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それはちょうど四角い箱を上から見下ろした様な感じだ。
上の面だけないその箱はさながら箱庭だ。
そうこうしている間に意識はその箱庭に引きずり込まれていく。
引きずりこまれた先には大白蛇邸の渡殿があり、そこで人影を二つ見つけた。
一つは両の眉上から黒い角を生やした黒髪の狩衣を着た男だ。
髷は結わず、髪を下の方でゆるく結んでいる。
これは私だ。
もう一つは端正な顔立ちをした見目麗しい金髪の男だ。
狩衣に鳥帽子と一般的な格好をしているが、目蓋は伏せられたままで日の光を浴びることはない。
最初からこの両の目は閉じられたままであったと思えるほどに目を伏せた様子がしっくりくる。
これがどこぞの女の元に遊びに行っていた大白蛇様だ。
もういっそ、その女共を家に住まわせればいい。
「今日は琉璃姫様のところに行かれるのですか」
私がそう言うと、大白蛇様は薄く笑った。
だが、それもすぐに檜扇で隠して、笑ったことすらなかったことにしてしまう。
「そう言えば久しく行っていないなぁ。だが、今晩は秘花の君の元へ行くのだよ」
また違う女性の元へ行くのか…。
言いたくはないが、本当にこの人は手癖が悪い。
唯一の良い所は衆道に興味がないことぐらいである。
「今日は吹雪がいるのです。少し控えていただけませんか」
「ほほう、また大きなことを言ったものだな。私から教えて乞う立場でありながらのそれは…」
「い、いいえ!無理にとは言いませんが!!」
不味いと思い頭振って否定をすると、大白蛇様は檜扇をぱちん、と閉め、得意気に『では』と言った。
「行くか、舞雪からの許しも出たわけだからな」
この人はいつもこの調子だ。
何か私が当然のことを言っても、最終的には権力でねじ伏せる。
だが、しかし―――……。
目が覚めた。
視界に入る部屋の様子はまだ暗い、今はちょうど明け方なのかもしれない。
身を起こして、少し未来視と言う名の夢を振り返る。
意識せずに苦笑が漏れる。
いつもこの様に微笑ましい夢であればいいのに。
「都がどうの、藤原がどうの……そんなものを毎晩見せられるこちらの身にもなって欲しいものだ」