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「おはようございます、吹雪姫」


控えていた女中が吹雪に声をかける。

吹雪はと言うとちょうど今、身体を起こしたばかりである。


そんな彼女は目を白黒させる。


「ひ…ひめ?」


「……?何かお気に召しませんでしたか」


寝ぼけ眼のまましばらく固まる吹雪の反応を女中は根気強く待った。


「あ、あー……いいえ。おはようございます」


実は吹雪、故郷にいた頃の専属の女中からなぜかこっ酷く嫌われていて、姫などと一度も呼ばれたことがなかったのだ。

だから、その珍しい響きが妙に気になった。


「ふぶきひめ……語呂はいいですね」


などと独り言を呟いていると女中はせかせかと何人か入ってきて布団を片付けたり、朝餉あさげの用意をしたりと忙しなく働き始めた。


「こ、これが都の女中…都パネェ」


比べること自体が間違いなのだろう、でもついつい故郷の女中と比べてしまう。

でもきっとあの牛の如きのろさは都会と田舎だけの違いではないことは心の片隅で気づいている。


「朝餉の用意ができました。どうぞ」


ぼけー、としていると先程の女中に促される。

言われるがままに席に着き、食べ始める。

味が薄いが文句は言わない。

ここまでは無心である…そこでやっと意識が覚醒し始めた。


「兄上はどこに…」


「当主と共に陰陽寮に向かいました。少しの期間だけ陰陽生に混じって訓練なさられるのですよ」


てきぱきと答える女中。

たった八文字の質問に完璧な解答が返ってきた。


「では、今兄上は実質…」


「陰陽師です」


なぜそうなる、と全力で突っ込みたかったが、昨日のことが思い出された。

これが職権乱用ですね、わかります。



「それでは、私はこれを食べ終えたら何をすればいいのでしょうか…」


漠然とした疑問である。

好きなことすればいーじゃん、と普通なら返答がありそうだが、そこはそこ、さすが都の女中である。


「まだ目が覚めていらっしゃらないようなので、お顔を洗ってこられてはいかがでしょうか」


早速、田舎人だと馬鹿にされました。













…失敬な人だな。

普通言いますか、顔洗って来いなんて。

……あぁ、言ったか!

あの女も言ったよ!

何だってあいつは兄上ばかり可愛がって、私をあんなに目の敵にするかな。

あれか……どれだ。

まぁ、いいや…あの年増ともしばらく会う必要はないからな。


とにかく暇だ。

自分でも律儀に思うが、あの後しっかり顔を洗って今は車宿にいる。

なぜここにいるかと言うと、昨日の牛が気になったからだ。

だが、見に来てもそこには昨日の自然界離れした筋肉質な牛はいなかった。

いるのはどんくさそうな牛飼童と、どこにでもいそうな牛が数頭。


「…昨日からここに泊めさせていただいている者なのですが」


思いっきり不審人物を見るような目で見られたので、取りあえずの自己紹介である。

しかし、それでも牛飼童の不審なものを見る目は変わらない。

私に言わせれば牛飼童と呼ばれているのに、30歳超えてそうなお前のほうが不審だよ。

牛飼童は牛を世話する手を取りあえず止めた。


「牛が、いるのですよ」


「…まぁ、そうでしょうね」


牛飼童は首をぐるりと巡らせた。

うん、そりゃ…ここには牛が数頭いるだろうよ、そんなことが言いたいわけではないし。

対人が不審なのは長らくひきこもり状態で、全く人と関わらなかったせいだ。

伝えたいことをどう話せばいいかが分からない…特にこんな都会に来てしまうと恥をかきたくないから言葉を熟考してしまう。


「昨日、私どもが使用した牛なのですが」


「ああ。そういうことでしたら、あれです」


どうにかまとめた私の言葉にいとも容易く返答する牛飼童が憎い。

間違いなく、今この時点で件 吹雪は変な女認定されている気がしてならない。


兎にも角にも“あれ”を見る。

小さい牛だった。

どれくらい小さいかというと大きな瓜、二つ分と言ったところか。

正直、言われるまで置物だと思っていた。


「そうか…式神でしたっけ……」



異常なほど小さいのを式神で片付けた。

もう疲れた、暇つぶしなんてするものではない。


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