溺れた場所は
そん時はさ、鮎の友釣りしてたんだぁ。
でぇ、場所を変えようと思ってよ、ちょっと移動したんだわ。
そしたら足元の石ころが転がってよぉ。カクンとなって、そのままザブーン、さぁ。
で、友釣りの時はよ、ほれ、胸までくる繋ぎのでっけぇゴム長履いてっだろ。
それに水がへえってさ。重いのなんの。起き上がれねぇの。水の中からさ。
冷たいわ苦しいわ、起き上がろうとバタバタやってるうちにわけわかんなくなってさぁ。
でぇ、気が付いたらまた川ん中に立ってんの。ぽつーんと、暗い川のど真ん中でさぁ。
でも知らねぇ川なの。見覚えのねぇ景色でさ。
そんで、はぁて、ワシ、あれから流されて川下の知らねぇとこに来たのかな、て周り見回してたらよ、川岸の方で何か声がすんの。やっぱりうすら暗い川岸でよ、誰だかわかんねぇんだけど
<来るなー!来るなー!>
ってよ。帰れぇー!って言ってるの。
でぇ、あの人たち、何だぁ、と思ってたらよ、反対側の川岸からも声がすんの。そっちもよくわかんねぇんだけど
<戻れぇー!行くなぁー!>
とか、じいちゃーん!じいちゃーん!とか言ってるの。
両方でわめくもんだからよ、もうどうしていいかわかんなくなってさ。
でぇ、来るなって言ってる川岸の方がちぃと近かったもんだからさ。そっちに行こうとしたんだぁ。
そったらよ、まーた足がカクンってなってさ。ドボーン、よ。
水飲んでさ。やれ、まぁた溺れるぅってバタバタやって…次に気が付いた時は病院だったんだぁ。
ワシ、一度目に溺れかけた時に一緒に友釣りしてた仲間にすぐ助けてもらって、川下の方には流されてねぇんだって。
だから知らない川でも溺れかけたってのは、そりゃおめぇ、三途の川でねぇのかって。
三途の川でよ、溺れるのなんてよぉ。どもならん話だぁ。
法事等で人が集まり、酒宴になるたび親戚の一人からいつも出る話である。




