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気弱令嬢と入れ替わった私、とりあえず不満を書き出してみることにしました。  作者: ちょこだいふく


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1.それはある昼下がり

昼下がりの光は、いつも柔らかくて気持ちが良い。


タワマンの上層階は今日も静かだ。

街のざわめきは遠く、ここだけ別の時間が流れているようだった。


今日も特にやることはない。

親が残してくれた部屋と、不動産収入のおかげで、私は外に出ずに生きていける。


……正直、外は苦手だ。だからありがたい。


ベランダの椅子にもたれて、温かさに身体を預けているうちに、

まぶたがゆっくりと落ちていく。


——うとうと。


くすっ、と誰かの笑い声がした。


(……え?)


重たいまぶたを開けると、そこは教室だった。


中世風の制服をまとった令嬢たちが、

こちらを見下ろすように薄く笑っていた。


(……夢か)


せっかくの夢なのに、

馬鹿にされる夢なんて本当に意味がわからない。


くすくす笑う声が耳に刺さる。

その瞬間、遠い昔の学生時代の景色がふっと蘇った。


——あの時みたいだ。

廊下を歩く私に、聞こえるように。

けれど咎められないギリギリの距離で嘲り笑う、あの感じ。


思い出しただけで、口の中がじわりと苦くなる。


(……やだな。夢でまで思い出すなんて)


私は立ち上がり、逃げるように教室を出た。


廊下の空気はやけに冷たく、熱を帯びた頬を冷ます。

きらきらした制服姿の令嬢たちが行き交う様子が、

すべて“本物の夢”みたいにぼんやりして見える。


どうでもよくなって、校舎の外へ出る。

中庭の噴水の音が遠くで響いている。

花の香りまでやけに鮮明だ。


(……夢にしては、リアルすぎない?)


そう思いながら石畳の上をふらふらと歩いていた、その時。


「——お嬢様!こちらにおられましたか!!」


慌てたような声が響いた。


振り向くと、従者らしき青年が、息を切らしてこちらへ駆け寄ってきていた。


彼は私の顔を見るなり目を見開いた。


「お、お嬢様…お顔の色が……!体調が悪くなられたのですね!?」


(……誰だろう)


知らない顔だし、知らない格好だし、

そもそも私は“お嬢様”じゃない。


……あ、でも夢ならそうだよね。

知らない人くらい出てくるかも?


そう思いながらぼんやり彼を見つめていると、

彼はさらに慌てだした。


「やはり、お顔の色が……申し訳ございません、すぐにお屋敷へお連れいたします!」


「え、あ……お屋敷……?」


言い終わる前に、肩をそっと支えられる。

力づくではない。けれど“今にも倒れそうな人”扱いの、恭しい誘導だった。


(顔色までリアル……本当に夢……だよね?)


ぼんやりしたまま歩かされていくと、

校舎の外には馬車が止まっていた。


従者は扉を開け、深刻な表情で私を振り返る。


「さあ、お嬢様。無理はなさいませんよう……どうかお気をつけてお乗りください」


その声は本気で心配しているようで、

夢のはずなのに胸がざわついた。


私は訳もわからないまま、

ふらりと馬車の中へ乗り込むしかなかった。

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