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愛する上司は罪深き転生者(冤罪だけど)  作者: 安藤昌益
冤罪の女上司

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11/18

脱走など・・・できないわ

「脱走するのです。隊長。」

と顔を突き出して言うロレンツィオに、ベアトリーチェは、

「な、何を言っている?ああ、そうだ・・・。早く彼らの応急処置を、手当をしなければ。」

と狼狽えかけても、他人のことを配慮する彼女にロレンツィオは思わず感心してしまったが、その思いで微笑みながらも、彼女から離れると、

「手当なら私も手伝うから、手枷を外してくれないか?」

と彼女が両手を差し出すのを無視して、剣を持ったまま倒れている、まだ、うめき声をあげている男女のところに歩み寄った。

「な、なにを・・・する・・・の?」

 彼女は呆然とした。彼は、無造作に彼らに次々に止めを刺していった。声にならない声を上げて、彼らは動かなくなっていった。

 剣も銃も決して平均以下ということはなかった、というより平均以上だったが、魔獣討伐はともかく、戦闘では残酷な殺し方はせず、無駄な殺生はせず、動けなくなった敵兵を介抱、手当する、捕虜を虐待することもなく、どちらかというと口では冷酷非情なことを言うものの、心優しい男だと、ベアトリーチェはロレンツィオのことを思っていた。だから、今自分が見ているロレンツィオの行動が信じられなかった。


「隊長・・・。ベアトリーチェ様。もう、あとには戻れません。私とともに逃げるのです。私は、あなたを冤罪で死なせたくないのです。なぜ?という顔ですね。私は、愛する者を失いたくないからです。」

と真剣な顔で言い出して、彼女を見つめる彼に、彼女は何故かぞっとするものを感じて、動揺した。彼を斬らいではなかった。いや、好感を常に抱いていた。彼のことを好きなの?と言われれば、騎士団の女達の集まりの中で問いかけられたことは度々あった、常に、

「好きよ。」

とあっさり言ったものだった。

「友人として、兄として、弟として、同僚として、戦友として。」

と付け加えて、その間ずっと真顔で言って、最後には質問者を呆れさせていたものだった。

「私は戸惑っているのか?言製として好きだったわけではないから・・・そういうことを考えたことがないから?」

 それではないように思えた。

「私のような男みたい女、色気もない、可愛げもない、美人でもない女を、女としてなんてみているはずがないわよ。」

と最後に言って、女達にジト目をされたこともある。彼が自分を女として好きだということが信じられないからか?、それも違うと思った。

 彼が自分を女として見て、そして自分を好きだということに、好きだという彼の言葉に、それが彼の真意だということがわかる表情に、彼が本当に自分に愛情を向けていることが分かったことに、怖気を感じたのだ・・・と思えた。なんで?その動揺を彼に知られたくないと本能的に?思った。

「わ、私は・・・もう汚された体なんだ・・・そ、そのような気持ちを向けられる女ではないのだ。」

 心が痛んだが、それはひどい苦痛だった、うまい回答だと思った。男は、そういう女を好きになれるはずはないからだ。だが、彼は、

「ベアトリーチェ様はベアトリーチェ様です、何も変わりはありません、変わってもいません。私は、ベアトリーチェ様が好きなのです、汚れていない乙女のベアトリーチェ様を好きなのではありません。それに世の中には、洗って落ちない汚れなどないのです。私は、今のベアトリーチェ様を愛しているのです。」

と全くひるまなかった。


「私は・・・聖アテナ騎士団の騎士だ・・・ここで脱走しては・・・。騎士として、どこで死んでも悔いはないと私は思っている。」

「あなたは冤罪で殺されることになっているのですよ。それでいいのですか?私は、あなたに死んでほしくはないのです。あなたは、死にたいのですかこのまま?生きたいとは思われないのですか?」

と彼は諦めることなく、彼女に囁いた。そして、両手で彼女の両手を握った。

「生きてください。そして、私はあなたに生きていてほしいのです。」

 彼女は、彼の手を振り切ろうとしたが、体が動かなくなった。彼に手を握られて、汚らわしい、とさえ思ったが、思うように動かなかったのだ。それでも彼女の脳裏には、本能の叫びが、生きたいという本能の声が、彼を突き飛ばすという理性の提案を退けたのである。

「分かった。私も生きよう。ともに生きようじゃないか。」

と彼女は彼に向かって、自身が頷きながら、言った。

「はい。」

とロレンツィオは不安の影がその顔からなくなり、迷いを振り切った者の目を彼女に向けた。


「ではコチラに来てください。」

とロレンツィオはベアトリーチェの手を取った。彼女は彼の手を強く握り返した。一瞬、手を振り切りたいと感じたが抑え込んだ。

「なんという女々しさ・・・命が惜しいなどと。」

 彼女は自分が惨めに感じたが、彼について行った。





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