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外が騒がしい。

寝ようと床に就いていたが、それが気になって身を起こした。

襦袢の上に長羽織を羽織ると、外を伺う。

満月の下に照らし出された牛車。



「……。」



こんな夜に、おかしい。

いや…いつもだったらおかしくないだろうが、今は兄上がいない。

と、言うことは…。



「やっと見つかったのですか…!」



考える暇も無く停止している牛車に乗り込む。



「ふぁ~…時間外労働だろ、これ。手当てちゃんと余計に貰えるかな」



しばらくするとそんな声が聞こえた。

聞いたことがある、牛舎で会話をしたあの人だ。


やがて牛車が動き出す。

体勢を整えていなかったため、ぐらりと身体が揺らいだ。


とにかく無事乗り込めた。

一緒に行って良いか聞いたら、間違いなく良い返事は返ってこないだろう。

だが気付かれずに、着いて行く方法が思いつかない。


正座をし、乗り込んでくるであろう蛇殿様を待つ。



「御当主様、牛車の準備整いましたよ」


「遅いぞ、一体いつまで待たせるつもりであった」


「コイツが思いの外、歩くのが遅いもので…すんません」


「…牛のせいにするなよ、お前も含めて遅いのだろう」



そんな会話がすぐ外から聞こえる。

そして物音と共に後簾が持ち上がった。

蛇殿様だ。



「…?」



が、私に気づいた様子は無い。

そのまま乗り込もうとすれば私に躓いて転ぶだろうに。


案の上、蛇殿様の足が私の膝にかかる。



「…むッ!?」



そして当然の結果として、屋台の中にこてん、と転がり込んだ。

…不覚にも可愛いと思った。



(…蛇殿様でも転ぶんだ。あ、気づいた)


「吹雪か…。ここで何をしている」



蛇殿様は身を起こすと、傾いた烏帽子を直しながら私を見た。

見たとは言っても目は開かれていないが。



(そして転んだことを無かったことにしようとしている…)



そうは思ってもそれを言ったら可哀相だ。

それには触れない。



「私も行きます。兄上が見つかったにしても、どうせまた一悶着あるでしょう」


「一悶着あるにせよ、お前に何ができる。家に居ろ、危ないだろう」


「…蛇殿様がいるので安全でしょう。一日中私を放置していたのです、良いじゃないですか」



纏わりつくよう身を寄せて言う。

空白があったとはいえ蛇殿様の性質を知らない訳がない。

これが効果的だと内心ほくそ笑んで、身を委ねる。


が、そこで予想外なことが起こる。

顎を掴まれ、唇を押し付けられたのだ。

長い舌が口内に侵入し、意思を持って動く。


十数秒後にやっと重ねられた唇が離れた。

頭がくらくらする。

顔が熱い。

眼前の蛇殿様はふっ、と笑った。



「…続きは帰ってからだ、良い子にして待っていろ」


「え、え……?」


「何だ、物足りないのか。それじゃあ…」



今度は腰に手を回す蛇殿様。

その手が腰やら尻を撫で回すように蠢いた。

顔から火が出そうになるとはこのことなのだろう。



「もっ…もう!もう…止めて下さいっ!!」



そう叫ぶと静かな夜の空気が震えた。



「あ…兄上が大変な目にあっているかも知れないんですよ!それなのに…蛇殿様は……っ!」



我を忘れて蛇殿様の襟首を掴み、揺さぶると珍しく相手は狼狽したようだ。

これは面倒なことになると思ったのだろう、蛇殿様は牛飼童に早く出るように言った。



「悪かった、悪かったから吹雪…少し静かにしろ」



牛車が動き出す。



「あっ挙句、人を煩いと言いますか!信じられません、この…ッッ」



全て言い切ろうとした時、前簾から巨大な白い蛇が侵入してきた。

記憶にある蛇神よりもずっと大きい。

舌をちろちろ出し、喉から変な音を出すその様子に呑まれて言うことすら忘れた。



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