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愛する上司は罪深き転生者(冤罪だけど)  作者: 安藤昌益
脱獄計画

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2/8

栄光からの転落

 それは18歳の誕生日のパーティーの席であった。美しい婚約者との結婚式の日程が発表される予定だった。幼少から神童と呼ばれ、次々に誰もが考えもつかないこと、新技術、新たな魔法、領地経営で成果をあげ、新しい機器、製品を作り、量産させ売却し、新しい事業、組織を立ち上げ、それも全て大成功、侯爵家の収入が伸びただけではなく、領民の生活も大幅にその水準が上がり、荒れ地の開拓も大成功、善政をする次期当主様と家臣、領民からも絶大だ支持、称賛を受けていた。レムス公爵家嫡男ネロ。いよいよ、結婚式の日程発表と誰もが思った時、

「その男は私の子供ではありません。偽者の転生者よ。」

と叫び声が上がった。その方向を見ると、その声の主は侯爵夫人、ネロの母親だった。同時に、呆然となっていた彼に、数人の武装した騎士が周囲を囲み、彼を取り押さえ、魔法抑制石をつけた首輪を強制的にはめた。

「あれは聖アテネ騎士団?」

「ネロ様は転生者?」

「そうか、やっぱり。」

「前々からオカシイと思っていたのよ。」

と周囲からの声が、ネロの耳に入った。先ほどまで、称賛の声をあげていた連中ばかりのはずなのだが・・・人間とはこういうものだと、使用さんの声ばかりを聴いていた時にもじじょうが変われば・・・とは分かっていた、前世の経験から、ものの、やはり実際に体験すると・・・やはりつらい。


 母親に目を向けると、怯えている妹と弟を抱きしめて、2人を絶対守るわよ、という決意を秘めた怖い目で、敵愾心に燃え上がる目を向けていた。父の侯爵は、事前にこのことを知らされていなかったため呆然としていたが、既に我に返って、

「この男は、我が公爵家の者ではない。早く連行していただきたい。」

と威厳を込めた口調で言った。つい先ほどまで、

「我が公爵家の誇りだ。」

と言っていたのに・・・とネロは唇を嚙んだが、侯爵家当主としては賢明な対応だった。

「ば、化け物見ないで!」

と叫んだのは、彼の婚約者だった。幼馴染でもあり、相思相愛で、

「あなたとあなたの開拓した村々の領民は私が守るわ。」

と言うほど、武芸を学び、剣士のスキルを高めていた金髪の凛々しいくらいの美人だった。ついさっきまで、彼の傍にいることを至福の時間と感じていたはずだったが、最早彼を見る目は、寄らないで、怖い、というものだった。

「私は、密かにあの化け物の正体を掴もうと監視していたのです。それはもう、怖い日々でした。あのようなおぞましい化け物に側にいるなどと・・・。」

と彼の母に訴えているのは、彼付きの侍女だった。彼女は、子供の時から彼に仕えてきたし、彼も信頼し、大切にしてきた、そして愛情すら感じていた・・・彼女もそうだと、彼は信じていたのだが・・・。彼女が第一密告者であり、彼女が彼の母親に告げ、騎士団に通報したのである。

 2人の姿と声を見て、聞いて、彼は自分が冤罪を受けた身だという虚偽の叫びをする気力も失せてしまって、項垂れて騎士団員達に従うだけになっていた。


 はっきり言って、彼の神童以上としか言えない言動、成果をみれば転生者の疑念が生じない訪がおかしかった。それでも彼の地位、立場、そして輝かしい成果、広大な荒れ地を豊かな土地に変え、侯爵家の領地を見事に経営、管理し、結果として誰からも称賛、敬意、感謝を受けるようになっている、王国にも貢献し、国王からも度々感謝の言葉をもらっている者であるから、安易に疑いをかけるのは躊躇された。彼の母親からの密告があったため動き出すことができたが、騎士団としてはあくまで慎重に、秘密裡に動き、証拠を固め、逮捕の準備をしていたのだ。

 それでも、善政をして領民からも慕われている彼を逮捕した場合の領民達の動揺、反発、混乱、最悪の場合、彼を解放しようという暴挙にでる輩も出るかもしれないと、彼を乗せた護送の馬車の警戒は厳重にしていた。しかし、それは騎士団の杞憂に過ぎなかった。どこで聞きつけたのか、多数の領民達が集まってきたものの、

「化け物。早く死んじまえ。」

「暴君。」

「人でなしめ。」

「お前のためにどんなに苦労させられたか。」

と怒号と投石だけだったからだ、彼に対する。ただ、かれにはそれに反応する気力は残っていなかった。


「僕に・・・僕に何をさせようというのですか?」

 彼はここにきてから、暗い、昼間でも薄暗い独房の中で、数日するとかなり落ち着いていた・・・ように見えた。だが、まだ死んだような目をしていた。

「君の能力は、他の転生者が生きるために必要なんだよ。」

「そうですか・・・まあ、必要とされているわけだ、まだ・・・。」

「このまま死にたくないだろう?」

「ああ、死にたくはないな。」

「・・・。」

 ネロは、落ち着いていた。自暴自棄というような表情ではなかった。このまま死にたくはない、とは思っていた。しかし、何かをするという気力がどうしても出てこなかった。脱力感が体に浸み込んでいるようだった。

「なあ、君のために助命に来た連中がいてな・・・。そして、彼らはな、この脱走にも加担しているんだよ。もう、彼らも帰れない・・・。君の可愛い婚約者や侍女さんはいないがね。」

「ん?」

 ネロの目に光が宿った。

「しかし、僕のスキル・・・開拓地は?それ以上に僕たちが生活する場所があるかい?身分証明書を偽造でもしない限り・・・。」

「それができる人材も資材も場所も確保できると言ったら?」

 ネロは、心の中に灯がともるのを感じた。

「まずは、君が同意、脱走計画の参加に同意してくれることが必要なんだよ。」


「わかった。やってみようじゃないか。」

 長い沈黙の末に彼は答えた。それは、以前のどんなことにも立ち向かう彼の顔になっていた。



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