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気弱令嬢と入れ替わった私、とりあえず不満を書き出してみることにしました。  作者: ちょこだいふく


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5.浮かび上がる問題点

アマーリエは少し戸惑ったようにペンを見つめていたが、


「では……書いてみます」


と小さく言った。


テーブルに置かれた紙に、ゆっくりと文字を書き始める。


最初は、少し考えながら。


『陰口を言われる』


書いてから、少しだけ困ったようにこちらを見る。


「このようなことで、よろしいのでしょうか」


「いいよ。全部書いて」


そう言うと、アマーリエはまたペンを動かした。


『物を隠される』


少し間が空く。


それから、もう一行。


『壊される』


さらに少し考えてから、また書く。


『両親のことを馬鹿にされる』


ペン先が止まる。


「……」


私は黙って待った。


アマーリエは少しだけ唇を噛んでから、もう一行書いた。


『婚約者に相応しくないと言われる』


「……なるほどね」


私は紙を見ながら言った。


「これ、ご両親や婚約者には伝えたの?」


アマーリエは一瞬きょとんとした顔をしてから、


小さく首を横に振った。


「いえ……」


「どうして?」


少し迷うように視線を落とす。


「……フェルナ侯爵家は、あまり裕福ではありません」


「うん」


「それでも、宰相閣下のご子息との婚約をいただけたのは……とても名誉なことなのです」


「私が弱音を吐けば……」


「両親がまた、笑われてしまいます」


アマーリエは紙の端をぎゅっと掴み、言った。


「両親が笑われるから言えない」


「婚約者に迷惑をかけるかもしれないから言えない」


私は肩をすくめた。


「でもさ」


少し考えてから続ける。


「本当に、相手は迷惑だと思うかな」


アマーリエが顔を上げる。


「……え?」


「もし、その人たちが」


言葉を選びながら言う。


「アマーリエちゃんのことを大切に思っているなら」


「アマーリエちゃんが苦しんでるって知って……」


「迷惑だと思うかな」


アマーリエは少しだけ考え込むように視線を落とした。


「……分かりません」


静かな声だった。


「そう」


私は肩をすくめる。


「じゃあ、確かめてみようかな」


アマーリエがゆっくり顔を上げる。


「確かめる……?」


「うん」


テーブルの紙を指で軽く叩く。


「不満を書き出したんだから、次は、相手にどう言うか決めて…」


そこまで言ったところで、

ふと違和感に気付いた。


光が、揺れている。


窓から差し込んでいたオレンジ色の光が、

水面みたいにゆらゆらと滲み始めていた。


「……あれ?」


空気が少しぼやける。


革の本棚も、テーブルも、

ほこりの粒が光る景色も、

少しずつ輪郭が薄くなっていく。


アマーリエが不安そうにこちらを見る。


「……真理恵様?」


「アマーリエちゃん…」


私は苦笑した。


「私たちそろそろ、目が覚めるみたい」


アマーリエの目が大きくなる。


「え……」


「でも大丈夫」


紙を指で軽く押す。


「これ、書き出したこと、覚えておいて」


『陰口を言われる』

『物を隠される』

『壊される』

『両親のことを馬鹿にされる』

『婚約者に相応しくないと言われる』


その文字を見て、アマーリエは小さく息を飲んだ。


「次に会えたら」


私は言う。


「作戦会議の続きね」


光が一気に強くなる。


景色が白く溶けていく。


最後に見えたのは、

アマーリエが紙をぎゅっと握る姿だった。

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