死を前に恥ずかしくないようにしたい
「もうすぐなんだな。覚えているかい?君に処刑の予定日を教えてもらった時、『人に笑われないように見苦しい様を見せないようにしたいと思う』なんて私が言ったことを。残念だけど、とてもそういう心境にはなれないよ。どうして死ななければならないんだ、もっと生きていたいと心の中で泣き叫んでいるんだよ。聖騎士団の団員としては恥ずかしいな。我が騎士団の守護聖人であるアテナ様に日々祈りを捧げているのは自分の延命だよ。堂々として処刑台に歩いて行けそうもないよ。足が震えてしまってね。全く我ながら情けないよ。」
ベアトリーチェは、カラカラと笑いながら、時折、こんなに怖がっているのだ、と身振り手振りで示していた。ロレンツィオには、そのあまりの堂々とした様に、死を泰然と受け入れている姿に、感動するとともに、簡単に死を受け入れようとする姿に苛立ちに近い物すら感じた。
「ベアトリーチェ様。」
その時、彼女の独房のドアが荒々しく開けられた。何人かの男女の騎士達が立っていた。
「お前がどうしてここにいるんだ。」
「あなた方こそ、どうしてここに来たのですか?私は、ここの実質的な管理者ですから、ここにいるのは当然のこと。彼女に処刑の日程について説明し、最後の希望について聞こうとしていたところです。」
ロレンツィオが答えた相手は、第12騎士隊隊長サボナローラだった。他の彼の側近達である。
「分かった。しかし、それは明日にでもやれ。我々は、彼女に対して重要な要件がある。お前はすぐに帰れ。あとは我々だけで行う。」
と蠅を追い払うような調子でいった。
「そうよ。さっさと行きなさいよ。」
「お前のような真面目だけしか取り柄の無い奴は邪魔なんだよ。」
「うかうかしていると、お前もここに来ることになるぞ。俺達に媚でも売ってた方がいいぞ。」
彼の周囲に3人が取り囲み罵りまくった。
「お前ら、その鈍くさい男を連れ出せ。」
とサボナローラが命じると、3人はいかにも自分だけで楽しむなんてひどいですよ~、という顔になったものの、それに従おうとした。
「ロレンツィオ。私には構わず言ってくれ。私は大丈夫だ。君が怪我をする必要はないよ。」
と平常心を保っているかのような調子で促した。
「坊や。お姉ちゃんが言っているんだから、べそをかいて逃げていきな。」
サボナローラが、自分より1歳上でしかないことをロレンツィオは知っていたが、それに反発することなく、一礼して、
「それでは失礼いたします。」
と背を向けて出ようとした。ベアトリーチェは一瞬哀しそうな表情になったが、いつもの気丈な彼女の顔に戻っていた。
「さあ、最後に楽しませてやるからな。感謝しな。これも神がお与えになられた愛だ。お前のような汚らわしい転生者にはもったいないぜ。感謝しな。」
とのサボナローラの言葉に、彼の副官の女は興味津々というか、楽しみにしているような、サボナローラ同様の目をしていた。女は女の味方とは限らない。男以上に男と一緒になって同性を甚振ることが多いのだ。サボナローラがベアトリーチェの体に、胸を鷲掴みにした時、ベアトリーチェのは決して彼から目を背けなかった、彼の臭い息を吹きつけられながらも。
「ぐわー!」
と人の断末魔の叫び声があがった。出ると見せかけて、ロレンツィオは身を突然翻して、剣を抜いて躍りかかったのである。
「なによ。この・・・どうして・・・う。」
いち早く向き直って2人の男に加担しようとした女も血を吹き出して倒れた。
「この卑怯者。」
サボナローラが剣を抜いて斬りかかった。ベアトリーチェは、元の部下を心配した。3人を倒して好きができた彼にサボナローラがきりかかったんらである。完全に劣勢、何度か剣が・・・が、倒れたのはサボナローラだった。
「ロレンツィオ、君は・・・鎖帷子を着こんでいたのか?でも、どうして?」
所々切れ裂かれた跡がありながらも血も流れてはおらず、そこから覗いている金属的なものに気が付いてベアトリーチェは小さく叫んでしまった。




