2.まさか、夢じゃない?
馬車が止まり、従者にうながされて降りると、
そこには石造りの立派な屋敷がそびえていた。
玄関ホールに足を踏み入れた瞬間、
「お嬢様、お帰りなさいませ!」
待っていたメイドたちが一斉に駆け寄ってきた。
気づけば私は、そのまま流れるような手つきで部屋へと案内され、
髪をほどかれ、ふわりとした部屋着に着替えさせられ、温かい飲み物を手渡され…
そして——
気づいたときには布団に寝かされていた。
(……え、なにこのスピード感)
メイドたちは「失礼いたします」と一礼し、静かに部屋を出ていく。
扉が閉まった瞬間、部屋の空気がシンと静まった。
(……夢じゃ、ないのかも)
いや、まさか。
そんなバカな話……。
けれど胸の奥がざわつく。
何か手がかりがないかと部屋を見渡すと、
机の上に、革張りの一冊のノートが置いてあった。
日記だ。
日記をぱらぱらとめくっていると、
あるページの一文が目に留まった。
『……今日も、フェルナ侯爵家の名誉を傷つけぬよう、私には耐えるしかなかった。私が間違えたら、父と母がまた笑われてしまう……』
(……侯爵家!?)
思わず読み返す。
貴族なのかなーとは思っていたけど、
まさか侯爵家だったとは。
この身体の持ち主は——
家の名誉のために我慢し続ける、気弱で真面目な子らしい。
日記の端に書かれていた名前。
『アマーリエ・フェルナ』
(……これが、この体の持ち主の名前なんだ)
しばらくその文字を見つめる。
そして、ふと考えた。
(仮に……仮にだけど)
これが夢じゃなくて、
私とこのアマーリエちゃんの中身が入れ替わっているんだとしたら——。
(……どうしよう)
思わず天井を見上げた。
そんなわけ…ないと思うけど。
でもあまりにもリアル過ぎる…。
そして私の指がなんか、綺麗すぎる。
…とりあえず眠くなってきたから少しだけ寝ようかな。
夢の中で寝るって変な話だけど。
…夢の……
意識が遠のき、そのまま眠りに落ちた。




