6.リナ
「……ーリエ様……」
遠くで誰かの声がする。
「……アマーリエ様……」
まぶたが重い。
けれどもう一度呼ばれる。
「アマーリエ様、朝でございます」
ゆっくりと目を開ける。
白い天蓋。
柔らかなカーテン越しの光。
そして——
心配そうにこちらを覗き込んでいる侍女の顔。
「よかった……お目覚めになりましたか」
昨夜の記憶が一気に蘇る。
アンティークのカフェ。
テーブル。
紙に書いた不満。
そして、アマーリエ。
私はゆっくり自分の手を見た。
細くて白い指。
(……うん)
小さく息を吐く。
(やっぱり、アマーリエちゃんの身体だ)
「アマーリエ様?」
侍女が不思議そうに首をかしげる。
「あ、ごめんなさい、大丈夫」
体を起こすと、侍女はほっとしたように微笑んだ。
「リナでございます、アマーリエ様。お加減はいかがですか?」
(リナ……)
昨日も見た顔だ。
屋敷で慌てて私を部屋まで連れてきた人たちの中にいた侍女。
「本日は学園の日でございますが……お休みになりますか?」
その言葉で、昨夜の会話を思い出す。
陰口。
物を隠される。
壊される。
両親を馬鹿にされる。
婚約者に相応しくないと言われる。
(そうだ)
私はベッドから降り、机へ向かった。
「紙とペン、ある?」
リナが少し驚いた顔をする。
「ございますが……」
「ありがとう」
椅子に座り、紙を引き寄せる。
夢の中で見た言葉を思い出しながら、書いていく。
陰口を言われる
物を隠される
壊される
両親を馬鹿にされる
婚約者に相応しくないと言われる
書き終えて、私は紙を見つめた。
(よし)
小さく息を吐く。
「……アマーリエ様?」
振り向くと、リナが少し離れたところから紙を見つめていた。
「それは……」
私は少し考える。
隠すべきだろうか。
けれど、昨夜の言葉が頭に浮かぶ。
言ってみたら?
私は紙をリナに差し出した。
「これ」
リナは戸惑いながら受け取る。
そして、ゆっくりと目を通した。
陰口を言われる
物を隠される
壊される
両親を馬鹿にされる
婚約者に相応しくないと言われる
読み進めるにつれて、リナの顔色が変わっていく。
「……これは」
声が震える。
「アマーリエ様……」
紙を握る手が強くなる。
「こんな…今まで……どうして…」
言いかけて、言葉を飲み込む。
リナは深く頭を下げた。
「申し訳ございません」
「私が、気づくべきでした」
私は首を振る。
「違うのよ」
「私が言ってなかっただけだから…」
リナはゆっくり顔を上げる。
その目には、先ほどまでとは違う強い光が宿っていた。
「……アマーリエ様」
静かに言う。
「どうか、私にもお支えさせてください」
少し間を置いて、続ける。
「もう、お一人で抱えなくてよろしいのです」




