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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

極貧血の俺、今日もやる気ゼロで王族が勝手にざまぁ!

作者: Tri-TON
掲載日:2025/11/21

一話完結の短編は初投稿です。よろしくお願いします。


途中、しつこく感じる場面があるかもしれませんが、

それは最後の“ざまぁ”につながる伏線なので、

軽く流しつつ読み進めてもらえると助かります。


注)ここに出てくる人物は、連載中の「異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜」と同じ名前ですが、まったく関係ありません。

魔王が滅び、勇者が姿を消してから二百年。

世界は人間とエルフが垣根を越え、穏やかな時代を迎えていた。

――だが、その静けさの片隅で、誰にも知られず新たな伝説が始まろうとしていた。

舞台は、辺境の冒険者ギルドーーラグナメア。



***



ガタンッ!!


扉の開く音で、俺は少し目が覚めた。


『警告、警告!血中鉄分30%』


頭の中で機械音声が響く。


(くそっ。また目が回ってきやがった……しばらく机に伏せてるしかねぇな)


そう思った瞬間――


ジャラッ。


宝飾が擦れ合うような音。


同時に、ギルドの冒険者達の話し声がピタッと止んだ。


コツ、コツ、コツ。


足音が俺の横を通り過ぎ、少し先で止まる。


「まったく……ここはいつ来ても辛気臭い場所だ。お前たちを見てると吐き気がする!」


細く甲高い声の男が、大声で悪態をつく。


直後、俺の後方で小さくつぶやく声。


「また来やがった。冒険者気取りの口だけ貧弱野郎……」


だが、その男には聞こえないらしい。


そして、男が続けた。


「それに、昼間っから酔いつぶれてる奴までいるとはな。救いようがない」


どうやら俺の方を向いて言っているようだ。


(酔っぱらってねぇ!こっちは貧血だっつーの!)


俺が心で憤ったとき――


『マイロード、お呼びですか?』


さきほどの機械音声が尋ねてきた。


(ティアマトか。いつも通りさ。目が回って、周りの様子をまともに見ることができねぇ……)


こいつは、俺が転生してきてからずっと、頭ん中のしゃべるサポートシステムだ。


『なるほど、それでは情報収集スキル<常闇とこやみ>の発動をお勧めします』


と、ティアマトが勧めてきた。


目眩で死にそうだが、周りの情報を入手しておくことは重要だ。


(あぁ……頼む)


次の瞬間、


『<常闇の眼>発動』


ティアマトの音声が響くと、俺の脳裏にラグナメア内の映像が映し出された。


まず視界に入ったのは、さっきの男だ。


(こいつか。ジャラジャラ鳴らしてたやつは。宝飾だらけの服なんか着て、動きづらいだけだろうが……つーか、絵に描いたようなボンボンだな。見てるこっちが恥ずかしくなるわっ)


そう思ったところで、再びティアマトが告げる。


『マイロード。いつものように、認識名称”ルダル”による<常闇の眼>への干渉を検知。映像が漏洩しています。いかがいたしましょう?』


(またか……放っておけ)


俺にとってはどうでもいいことだった。




一方、現実のギルド内では――




「ところで……僕の子猫ちゃんはどこへ行った?」


宝飾男が甲高く甘ったるい声を響かせながら周囲を見回した。


そして、ある一点で視線がピタリと止まり、その男はいやらしい笑みを浮かべた。


その視線の先にいたのはミィナだ。


ミィナは、険しい表情で男を真っ直ぐ睨みつけている。


それに気づかないのか、


「いやぁ~マイハニー。今日もまた一段と美しいぃ~」


男は鼻の下を伸ばし、猫なで声のままミィナの方へ歩き出す。


「アークリオスさん……今日は何の御用ですか……?」


ミィナが警戒した顔つきで言った。


(アークリオスって名か。てか、ミィナ、露骨に嫌そうじゃねぇか……確かにいやらしい感じの奴だが)


その時――。


「マイハニー。”何の御用”かだなんてつれない。今日は、僕と君にとって最高の話をしに来たのに……」


と言いながら、ミィナの前までにじり寄ったアークリオス。


ミィナは顔をこわばらせていたが、アークリオスはニヤリと笑うと、突然、大声を上げた。


「よろこべ、お前たち!このギルドは今日で解体だ!」


「なんだと!?」

「ふざけるな!?」


他の奴らがざわつく。


すると、


「ど、どういう……こと?」


ミィナの手が小さく震えた。


ギルド中の空気が一気に張りつめ、誰もが息を飲んだ。


「前から言ってるじゃないか、マイハニー。ここを僕専用のハーレムにするようパパからギルド本部に頼んでもらったって」


「だって……それを止めてもらおうと、今、お父さんが本部に掛け合って……!」


ミィナが反論するも、お構いなしのアークリオスがいやらしい笑みを浮かべる。


「あぁ、それね。君のお父さん、ゼルミスなら、今“王族反逆罪”の疑いで捕まってるよ。知らなかったの?」


「……!?」


驚くミィナ。


「それに、マイハニー。君の話なんてどうでもいいんだよ。僕が望んだらそれで決まりなんだ。最高だろ!?」


ミィナの顔が強張るが、アークリオスは気づきもせず胸を張った。


「だって僕。初代皇帝の”王族の血”を受け継いでるし!それって、もはや僕の”才能”だよね?」


(”王族の血”だと!?)


俺は嫌な気分になった。


「冗談じゃねぇ!ゼルミスさんがそんなことするはずがねぇ!どうせお前のでっち上げだろうが!!」

「そ、そうだ!反逆罪とか言って、お前が捕まえさせたんだろ!!」


二人の冒険者がたまりかねてアークリオスに罵声を浴びせた。


すると、アークリオスが顔を真っ赤にして怒鳴った。


「そこの二人ぃぃっ!!今、僕を悪者扱いしたよね!?王族侮辱罪だ!僕を怒らせた罪は万死に値する!!」


鼻息荒く指を突きつけ、アークリオスは完全にブチ切れていた。


「な、何言ってやがる!」

「そんな横暴が通るか!」


名指しされた冒険者二人が後ずさると、ギルド内がざわつき、空気が荒れる。


しかしアークリオスは、さらにヒートアップして叫ぶ。


「黙れぇぇっ!! 王族の僕の前では、お前らの命なんて虫ケラ以下なんだよ!!」


常識外れの暴言に、冒険者たちは怒りと困惑で言葉を失う。


(さっきから王族、王族って……こいつ、やばいな。頼むから巻き込まないでくれ……)


と、俺が思わず目を開けたその時ーー


目の前には、いつの間にか皿に盛られたレバーが置かれている。


(……レバー? あぁ、そうだ。ミィナに頼んでたやつか……ってか、そもそも俺、なんでこんな修羅場に居合わせてんだっけ?)


目が回るせいで、ここに来た経緯が少し飛びかけていたが、レバーを見ているうちに思い出してきた。




数時間前のラグナメア――




俺は、ある”奴”の宣言に従って、数日前からこのラグナメアに来ていた。


昼前だというのに、すでに酒と喧噪の匂いでむせ返ってやがる。


「おはよう、ミィナちゃん!今日もかわいいね!」


「あら、今日は二日酔いじゃないんですか?」


――この町の男どもがラグナメアに毎日群がる理由。


それが、ギルド受付嬢のミィナだ。


清楚で優しく、誰にでも笑顔を見せる天使のような娘。


だが、ここの経営はうまくいっていないらしい。


今も、父親はギルド本部へ、ある揉め事を相談しに行っているという。


そんな状況でも弱音を吐くこともなく健気に頑張る姿を、そりゃぁ、男どもは放っておけない。


中年の俺ですら、あの笑顔を見るとちょっとくらいは癒される。


ただ、


『警告、警告!血中鉄分25%』


「うぅっ、目が回る……気持ち悪りぃ……」


テーブルに伏して、今日も俺は死にかけていた。


極貧血なのだ。


俺を中心に世界がぐるぐる回る。


このまま回転数が上がったら、もはや異世界転生二周目に突入するんじゃないか?


今日、面倒な”奴”が現れるかもしれないってのに。


あん時、知っちまったから来たけど、そもそもルダルの仕事なんじゃね!?


そうだ!もし、あいつが来たら思いっきり言ってやる!あの時の”契り”のせいで……


と、思っていたところに、


「アマトさん……大丈夫ですか?」


そう言って、心配そうな顔でミィナが俺をのぞき込んできた。


その両手には、水が入っているコップと薬らしき粉があった。


「お薬……どうぞ」


と言って、俺の机の前にそっと置いてくれる。


確かに、この子は良い娘だ。


俺ももう少し若ければアタックしていたかもしれない。


いや……今はそんなことはどうでもいい。


この激しい目眩を止めることが先だ。


「あ、ありがとう」


お礼を言うと、俺はコップを手に取り、ミィナの持ってきてくれた薬を飲む。


「これで少し良くなるといいのですが……」


ミィナは本当に心配してくれているようであった。


薬は、いろいろな薬草が入っているのだろう。


少し苦かったが、飲んだ後、ハーブが効いているのか、胸がすっとしてむかついていた胃が和らぐ感じがした。


『マイロード。鉄分上昇。鉄分上昇』


(おっ、鉄分、入ってたか!)


俺は心で喜び、続けてミィナに言った。


「少し、気分が和らいだよ」


「よかったです!」


ミィナの顔がパッと明るくなると、続けて俺に訊ねた。


「アマトさんって、どこから来られたんですか?」


「ポタ村だ。知ってるか?」


「……ごめんなさい。知らないです」


済まなさそうにミィナが頭を下げてきた。


「別に気にすることはないさ。ちっちゃな村だ。知らないやつの方が多い」


俺は、少し微笑んで答えた。


「そうですか……でも、アマトさんのお名前、伝説の勇者様と同じですね」


と言って、ミィナがギルドのカウンターの横を指さした。


その指の先には、剣を高らかに振り上げ、魔王らしき魔族を足蹴にしているブロンズ像があった。


そして、その銅像はどこのギルドにも設置してある。


俺は、この胡散臭く、いかにも勇者様といった感じの銅像が嫌いだ。


「魔王を倒してから勇者様は忽然と姿を消されたんですよね。勇者様は異世界人と伝わってますから、もうさすがに生きていらっしゃらないですよね」


そりゃぁそうだ。


異世界人だって人間だ。


そんな長く生きているはずがない。


何となく俺は頷いた。


「今も勇者様が生きていてくれたらなぁ。勇者様って、こういう辺境のギルドに来られては、そこの問題を解決してくれたって話ですよね?」


ミィナは手を合わせて目を瞑っている。


「ティアマト……そうなのか?」


『いえ、マイロード。史実によると、認識名称“勇者アマト”は、いつも面倒ごとに巻き込まれないように逃げて回っていたが、結果的に問題ごとが解決されたとあります。はっきり言って、人間的にはクズです』


「言い方ぁ……」


しかし、次の瞬間、少しミィナの顔が曇る。


「うちのギルドの問題も……」


ミィナが小さくつぶやいた。


『マイロード。ここは大人として認識名称”ミィナ”の悩みを聞いてあげるべきかと』


(えっ?面倒くさくない?)


『マイロード……やはりクズですね』


(う、うるさい!機械じみたお前に言われたかない!わかったよ。聞くよ、聞けばいいんだろ!)


と心で叫ぶと、俺は現実空間でミィナに確認した。


「経営がうまくいってないって聞いたんだが……」


「……はい。実は、今、このギルドを潰したいって言う権力者がいるんです」


少し微笑むミィナ。


「でも、このギルドは、私の家が代々守り続けてきた場所……だから、父と私は絶対に潰したくないんです」


ミィナがギルド内を見渡す。


「……それに、生前、母がよく言っていたんです。ここに来る冒険者さんたちの笑顔が好きだって……」


そして、ミィナが俺の方へ振り向く。


「私も大好き!だからあきらめない」


そう言って、めいっぱい笑って見せたのだ。


俺は、その笑顔に少しドキッとする。


(……いい笑顔だ)


そう思って、ぼぉっとミィナの顔を見ていると、


「アマトさん?」


ミィナが首を傾げた。


「おっ、おほん……後で、レバーを持ってきてくれ」


と言って、俺はごまかす。


ミィナが頷くと、今度は、先ほどの銅像を指差して得意げに話し始めた。


「ところで、この剣の名前ご存じですか?エクスカリバーって言うんですよ!」


次に、ミィナが両手を上に掲げると、


「その必殺技が――”天蓋光輪ヘブン・ヘイロー”!」


そう言って、両手を振り落とす。


(あっ、あぁ……ポーズまでとるのね)


「それと、勇者様の相棒は、なんと、初代皇帝様!キャーッ!!」


(……止まらなそうだな。もしかして勇者オタクか?)


一瞬引いてしまった……。


そんな俺の様子を感じ取ったのか、


「す、すみません。勇者様のお話をするといつも力が入ってしまって……」


と、ミィナの顔が急に赤くなって頭を下げた。


「別に構わないさ。確かに、いまだに残党の魔族が出てくるからな。勇者がいてくれた方がいい」


俺はミィナの話に合わせるように言った。


ミィナの顔はパッと明るくなって頷く。


「後で、レバー持ってきますね!」


そして小声で俺に耳打ちする。


「レバーは、私の勇者様の熱弁を聞いてくださったお礼にしておきますね」


ミィナがウィンクをすると、カウンターに戻っていった。


そして、俺は微笑み返すが、怠さのあまり、そのまま机に突っ伏し、いつの間にか浅い眠りについてしまったのだ。




再び今のラグナメア――




「オルギー!! 来い!!」


怒り狂っているアークリオスが、くるりと扉のほうを向いて叫んだ。


その瞬間、ギルドの空気が沈む。


扉から、2メートル級の巨漢がズシンズシンと現れた。


アークリオスが顎で指図すると、オルギーは無言のままさきほど悪態をついた冒険者二人に歩み寄る。


目の前で巨体が止まり、その影が二人を飲み込んだ。


「や、やるのか……?」

「まずいぞ……アークリオスのチームは腐ってもSランクだ。特にこのオルギーは手も足も出ねぇ……!」


青ざめる二人。


(ん?こいつらSランクなの……嘘だろ?)


『マイロード。認識名称”オルギー”の戦闘能力は、ギリ、Sランクですが、認識名称”アークリオス”はランク外のめちゃくちゃヘタレです』


(……だよな。どう見てもこいつは雑魚面だし)


そんなやり取りをティアマトとしている間に、アークリオスはニヤついた。


「ふっ……そうさ。僕は”王族最強のSランク”だ。もう少し活躍して名声をあげさえすれば次期皇帝になる男だ!」


(なんでいちいち、そんなことをひけらかすのかね……?)


「そんな僕が、お前ら虫けらにわざわざ手を下す必要はない。このオルギーで十分だ」


「嘘つけ。お前じゃぁ、俺たちに勝てないからだろ!」

「そ、そうだ、やるなら自分でかかってきやがれ!」


アークリオスの顔が強張るも、次の瞬間ーー


バリバリィィィーーー!


床板がぶち壊れ、オルギーが二人の冒険者を薙ぎ倒していた。


あっけにとられている他の冒険者たちが固唾を飲み込む。


上機嫌になるアークリオスが言い放った。


「ふっはっはっ。どうだ!”僕の力”は!」


(あれ、”僕の力”?今のは”オルギーの力”なんじゃねっ?)


アークリオスは失神している二人を見下ろし、冷たい笑みを浮かべた。


そして、首元をなぞる仕草をして、オルギーに命じる。


「殺せ《やれ》」


オルギーが腰の鞘から剣を抜き放ち、そのまま刃を高く掲げたその時――


「やめてぇぇーーっ!!」


ミィナの叫びがギルド中に鋭く響いた。


空気が弾け、冒険者たちの視線が一斉にミィナへ向く。


彼女の肩は震え、涙が今にもこぼれ落ちそうなほど必死な表情だった。


それでも、足は震えたまま一歩も引かない。


「そこのお二人は、何も悪いことをしてないじゃないですか!」


声を振り絞り出すミィナ。


そんなミィナをアークリオスがキョトンとした顔で見ると、


「どうした?マイハニー。これからが一番楽しいところなのに」


と言って、全く意に介さない様子だ。


しかし、ハッと気づいた顔になる。


「そうか!確かに、気絶しているところを殺しても面白くないな。恐怖におののいているところをらないとつまらないか!」


「そ、そんな……!」


ミィナの顔から血の気が引いた。


(こいつ、サイコパスか……)


さすがに俺も気分が悪い。


アークリオスがニヤリと笑う。


「もっとも……前に言った件、マイハニーが承諾すれば、こいつらの命だけは助けてやってもいいがな」


「そ、それは……」


ミィナが言葉を失った。


そこへ、


「それに……」


と、アークリオスの口元が吊り上がる。


「君のお父さんの反逆罪。あれは僕の”勘違いだった”って言ってあげてもいいよ」


ミィナの顔が険しくなった。


「まさか……本当に、お父さんを捕まえさせたの?」


得意げにアークリオスが言った。


「ギルド本部には僕の知り合いが多いんだよ。な~に、ちょっとお金を積めば簡単に話が進む」


「酷い!」


ミィナの握り拳が震える。


そんなミィナをよそに一人話を進めるアークリオス。


「な~に、そんなにうれしがる必要はない。マイハニーの美貌はこのアークリオス様に抱かれるに相応しいからな。ハーレム美女軍団の筆頭にしてあげようではないか!」


いやらしいアークリオスの視線がミィナを舐め回すのが分かった。


「さぁ、僕のところへ来いっ!」


アークリオスが興奮して、ミィナの腕を掴み無理やり連れて行こうとしたその時――。


「いやぁぁーーっ!」


ドタッ!!


ミィナが抵抗をすると、その力に負けて、アークリオスが後ろへ倒れこむ。


ミィナもびっくりしているようだ。アークリオスのあまりの力の弱さを――。


「お、おのれえぇぇーーー!」


顔を真っ赤にしてアークリオスが立ち上がる。


「下手に出ていれば図に乗りやがって!よくも恥をかかせてくれたな。もぉいい、王族侮辱罪だ!お前はこの場で死刑だ!オルギーッ、来い!」


すると、ドスン、ドスンとミィナの前まで歩み寄ってきた。


そこへアークリオスの目つきが鋭くなり、


「お前を抱かず殺すのは惜しいが……そうだ、“はく製”にして毎晩眺めてやろう。ありがたく思え!」


と、冷たく言い放った。


「そ、そんな……」


ミィナは、力なく両膝を床につけ、涙を浮かべ手を合わせる。


オルギーが鞘から剣を抜き、高く振りかざした時――


「ミィナちゃん、逃げろ!」

「俺たちが時間を稼ぐ!」


先ほど、失神していた二人がいつの間にかオルギーの脚にしがみついていた。


その様子を見た他の冒険者たちも


「いい加減にしやがれ!」

「Sランクだからって俺たちを甘く見るなよ!」


と言って、次々にオルギーを取り押さえた。


だが――。


バァァァーンッ!


という音と共にオルギーに群がっていた冒険者たちが弾き飛ばされた。


「ぐっ、畜生……」

「いてぇ、骨が折れた……」


冒険者たちが苦痛の声を上げる。


そんな冒険者たちをよそに、オルギーは再びミィナへ剣を振りかざす。


(やれやれ。なんで、面倒くさいことになるかなぁ)


と思って、俺は目の前のレバーを口に放り込む。


そして、オルギーがミィナ目掛けて、剣を振り下ろした。


その刹那――


俺は、オルギーの目の前に飛び込み、その剣を左手の親指と人差し指だけで受け止めた。


オルギーの顔がギョッとする。


「あいつ、指で止めやがった!?」


と、他の冒険者たちもざわつく。

アークリオスは、突如、オルギーの目の前に現れた俺を見て驚きを隠せないようであった。


「お、お前は何をしている!?」


「何って……さっき薬とレバーをもらったから……そのお礼だけど」


俺は、だるすぎてそれ以上話す気になれなかった。


「アマトさん……?」


ミィナが小さく俺の名を呼んだ。


「き、貴様ぁーっ!オルギー!とっとと剣を抜きとれ」


「うっ、う・ご・か・な・い」


アークリオスの命令に従おうと、オルギーは必死に剣を抜き取ろうとするがビクともしない。


(そりゃそうだ。俺が指でつまんでいるからなぁ)


その様子に、愕然した様子でアークリオスがうろたえる。


「は、放せ!放さなければお前も死刑だ!」


(お前、”死刑”が好きだな。っつうか、二言目には”死刑”しか言ってこなかったんだろうな。語彙力、なさすぎだろ)


と思ったところで、


『マイロード。先ほどのレバーからの鉄分吸収が間に合っておりません』


(まじ?うっ、まずい。世界が回って気持ちわりぃ)


限界に達し、剣を掴んでいた指を放すと、俺はその場に膝をついた。


すると、オルギーの剣が勢いよく振り上がり、その反動でオルギーも頭から後ろへ勝手に倒れていった。




そして――それはオルギーが倒れたのと同時であった。




ドカーーーン!!




外から大きな爆発音がしたのだ。


『マイロード。認識名称“奴”が現れたようです』


(へぇ、本当に来やがったか……)


俺は、目が回りながらも窓越しに外へ視線を向ける。


すると、叫び声が聞こえてきた。


「魔王だーー!魔王が復活しやがった!!」


ラグナメア内が騒然とする。


そんなことは気にも留めず、俺は立ち上がり、扉に向かって歩き始めた。


と、その時。


「魔王だと!ならば僕が出る必要があるな」


アークリオスがニヤリと笑うと、先に扉へ向かって行った。


そして、扉の前でいったん止まると、


「貴様たち!僕の邪魔はするなよ。僕の名声を世界にとどろかせるチャンスだからな!次期皇帝の座は僕のものだ!!」


と興奮気味に冒険者たちへ言葉を発した。


「オルギー。行くぞ!」


その言葉に、オルギーが体を起こして、アークリオスの後に続いて扉から出て行った。


(大丈夫か?あいつら)


『否。100%死ぬでしょう』


(だろうな……まぁ、ちょうどいい。さっきのレバーの鉄分を吸収するまで、高みの見物とするか)


俺はそう思って、フラフラしながら外へ出た。




外は、すでに森が焼かれ、火の手があちらこちらで上がっている。


俺の少し先の前方には、数十メートルはあるであろう魔獣のような生物が咆哮し続けて立っていた。


「あれ?完全な魔王体じゃないな……魔獣のままで止まってやがる」


俺は、思わず声を発していた。


そして、その魔獣の前に立つ二人の影。


おそらくアークリオスとオルギーだろう。


『マイロード。あの者たちの状況を映し出しますか?』


「あぁ、頼む」


と俺が言うと、先ほどまでラグナメアを映していた光景が魔獣とアークリオスたちの映像に変わる。


アークリオスは、にやけながら魔獣を見上げて大声を発していた。


「そこの貴様ぁ!僕が誰だかわかるか?聞いて驚くなよ。僕は、初代皇帝”ルダル”の血を引くアークリオス様だ」


「ルダル」という名前を聞いて、魔獣が明らかに動きを止めた。


(あいつ。蚤の脳みそか?なんで魔王の宿敵の名前を出して、あおるかなぁ?)


俺は、さすがにあきれ返るしかなかった。


魔獣は、首をアークリオスの方に向けると、次の瞬間、しゃがみこんで両手を地につき、顔をアークリオスの前まで近づけていた。


その風圧で、後ろに倒れそうになるアークリオス。


顔はやや引きつっている。


その姿をまじまじと見続ける魔獣は、突如咆哮を上げて立ち上がる。


「お、怖気づきやがったか?魔王よ」


アークリオスの精一杯の威勢が聞こえた。


「よ、よし。オルギー。奴を倒せ」


震えている声を張り上げるアークリオス。


一瞬の静寂。


一向にオルギーが動く気配がない。


「ど、どうした?オルギー……!?」


アークリオスは、不思議に思って横に立っているオルギーに目をやった。


すると――


「ひっ!?」


短い悲鳴が上がる。


アークリオスが見たもの、それは――


オルギーの下半身だけであった。


あまりの衝撃にアークリオスがその場でしりもちをつき、思わず両手で体を支えようとした――が、なぜか右側に倒れこむアークリオス。


倒れたまま不思議に思って、右腕を目の前にもってくると――


「ギャァァァ――――ッ!!」


アークリオスの悲鳴がこだまする。


そこにあるべきものが無かったのだ。


「ぼ、僕の右腕が……“王族の血”が……血が流れるぅーーっ!」


魔獣が顔を近づけたとき、すでに勝敗が決していたのに気づかなかったのだ。


「……仕方ない。そろそろ行ってやるか」


俺はそう言うと、次の瞬間には魔獣とアークリオスの間に立っていた。


『マイロード。この者、どうしますか?』


ティアマトがアークリオスの状況を察して問いかけてきた。


「あぁ、そうだな。とりあえず止血が必要だ。ヒールでもかけてやってくれ」


『承知しました。それでは<ヒール>発動』


すると、アークリオスの右手の切り口がふさがり、少なくとも止血が完了した。


アークリオスが驚くも、俺の発した言葉から何となく察したのであろう。


「お、おぅ。貴様。でかした!僕の、いや、”王族の血”を止めたことに免じて、先ほどの死刑は取り下げてやろうじゃないか。ありがたく思え!」


(あぁ、はいはい。ありがとね)


もう本当に面倒くさいと思う俺。


「そうだ!僕の仲間にしてやるぞ!どうだ。光栄だろ!!」


(……こいつ、今の状況分かってるのかな?)


どこまでもアホ丸出しのアークリオスは放っておくことにして、俺は、魔獣を睨みつけた。


「200年前、お前が言った通り、本当に復活してきやがったな」


俺が魔獣を見上げて睨みつけると、その殺気に気づいて後方遥かに飛びのいた魔獣。


すぐさまその方向へ俺は飛び出した。


ちょうど、その時だった。


アークリオスの背後から白馬に乗ったエルフが近づいてきたのだった。


そして、ラグナメアの入り口で様子をうかがっていたミィナと冒険者たちが、そのエルフに気づき、そちらの方へ駆け出して行った。


『マイロード。認識名称”ルダル”がやって来ました』


(あぁ、わかってる。やっと来やがったか。俺にだけ面倒くさいことをさせやがって!)


文句を言いたいのはやまやまだったが、引き返すのも面倒なので、このまま魔獣を倒すことに俺は決めた。


『マイロード。先ほどのレバーの鉄分吸収率50%』


(ちっ。50%かよ。仕方ねぇ。早く決着けりをつけるか)


『マイロード。であれば聖剣エクスカリバーの召喚を提案します』


「あぁ、そうだな。準備をしてくれ」


『承知……聖剣エクスカリバー召喚準備が整いました。発声をお願いします』


(よし)


俺は、大きく息を吸うと大声で叫ぶ。


「エクスカリバァァーーッ。来い!」


遠方の一点が輝くと、光を発しながら一つの剣が飛んできた。


そして、俺の右手にその剣がつかまれると、神々しく輝く。


脳裏の映像には、勇者オタクのミィナが拝むように両手を合わせ、涙を流しながら満面の笑みを浮かべてこちらを見ている。


(あぁ、俺の声……聞こえたのね)


そんなことを思いつつ、俺は魔獣に狙いを定めると、剣を高く振り上げ叫んだ!


「天蓋光輪!」


天空に強烈な光が輝き始め、その光が一つの束となり聖剣の先から天まで一本の光となった。


そして、俺はその聖剣を魔獣めがけて振り下ろした。


グオォォォーーッ!


剣が魔獣の胴を一直線に貫き、その巨体がゆっくりと縦に割れながら崩れ落ちていく。


「完全体じゃないお前は敵にもならねぇ」


と空中でつぶやく俺。


しかし次の瞬間――


『緊急事態、緊急事態!血中鉄分2.72%』


「やべっ。円周率かよ!」


『ブブーッ。マイロード、アホですか。円周率は3.14。この2.72はネイピア数で……(なんちゃらかんちゃら)』


(ごめん。俺が悪かった。数学の話、お願いだからやめて。貧血とは別次元で目が回る)


そして、いよいよやばくなってきた俺は、そのままルダルの方へ飛んでいく。


そのさなか、映像の中のアークリオスはというと――。


「ふっ。素晴らしいぞ、お前。さすがは僕の部下だ」


なぜか俺は部下になっているみたいだ。


すると、アークリオスが後ろで馬に乗っているエルフにようやく気がついた。


「おぉ、そこのお前。僕をその馬に乗せて診療所まで連れていけ。今ならまだ僕の手は再生できる!」


だが、その男は反応を示さない。


「お、お前。僕を無視するのか。僕に逆らったらどうなるのかわかっているのか!?」


(こいつ、誰にでも上から目線なのか……)


すると、馬上の男がアークリオスを冷たく見下して声を発した。


「死刑か?」


その威圧にギョッとするアークリオス。


「お前の所業は、アマトの<常闇の眼>を通して見させてもらったぞ」


「ど、どういう意味だ!」


アークリオスが精いっぱいの声を上げる。


「王族と言っていたが……お前、人間だな。だとすると、フトノスの子孫か?」


ルダルから意外な名前が出てきたことに驚くアークリオス。


「い、いかにも。フトノスは僕の先祖の名前だ。それがどうした?」


「あいつは私の養子だ。優秀だったが、どうも息子たちの育て方を間違ってしまった」


ルダルがアークリオスを睨みつけて続けた。


「私は、その息子たちの横暴を看過できず、その血筋ごと王族籍を剥奪した。だからお前の“王族”名乗りは虚偽だ」


アークリオスは、何を言っているか理解できていないようである。


その時、ミィナが訊ねた。


「あの……あなた様は、初代皇帝のルダル様ですね?」


ルダルがミィナを見ると優しく微笑む。


「いかにも。私はルダルだ。お嬢さん、怖い思いをさせて申し訳なかったな。お父さんのことは心配するな。先ほど即釈放するように手配しておいた。もちろんギルド解体の話も無しだ」


この言葉に、ミィナがこの上ない笑顔を浮かべる。


「腐りきったギルド本部もテコ入れしなければいけないな。そうだ。お嬢さん、手伝ってはくれぬか?」


ミィナが信じられないといった顔で頷く。


そんな光景を下から見ていたアークリオスが叫ぶ。


「う、嘘だ!僕は人間だ。だから初代皇帝がエルフのはずがない!お前は偽物だ。王族虚偽罪だ!」


一瞬の静寂――それを打ち破ったのは意外にも勇者オタクのミィナであった。


「あなた……初代皇帝がエルフだって知らなかったの?ふっ、モグリね」


ミィナの声と顔に、眼下のアークリオスを切り捨てる冷淡さが宿っていた。


同じように他の冒険者たちもアークリオスを睨みつける。


「な、なんだと……そんな……まさか」


アークリオスの顔が見る見るうちに青白く変わると、ブルブル震えだす。


その様子にルダルがとどめを刺す。


「お前……この私を偽物と称したな。これは立派な王族侮辱罪だ。それに王族の名を語った王族虚偽罪。二つの罪を犯したお前とその家系の末路は言わずともわかるな」


その言葉を聞いたアークリオスが、ようやく自分の置かれている状況が理解できたようだ。


震えが極限に達すると、白目をむいてその場に倒れたのだった。


「ざまぁ見やがれ!」

「因果応報ってやつだ!」

「最初から血も繋がってなかったのかよ!?」

「”王族の血”がぁっ!って騒いでなかったか?」


周りにいた冒険者たちの歓喜とあざ笑う声が響く。


「やれやれ。一件落着か……」


つい言葉を俺は漏らしたが――


(いやいや、まだ重大なことがあったぞ!)


フラフラになりながらも俺はルダルとミィナの前に降り立った――が、あまりの気持ち悪さに、両手を膝に当て、肩で息をしていた。


すると、ルダルから声をかけてきた。


「アマト、久しいな。もっとも、時々、お前の<常闇の眼>に干渉させてもらってはいたがな。今日もここへ来る道中、見させてもらったわ!なに、お前の生存確認の一環だ。悪く思うなよ。ハッハッハッ」


大声で笑うとルダルが続けた。


「異世界人のお前が、まさかここまで生きながらえるとは思わなかったぞ。どういうスキルを手に入れたんだ?まぁ、私は長寿だから必要ないがな!ハッハッ」


こいつの無神経さにここまで苛立ったことはなかった。



次の瞬――



プチッ。



俺の脳の血管が切れる音が聞こえた。


「あぁ、そうさ……本来、俺はこの時代まで生きることはなかったんだ。今日のことだって、長寿のお前が対処すべきことだった……」


俺は顔を上げ、ルダルを睨みつける。


そして――


「俺がどんな思いでこれまで生きたか知っているか!」


俺は、思わず怒鳴り声をあげた。


『メーデー!メーデー!メーデー!!血中鉄分1%』


(あっ。まじやばい)


俺の声に驚いたルダルがキョトンとして問いかける。


「どうした。何があった?」


「何があった、だと。いいか、耳の穴かっぽじいてよく聞け」


俺は肩で息をしながら続けた。


「魔王を倒した後、お前とパーティ解散をした時だ。もう会うことがないだろうって話になって、お前と交わした”永遠の契り”だ」


そこにミィナが素朴な疑問をルダルに問う。


「”永遠の契り”って、何ですか?」


ルダルがミィナの顔を見た。


「古くからエルフ族に継承されている儀式でな。永遠の友の証として、お互いの血を舐め合うというやつだ」


そう言うと俺の方に再び顔を向け、


「それがどうした?」


と意に介さない様子だ。


「それがどうしただと……!?」


俺の怒りのボルテージがマックスに達し、最後の力を振り絞って叫んだ!


「あの契りを交わした後、俺は年取らなくなるわ、極度の貧血になるわ。すべてお前の”王族の血”のせいだ!どうしてくれるんだっ!!」


しばらくの静寂が漂う――


「そ、そうか。それはすまなかったな……では、どうしたらいい?」


俺は、目からあふれる涙を止められず言い放った!


「い、一生分のレバーをくれぇぇぇ!」


『マイロード。血中鉄分0%です』


――バタンッ。



***



こうして、一連の騒動は幕を閉じた。

アークリオスは数々の罪により、苦痛を伴う死と蘇りを繰り返す刑に処された。

そして、最後にはルダルの“王族の血”を舐めさせられたうえで国外追放となり、不老と貧血の地獄を永劫に味わうこととなった。

この刑は、のちに”永遠の戒め”と呼ばれ、ルダルが「かつて友が味わった副作用」を見て思いついたものだと伝わっている。

そう――この物語で語られた勇者アマトの苦渋の“後遺症”のことだ。

なお、この物語は、アマトの魔獣討伐もアークリオスの惨めな末路も、あまりにバカバカしいとされ、歴史には大きく残らなかった。

そのため、後世に語り継がれたのは、辺境ギルドを立て直し、後にギルド総帥となる少女ミィナの伝説である。



最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


どうも作者は、皆様のリアクションが薄くて貧血気味です(笑)

そこでレバーより、下の評価かリアクションボタンをポッチとしていただけると、活力が沸きます!

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