優しさのロボット
シアワセタウンという町にはロボットがいっぱい。
重たい物を持ってくれるロボットや掃除をしてくれるロボットが活躍しています。
そんなロボットたちを作っている博士が新しいロボットを作りました。
「よし、できたぞ」
博士は人間と似た形のロボットの電源を入れます。
ぱちり。ロボットの目が光りました。成功です。
「博士、おはようございます」
ロボットは、ぺこりとお辞儀をします。
「うん、しっかり話すこともできるようだ」
博士はこのロボットを、人間に似せ、人とお喋りできるように作ったのです。
「いいかい。君の名前は、オモイヤリ。人を笑顔にするために君を作ったんだ」
「はい。私は人を笑顔にすればよいのですね」
「そうだとも。みんなの笑顔を集めるのが君の役目だ」
「わかりました、博士。では、早速みんなの笑顔を集めてきます」
オモイヤリは早速みんなを笑顔にするために、外へ行きました。
「僕はロボットだ。ロボットはみんなの役に立たなきゃいけない。困っている人を探してみよう」
困っている人を助ければきっと笑顔になってくれる。博士はそのために自分を作ったのだ。
オモイヤリはそう考えたのです。
オモイヤリが町の中を歩いていると、シャベルを持って雪かきをしているおじいさんがいました。
積もった雪は意外と重いようで、おじいさんは大変そうです。
「これだ」
オモイヤリは、雪かきを手伝えば、おじいさんが笑顔になるはずだと考えました。
「おじいさん、私も手伝いましょう」
オモイヤリはロボットなので、とても力持ちです。
大きなシャベルを持つと、あっという間に雪をどけてしまいます。
「おお、助かったよ。ありがとう」
おじいさんは、にかっ、と笑いました。
カシャッ。
オモイヤリには人の笑顔を写真に撮る機能があるのです。
笑顔の写真のデータは、オモイヤリにとって一番大事なメモリーなのです。
「いえいえ、どういたしまして」
そう言って、おじいさんとお別れして、次の困っている人を探そうとしたところに、男の人が来ました。
「ロボットくん、できればこっちも手伝ってくれないか」
「はい、わかりました」
男の人に付いていって、また雪かきをします。
「ありがとう、おかげですごく早く終わったよ」
カシャッ。これで二枚目。
「ねえねえ、あなた、雪かきを手伝ってくれる新しいロボットさんでしょう?」
オモイヤリのことは早速町中の噂になっているようでした。
雪かき手伝って、雪かき手伝って。
引っ張りだこになります。
「わかりました。順番にやっていきましょう」
オモイヤリは次々に雪かきをしていきます。
この日はたくさんの笑顔の写真を集めることができました。
博士の住んでいる家に帰って、オモイヤリは博士に言います。
「町のみんなは雪かきをすると、笑顔になってくれるようです」
「そうか」
「なので、これからも雪かきをしていこうと思います」
オモイヤリの言葉に博士は「そうか、頑張っておいで」とだけ言いました。
それからみんなの雪かきを手伝って、町のみんなにオモイヤリという名前も覚えてもらえました。
しかし、しばらくするとオモイヤリが雪かきをしても笑顔になってくれる人が減ってきてしまいました。
「早く手伝ってよ」
乱暴にそう言われて、雪かきをしても「ありがとう」さえ言われません。
雪かきだけではありません。
泣いている赤ちゃんをなだめたり、買い物を手伝ったり。
色々な手伝いをしてみても、みんなは笑顔にはなってくれないのです。
みんな、オモイヤリが手伝ってくれることを当たり前のことに感じるようになってしまったのです。
オモイヤリは考えます。
博士は最初に「人を笑顔にしなさい」と言った他に、何も命令をしないので、オモイヤリは自分で考えるしかありません。
「どうしたら、皆笑顔になってくれるのだろう」
お手伝いをしてももう笑顔はもらえません。
みんなが笑顔になるもの。
テレビで、お笑い番組とかバラエティとかいうものをやっていたのをオモイヤリは思い出します。
その番組では、おどけたり面白い話をしたりしてみんなを笑わせていました。
「なるほど。笑顔にするのはお手伝いだけじゃないんだな」
やってみよう、とオモイヤリは思いました。
オモイヤリはピエロになりました。
もうシャベルは持ちません。
ボールの上に乗りながら、ジャグリングをします。
「さあ、オモイヤリの面白ショーが始まりますよ。みなさん見ていってください」
だけど、みんなが笑顔になってくれたのは最初だけでした。
すぐにみんなから「そんなことをしていないで、ちゃんと雪かきをしろ」と怒られてしまいます。
芸を披露するばかりで、雪かきをしなくなったからです。
「笑顔にするどころか、怒らせてしまった。これは失敗だ」
オモイヤリはピエロをやめました。
オモイヤリはシャベルを持って、雪かきをします。
雪かきをしないと、みんなが怒ってしまうからです。
だけど、全然人から笑顔をもらえません。このままではロボット失格です。
それにもう一つ問題があります。雪は冬にしか降らないのです。
春になってしまったら、オモイヤリにはすることがありません。
「冬が終わって、雪が降らなくなったらどうしたらいいんだろう」
そう不安になりながら、雪かきをします。でも誰も笑顔になってくれません。
「もっとたくさん雪かきをしたら、笑顔になってくれるかもしれない」
しかし今度は今までのように「よしやってみよう」とすぐに決断できませんでした。
頑張りすぎると故障してしまうかもしれないからです。
それでもオモイヤリは、やってみることにしました。
故障してしまうことよりも、このまま誰からも笑顔をもらえないことの方が嫌だったからです。
オモイヤリは雪かきをします。
いつもはやらない所も、もしかしたら困る人がいるかもしれない、と考えて。
オモイヤリは雪かきをします。
いつもより速くやるために、重たい雪を一度に持ち上げます。
オモイヤリは雪かきをします。
誰かから頼まれなくても、誰も見ていなくても、やり続けました。
オモイヤリは雪かきすることができなくなってしまいました。
無理をしたせいで、故障してしまったのです。
足がだめになって、動くことができません。
オモイヤリには自分を修理する機能があるので、じっとしていれば壊れた所は直ります。
けれどその間、雪かきはできません。
「どうしよう、困ったな。このままじゃあ笑顔がもらえなくなってしまう」
冷たい道路にぺたんと座っていると、町の子供たちがオモイヤリに近付いてきました。
いつも雪かきしているオモイヤリが、シャベルを突き立ててただ座っているだけなのを不思議に思ったみたいです。
一番年上の男の子が「どうしたの?」とオモイヤリに聞きました。
「足が壊れてしまって、直るまで雪かきができなくなってしまったのです」
オモイヤリがそう説明するとその男の子は言いました。
「それじゃあ、僕たちが手伝ってあげるよ」
みんなはオモイヤリの代わりに雪かきをし始めます。
オモイヤリよりも遅いけれど、少しずつ雪をどけていきます。
オモイヤリにできるのはそれを見守ることだけ。
ロボットなのに、人に助けられている。
「僕はだめなロボットだ」
オモイヤリはそう呟きました。
修理が終わって、オモイヤリはみんなにお礼を言います。
「みんなどうもありがとう。おかげで助かりました」
「どういたしまして」
子供たちはそう言って、笑顔を見せました。
カシャカシャカシャカシャッ。
笑顔の写真がたくさん撮れましたが、どうして笑顔になったのか、オモイヤリにはわかりません。
増えていく写真の枚数に戸惑うばかりでした。
「それじゃあまたね。今度は故障しないように気をつけてね」
子供たちは手を振って、走っていってしまいました。
「どうして、みんな笑顔になったのだろう。僕は何もしていないのに」
再び雪かきを、今度は故障しないように気をつけてやりながら、オモイヤリはずっと考えました。
その日、撮れた笑顔の写真はその子供たちのだけでした。
「どうしてあの子たちは笑顔になったんだろう」
それからずっと考えていますが、答えは出てきません。
博士に聞いてみても「自分で考えてごらん」と言うばかり。
「あの子たち、手伝ってくれるたびに笑顔を見せてくれるんだよな」
あれから、あの子たちは時々オモイヤリのお手伝いをしてくれました。
どうして自分たちが雪かきをしているのに笑顔なのだろう。大変なのに。
「あ、もしかしたら」
オモイヤリは何かを思い付いたようでした。
すると、どういうわけかオモイヤリは今まで持っていたシャベルをポイっと捨ててしまいました。
そのままオモイヤリは雪かきをやめてしまったのです。
オモイヤリはそれから雪かきをしなくなりました。
他のお手伝いもすることはなくなり、ピエロになることもありませんでした。
何もしないオモイヤリに腹を立てて「ポンコツが」とののしる人もいました。
それでも次第に怒る人は減っていきます。
みんなにとってオモイヤリは、お手伝いをしてくれるロボットではなくなったのです。
だけど、そう思われるようになってから、オモイヤリは少しずつ笑顔の写真を集められるようになりました。
今日もオモイヤリは町を歩きます。
歩いていると、泣き声が聞こえてきました。
「どうやら赤ちゃんが泣いているみたいだ」
オモイヤリは声のする方へゆっくり向かいます。
オモイヤリが何かをする前に泣き声は止んでしまいました。
どういうわけで赤ちゃんは泣き止んだのか。
オモイヤリはそれを確認します。
どうやら、通りがかった男の人が面白い顔をして泣き止ませたようでした。
オモイヤリはその人に話しかけます。
「赤ちゃんをあやしたんですね。私からもお礼を言わせてください。ありがとうございます」
「いや、そんな、照れるな」
男の人はそう言って、恥ずかしそうな笑顔を見せました。
カシャッ。
「これからもそんな優しいあなたでいてくださいね」
オモイヤリがそう言うと、男の人は照れた感じで、それでも嬉しそうな顔をして「はい」と答えるのでした。
今日もオモイヤリは笑顔の写真を集めます。
オモイヤリがお手伝いをすることはもうありません。
人が笑顔になるには、優しい心でいないとだめなのだと、オモイヤリは知ったからです。
オモイヤリは優しい人を褒めるために町を歩きます。
誰かに優しくしてよかった、と思ってもらえば、たくさんの笑顔が集められるとオモイヤリは信じているのです。