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酉の気付きし事。
暗闇を駆ける影がいる。
家々の屋根の上を走る姿はとても身軽に見える。
その身軽さは鳥を思い起こさせるほどだ。
足音なく、とある邸宅の庭に到着すると影は四方を見渡した。
人が、いない。
見張りがいないことを不思議がりながらも影は寝殿に足を伸ばす。
「―――…!?」
直後に無音が影に響く。
侵入がばれたと思った影は急いで逃げようと踵を返した。
が、足が。
「な、なによ…これ……」
思わず呟いてしまった。
声がしたぞ、と遠くから聞こえたら、内心は焦りでいっぱいだ。
とにかく影は逃げた。
捕まれば一大事である。
…いや、正確に言えば捕まったことが、あれらに知れてしまえば。
影は裾の短い小袖からはみ出した足を引きずりながら、闇夜を駆け戻った。