知り合いのぼくよりも怪しまれないはずだ。

 一体何を話しているのだろう?


 数分すると、才華が何やらメモをしながら出てきた。

 才華はぶつぶつと「人形」だの「自転車」だの「妹」だのと呟いている。どうやらそれらのワードを拾ってきたようだ。ぼくを見つけると顔を上げて、

「ねえ、弥。平馬くん、左右片方の手足だけに痣とか擦り傷とかなかった?」

「へ? ああ、右側の肘に擦り傷、脛に痣があったよ。体育の時間に見た」

 才華が頷く。突然どうしたというのだろう?

 そして、メモを書いたかと思うと、そのメモを破ってぼくに渡してきた。その顔には自信と不安が入り混じっていた。

「ありがとう。これでほとんどが解った。難しい話ではなかったけれど、簡単な話でもなかったな。弥、今晩、わたしが夕飯を作っているうちに、これを調べてくれる?」

「うん、やっておくよ」

 そのメモを見てみる。


 〇要点

 1、窪寺のゲームセンターのメーカーを調べる。窪寺と菅野の両方に店舗があるはず。

 2、1のメーカーのUFOキャッチャーについて調べる。限定品があるはず。

 3、2の限定品について調べる。幼女向けアニメのキャラクターのはず。


「才華、これって……」

「言ったでしょ? ほとんど解ったって。それを調べてくれたら、江里口に電話をして、辻褄が合うか確かめてみる」

「そんなにたくさん、ヒントになることを話していたのかい?」

「いいや、断片的に拾っただけ。2と3はほぼ仮説。あんまり自信はないけれど」

「ううん、才華ならきっと。きょうのうちに真実を突き止めて、あしたは良い日にしよう」

 みんなにとって良い日に。真相を知った江里口さんは平馬と再会、推理を完成させて才華は好奇心が満たされる。ぼくも才華に推理を披露してもらえば満足だ。

 その真実に迫るメモをもう一度眺める。こんな推理、ぼくにはもう追いつけない。才華の推理の一部になれると張り切ってしまったけれど、まだまだ、か。

 実力差は顕著だ。嫉妬すら覚える。

 だって、メモの通りの検索結果だったからさ。


次回解決編。皆様の推理、何問当たっているでしょうか?

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