私は何故逃げたのだろうか?
「今から思えば、どうしてあんなことができたのか、怖いくらい・・・。」
ベアトリーチェは、ロレンツィオに手をひかれながら思い出していた。
自分の冤罪が晴れたということを聞いて、とにかく遮二無二なって、ロレンツィオの元から逃げ出した。実家に行って、騎士団に出頭して、国に・・・で、無事でいてくれてよかった、と温かく迎えられるとは限らない、いやそうはならない可能性の方が高い、普通に考えればそうだ、そして、行動を躊躇するものだ。一切そんなことはなかった。結果としては、そうなってしまった。神の加護を感謝した、後日、それは危ういところだったことがわかり、再度聖アテナ、聖女である、に神の加護を感謝する祈りをささげたものだった。
脱走後、転移したところは広大な沙漠だった。その前に一度、別の場所に転移していた。そこには、ある程度の物資があり、
「坊ちゃま、お元気で。」
「お嬢様。お幸せに。」
と脱走者の中の2人に頭を下げる年配の執事と侍女がいた。さらに加わる者も何人かいた。そして、受け取った物資とともに、再度転移した。
何もない荒涼とした、岩石沙漠。ここに連れて来られて、置いて行かれれば、それが処刑であると誰もが思うであろう、何人も生きてはいけないだろうところだった。
「じゃあ、取り合えず全員の寝泊まりできる宿舎を作るよ。井戸と調理場、その他は最小限しか準備できないけれど、文句はなしだよ。」
と1人が言い出した。ネロだった。
小一時間の内に、数十人分の宿舎が完成した。みるみるうちに形をなしていくのを見ていると、知ってはいるものの、驚き以上に怖さすらかんじてしまう。彼の開拓スキルである。色々な物質から原材料を生成するのであるから、錬金術のスキルの要素も含まれていると言える。とにかく、先ずは寝泊まりの拠点ができたということで、荷物を運び込み、部屋割りと今後の行動方針、計画を話し合って決め、食事をして、寝ることになった。ベアトリーチェは、自分の隣にロレンツィオが寝ることになり、悪寒のようなものを感じさえした。しかし、彼は隣で眠ることだけで満足したようだったので、初めて満足し、ホッとしたのである。
次の日から、本格的な開拓が、転生者達の隠れ里?の建設が始まることになったわけだ。
ネロの開拓スキルは、色々なものを作ること、建造、建築ができるし、農地や果樹園も作ってしまう。だが、それを守る、手伝う人間達がいなければならないのである。彼がひとりで生産物を作り上げるのは、やはり無理であり、そのための協力者がいるのである。
彼以外にも生産活動に関するスキルの持ち主もいた。ネロと彼らを中心に開拓、開拓村の建設が本格的に始まった。
「もう、作物の芽が。」
ベアトリーチェが驚いた数日後に、彼女はしんみりと、
「もう収穫が・・・。」
とため息をつきながら言わなければならなかった。
「いや、王子殿下をはじめ皆さんが、仕事に励んでくれたおかげですよ。」
とネロが笑って皆を励ますように言った。
基本的に自給自足なのではあるが、全てを完全に賄うことはできない。錬金術のスキルなども使うのだが限度がある。転移で時々、どこかの都市なりに出かけて、売買により必要な物を入手するのであるが、その時に必要となる証明書の類は偽造する。
日々の食料を何とか得つつ、一心不乱に・・・の1か月後には、農地や牧場が広がる、もちろん家畜もいる、鍛冶屋などの工房もいくつもある、倉庫も立ち並ぶ、立派な、いや立派過ぎる村ができてた。
「あなたのスキルの凄さは知っているが、これほどとは・・・調査結果ではこれほどではなかったように思うが。」
とベアトリーチェはネロに尋ねてみたが、
「いやー、自分でも驚いちゃったよ。全てがもっと時間がかかると思っていたんだよ、自分のやるべきことも含めて。それが、思った以上に何でも早く出来ちゃって・・・。自分の体、精神の成長に合わせて、スキルも成長したのかもしれない。それに、色々と効率的になるように工夫もしたから・・・。ああ、その点はあんたの旦那のお蔭が大きいよ。」
とちょっと首を捻りながらも、答えてくれた。
「え?旦那って?ああ、ロレンツィオね。彼は、よくやっているわ。私なんかと違って。」
「あらねそんなこと言ったら、私への皮肉になっちゃいますよ。魔獣退治のお手並みなんか、誰にもまねできませんから。」
と女が割って入った。
この地にも魔獣はいる。その退治、猟そして解体はベアトリーチェが指揮官となり、彼女の陣頭指揮で行っていた。魔獣の肉は重要なたんぱく源だったし、その他の部分は素材として、内部だけではなく、外部との交易に有用なものだった。




