女上司ベアトリーチェ
ベアトリーチェ・アルギエーテ。アルギエーテ伯爵家の長女である。幼い頃から文武に優れた才能を見せ、王立学園を首席で卒業、聖アテナ騎士団に入団、その才能故に、身分と性格・人徳からめきめきと頭角を現した女性、女傑としか言いようがない人物だった。長身でスマートながら、とても女性として魅力的な容姿、整った、知的でいて、品格があり清楚ですらあるが、かわいらしさも醸し出している美しい顔立ち。輝くような赤銅色の長い髪、どこから見ても美人としか言いようがない、そんな女性だった。そして、剣だろうが槍だろうが弓矢だろうが、彼女と互角に渡り合えるものですら、騎士団のなかには滅多にいない。格闘技ですらそうだ。猛者たちが、彼女の前にはいつくばっている姿は日常の光景ですらあった。他方、彼女は脳筋女ではない。騎士団の管理事務、部隊の経理から何でも事務仕事も完璧に近い。宮廷、サロンに出れば立ち居振る舞い、詩作、楽器の演奏、会話は教養高い淑女、令嬢となる。彼女はね、優雅なドレスは、
「ああ、面倒くさい。」
と言って、淑女の役割が終わると直ぐに脱いで、騎士団の制服に着替えてしまうのだが。
アテナ騎士団の転生者狩でも手腕を発揮した。彼女にかかれば、チート的な能力、スキルを持った者達でもたやすく捕縛されてしまう。それは事前の情報収集、準備が万全であり、捕縛の指揮も行動も見事で素早かったからだ。一方、転生者の捕縛には容赦はなかったが、その後の対応では余計な虐待などはしないし、許さない、冤罪がないようにできるだけ注意して行動していた。それでいて、自分の功績は誇らず、部下や同僚、上司の手柄としていた。これだから大抵の上司は彼女を引き上げ、同僚は彼女に協力し、部下達は彼女を盛り立てようと誓い合うしまつだった。
ちなみに、彼女が騎士団に入団したのは、結婚して家庭に入るより騎士になることを望んだのであるが、並み居る求婚者、縁談から逃れるためだったと言われている。
ロレンツィオ・メディチ。メディチ伯爵家の長子であり、彼女の古くからの知友であるとともに、王立学園でも、騎士団でも後輩でずっとあり続けている。そして、彼女が部隊長となると、その副官となっている。副官として彼女を支えているというより、彼女の指示を忠実に実行するため誠実に走り回っているというところだった。長身で黒い髪、整っているが地味な顔立ち、文武全ての点で優れていないということはないが、秀でているとまではいかない、こちらも地味な男である。
彼は彼女に想いを寄せているという噂もあり、仕事以外では彼女は彼に親し気に接してはいる。ただ、あまり男女の関係ではなく気の合った悪友くらいにしか彼女は見ていないようだというのが、大多数の感想であるし、彼との縁談もあったのだが、彼女はそれも含めて逃れるために騎士団に入隊しているわけであるからなおさらである。2人が並ぶと、釣り合いがとれないというのもまた、多数意見だった。
「あなたにはいつも苦労わかけているわね。」
その日、騎士団本部への報告から帰ってきたロレンツィオに、結果を聞き終わってから、ベアトリーチェは慰労の言葉をかけた。自分の指揮する騎士隊の職場環境の改善、物品の整備、そして転生者の監獄の環境改善に関する要請に、ロレンツィオは本部に赴いていたのである。なかなか要求は認められない、今回も一部しか・・・である。それでもある程度認められたのは、ベアトリーチェの手腕というところだった、とロレンツィオは思っている。転生者の摘発、捕縛だけではない。魔獣退治、野盗退治、各地での戦闘、さらには戦場となったり、魔獣、野盗に荒らされたり、災害で被害にあった地への支援の実績、それだけではなく、規律が守られ、聖アテナ騎士団が誇れる品行方正な騎士隊を作り出したこと等諸々がある。それが全て彼女が隊長であるからである、第13騎士隊。その名を聞きと彼女の姿をみれば、人々は安心すると言われている。ちなみにそうではない騎士隊も結構あり、度々処分がでているのだ。
「そんなことはありませんよ。全て隊長のご指示にしたがっているだけのことですよ。」
とロレンツィオは苦笑いした。
「君は謙遜ばかりするが、私は昔から君に助けられてきていると思っているよ。今だって、君なら大丈夫だ、君が賛成してくれるから大丈夫だと思っているんだよ。」
と言って微笑んだ。その微笑みに、思わずぞくっとロレンツィオはしてしまった。怖いのではなく、欲情が高まって、ということだ。
「ああ、この唇を奪いたい。この体を抱きしめたい。」
と思わず思ってしまった。
その時、荒々しくドアが開けられ、十数人の騎士達が乱入してきた。聖アテナ騎士団の騎士ではあるが、他の騎士隊の者達だった。




