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藤原路雅。
どっかの巳と並ぶ好色家である彼は荒ぶる三位だ。
路上で喧嘩をして見世物になったり、口説けなかった女を殺してみたり…とその荒ぶれように歯止めは利かない、全く。
そんな路雅に恥をかかされた宮仕え人は後を立たず、どうにかしてやりたいと思う日々である。
だが実際問題、滅多なことをしてみたらそれこそ家ごと潰される。
ついでに妻も娘も奪われる。
ならば、もういっそ誰かあいつをこっそり殺してくれ。
正直、自然消滅でも構わない。
頼むから死んでくれ。
そうなる訳で物頼まれたのが、忍びを生業とする蒿雀一族だった。
そこの当主、不知火は仲の悪い姉と罵りあいを日常的にしていて、常に力を見せ付けなければならない状況にあった。
が、近しい存在の呪のせいで寝殿に踏み込んだだけで終わった。
姉に散々馬鹿にされる、どうしよう。
とにかく、継続中のこの呪をどうにかしろ。
「って、ことです。蛇殿様」
蒿雀の愚痴から聞き出した情報を伝える吹雪。
「ふむ、つまり私はやはり悪くはないのだな」
大白蛇は得意げににやりと笑む。
大人しく座っていた蒿雀は、辛抱ならんと立ち上がって地団駄を踏んだ。
「蛇に耳はないってマジなのね…どう聞いたってあんたのせいでしょ!?」
「そうか?吹雪、お前はどう思う」
「兄上はどこに行ったのか、と思います」
何かを察したのか、吹雪はすっと立ち上がると別室に消えた。
口ぶりからすると舞雪を探しに行ったのかも知れないが、ただこの場から逃げたかっただけなのかも知れない。
二人っきりされた室内は静かになるはずもなく、蒿雀の責める声だけが延々と響く。