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3



物見を覗くと、焼けるように鮮やかな夕日と気味が悪いほど青々した林はなくなっていた。

代わりに白塗りの壁が迷路のようにずっと続いている。

どうやら裏五畿七道をもう降りたらしい。


いつの間にか牛車を引く牛も牛らしい、ゆっくりとした歩みで通りを歩いていた。



「今はどのあたりだ」


吹雪は物見から一度目を外し、兄の舞雪を見やった。



「こちらが初めての私にそのようなこと分かるわけがないでしょう、兄上」


棘がある言い方をすると舞雪は詰まった様な呻き声を出すと、自ら身を乗り出して物見から目だけを覗かせた。


前々から思っていたが、兄は多分あれだ。

…へたれだ。


吹雪はこんな兄を見るとつくづくそう思うのだった。

いっそのこと穴でも掘って、そう叫んで胸の内をすっきりさせたいものだ。



しばらくじっ、と吹雪は舞雪を見ていると、舞雪は何も言わず、身を引いて物見から離れた。


顎に手をやり、何か思案するように目蓋を下ろしているのが、暗闇の中でも微かに視認できる。



「なに、どうしたんですか。まさか迷子になったなんて言わないでしょうね…」



止めてくれ、この歳で二人してそんなのは絶対嫌だ。

吹雪は喉まで出掛かった言葉を全力で飲み込んだ。


だが、舞雪はその方がまだ良かった、と聞けばより不安になるような言葉を聞こえるか、聞こえないかギリギリの音量で呟く。


「はっきり言ってください、兄上…!そんな中途半端に言われると余計気になるでしょう、わざとですか!」


深刻な様子の兄を目の前に吹雪の声の音量も自然と低くなる。



「声を出すなよ…壁をよく見ろ」



そう言うと舞雪は御簾を持ち上げ隙間をつくり、その間を吹雪に覗かせた。

何のことはない、先ほどまでと同じ白い壁が両脇を迷路のように固めている通りだ。


そこに舞雪の骨ばった人差し指が視界の横から現れると、その指先は白塗りの壁を指していた。

指示されるがままに、壁を凝視していると、その壁が波打つようにぼこぼこしているのが分かった。


そしてその凹凸の正体が分かった途端の声なんて抑えようと思って抑えられるものではなかった。




「か、顔が――――……!!?」


小柄な吹雪からは想像できないほどの絶叫だった。

全て叫び終える前に舞雪が吹雪の口を手で覆う。


「声を出すなと言っただろう!?」


吹雪を御簾から引き離すと、舞雪は懐から紙札を取り出し、何事か真言を唱えると、それを式神である牛に貼り付けた。

途端に牛は何時ぞやの力強い走りで一気にその場を離れた。


離れて行く気味の悪い顔がいくつも象られた壁を視界の端に吹雪は確かに見た。



黒いもやに包まれた無数の影がその壁を突き破って進むのを。


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