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気弱令嬢と入れ替わった私、とりあえず不満を書き出してみることにしました。  作者: ちょこだいふく


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7.学園

リナが穏やかにいう。


「本日は学園の日でございます」


その一言で、空気が少しだけ引き締まる。


(……来たか)


私は小さく息を吐いた。


「準備するわね」


リナは静かに頷いた。


「承知いたしました」


それからの時間は慌ただしかった。


髪を整えられ、学園の制服に着替えさせられる。


白いブラウスに濃紺のジャケット。

胸元にはフェルナ侯爵家の紋章を模した小さなブローチ。


鏡に映った自分の姿を見て、私は少しだけ驚いた。


金色の髪。

整った顔立ち。


(アマーリエちゃん、めちゃくちゃ可愛い)


そう思いながらも、胸の奥が少しだけざわつく。


(……でもこの子、ずっと耐えてたんだよね)


リナがそっと声をかける。


「馬車の準備が整っております」


「ありがとう」


屋敷の玄関を出ると、すでに馬車が待っていた。


御者が恭しく扉を開ける。


「お嬢様」


私は馬車に乗り込み、窓の外をぼんやり眺めた。


石畳の街並み。

行き交う馬車。

遠くに見える白い塔。


(ほんとに異世界だ)


それなのに、不思議と怖くはない。


夢でアマーリエと話したからかもしれない。


(……大丈夫)


馬車はしばらく走り、やがて大きな門の前で止まった。


門の向こうには広い庭園と、堂々とした白い校舎が広がっている。


「王立学園でございます」


リナが静かに言った。


馬車の扉が開く。


私はゆっくりと地面に降り立った。


そこは、馬車が次々と到着する広い降車広場だった。


周囲にはすでに多くの生徒が集まっている。


学園の制服に身を包んだ令嬢たち。

整った詰襟の制服を着た令息たち。


ジャケットの刺繍や胸元のブローチが、それぞれの家格を静かに示していた。


何人かの視線がこちらに向く。


その中に、くすりと笑う声が混じる。


「……あら」


振り向くと、三人の令嬢が立っていた。


一番前にいるのは、背の高い美しい令嬢。


金の刺繍が入った制服を堂々と着こなし、余裕のある笑みを浮かべている。


「グレイス様」


誰かが小さく囁いた。


グレイス・ヴアルディエ公爵令嬢。


その隣には、取り巻きらしい二人の令嬢。


ベラとディアナ。


グレイスはゆっくりとこちらを見下ろした。


「おはようございます、アマーリエ様」


声は丁寧。

けれど、目は笑っていない。


「今日も学園にいらしたのですね」


ベラがくすくす笑う。


「お休みになるかと思っていましたわ」


ディアナが肩をすくめる。


「だって……」


ちらりと私を見る。


「婚約者に相応しくない方が、学園に通うのも大変でしょう?」


周囲の令嬢たちが小さく笑う。


くすくす。


くすくす。


その音を聞いた瞬間——


日記の文字が頭に浮かぶ。


陰口を言われる

物を隠される

壊される

両親を馬鹿にされる

婚約者に相応しくないと言われる


(……ああ)


これか。


私は小さく息を吐いた。


(アマーリエちゃん)


よく今まで耐えたね。


そのとき、隣でリナが小さく一歩前に出た。


けれど私は軽く首を振る。


大丈夫、という意味で。


リナは一瞬だけ迷うような顔をしたが、静かに下がった。


そして、私にだけ聞こえる声で言う。


「……何かございましたら、すぐにお呼びください」


私は小さく頷いた。


リナは一礼し、侍女控えの建物の方へ向かって歩いていく。


完全に一人になる。


グレイスはその様子を見て、わずかに笑みを深めた。


「……では」


そう言いかけた、その瞬間。


「——何の話だ?」


低い声が、後ろから響いた。


周囲の空気が一瞬で変わる。


振り向くと、一人の青年が立っていた。


黒い髪。

鋭い目。


学園の制服を着ているが、その立ち姿には圧倒的な威圧感があった。


「ベルン様……」


誰かが息を呑む。


ベルン・アルヴァルト。


宰相の息子であり——


アマーリエの婚約者。


彼の視線は、まっすぐこちらへ向けられていた。

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