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愛する上司は罪深き転生者(冤罪だけど)  作者: 安藤昌益
今度こそ

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脱走

 彼の自分での欲望処理を汚らわしいとは思った、確かに。彼がそういうことに頼る男だったとは、と落胆もした。それが自分のことを慮ったことだったとことはわかる。しかし、それは所詮、転生者としての考え方からに過ぎない、と彼女は結論付けた。だから、彼は男として見下げ果てた奴だと彼女は決めつけていた。彼が彼女のために、このコロニーというか、開拓村というか、共同体のために、自分の能力の限りで頑張っている、働いているというところを見ても、以前からそうだったが、灰色の、腐った臭いのする、見せかけの、欲望まみれのように見えるだけだった。

「今日の収穫です。また、少し増えました。少しづつですが、私のスキルのレベルがアップしているようです。」

 彼が嬉しそうな顔で、自分の家庭菜園からの収穫物の入った籠を抱えて入ってきた時も、口に出した言葉は、

「よかったわね。あなたが、いつも一生懸命世話していたおかげだし、それでスキルがアップしたのよ。」

だったが、実際彼のスキルらしい家庭菜園の豊作は、彼の毎日のきめ細かな世話が必要なのである、だから、異様に早く成長し、頻繁に収穫、しかも豊作となり、かつ美味しいのである、

「それがどうしたのよ?」

が本当の心の声だった。

 彼のスキルは、結局そこまでなのである。彼女の実家の庭の一部の範囲まででしかないのである。国、いや小さな村全体をですら到底おおうことはないものなのである。

「転生者のくせに。貧相なチートだ。お前にお似合いのね。」

と憎々し気に思ってしまっていた。

 彼とは狩りにもいく。他の肉体を使う仕事もともにしたし、剣などの練習も常に怠らなかった。彼女の全戦全勝であるが、

「いつも私は全力。ちょっと気を抜けば勝てないわ。そういう相手なのよ、あなたは。」

と顔ではにこやかに、心の中では憎々し気にだが、どちらの顔でも嘘ではない。自分の腕は堕ちてはいない、ますます技も動きも熟成してきていると感じるが、それに彼もついてきているとは思った。それを嫉妬や焦りとかいうものではなく、毛嫌いするこの時の自分の感情に、この時は何の疑問を感じてはいなかった、彼女は。


 脱走の準備はしていた。懐に隠せる短剣、懐剣、そしてほんの少々の食べ物と水、そしてある程度の金。それだけだった。それ以上だと気が付かれる。日時、正確な場所は未定だった。

 彼女達は、隠れ里?で孤立している存在である。かと言って、完全に孤立しているわけではない、そうはいかないからだ。生産物の売却と必要品の購入のため、外にでなければならない。定期的に、順番でそれをメンバーが担当していた。彼女は、その順番がくるのを待つしかなかった。

 その順番が来た。転送魔法で、町に。ただ、どうやって脱走したかは覚えていない。気が付くと、家で両親と泣いて抱き合っていたのだ。


 その後、王国に両親とともに出頭。転生者という罪名が冤罪であり、陰謀であったことから名誉と地位を回復することになった。例の監獄の崩壊、脱走事件については、転生者と思われていたことから、他の転生者が自分も連れて脱走したこと、あの日他の聖アテナ騎士団騎士隊幹部に暴行されかかり、ロレンツィオに助けられたが、ロレンツィオはその時多勢に無勢で相手を倒したものの自分も倒れたこと、分からないまま転送され彼らがどこにいるのかはわからない。たまたま彼らの移動に紛れ込んでの脱走で、記憶が曖昧になり、どういうルートでの脱走かともはっきり思い出せない、と証言した。これで通るかは心配だった。何らかの証拠なり示さなければならない場合も考えての準備はしていたが、それには及ばなかった。どうも、聖アテナ教会騎士団の名誉にかかわり合うことであり、出来るだけ早く、ある程度の解決策があれば、それ以上追及しないことになっていたのである。そして、彼女はそれ以上追及されるようなことは起きなかった。


 その彼女に、次々と花婿候補の話が舞い込むこととなった。

 その一人が、8歳上だが、最初の妻と死別していた、彼女が子供の頃から知っている、騎士として尊敬していた、イケメンで、人望も出世コースにもいる、身分も申し分ない人物だった。彼女の経緯と年齢から考えると悪くない人物だったし、候補者の中では一番条件が良かった。両親は,当然彼を進めた。彼女はしばらく考えさせてほしいといったが、返事をするまでの間はほんの僅か、数日だった、その結婚に同意したのである。

 その後はとんとん拍子に話が進み、ほどなくして結婚式、初夜となった。スムーズに彼女はそれを受け入れた。嫌悪感もなかったので、そのまま初夜に・・・だったが、全く嫌悪感も拒絶感もなく・・・。後になってから、

「?」

とは一応感じた、彼女は。


 その話をしばらくして聞いたロレンツィオは、その日と次の日一人部屋に閉じこもった。その翌日、何ともなかったように振舞ったのだが。

「俺は、隊長を救えなかったんだな。こんなに嫌われていたなんて・・・。考えてみれば、釣り合わないよな、俺とでは。俺となんているなんて・・・。俺の我がままでしか・・・到底耐えられないことだったんだな。」

「大丈夫か?話して気が晴れるなら話を聞くが・・・。」

「私に話してみれば?少しは気持ちが楽になるかも・・・。」

と言ってきてくれた者に、その気持ちに甘えるように、彼は、愚痴混じりのように話したが、

「う~ん。」

としか誰もが言いようがなかった。

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