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「手間を掛けさせおって…」



牛車に揺られながら、大白蛇は悪態をついた。

物見を覗けば、日が真上に来ていることが分かる。


まさか舞雪にこれ程迷惑をかけさせられるとは、大白蛇は予想だにしなかった。



「大体、私が今年何歳になると思っているんだ。牛車に長時間乗っているこちらの身にもなれ。尻が痛いわ、尻が」



大白蛇が独りごちると前簾から巨大な白蛇がシューシュー音をたて、舌を出しながら入ってきた。

赤い目が爛々と輝いている。


何事かを言わんとしてか、ずっとシューシュー言っている。



「前から乗るとは…義仲と仲良くなれそうだな、蛇神」



大白蛇が胸の前で印を切ると蛇神は妙齢の女の形をとった。

白の長い髪で片目を隠した襦袢姿の女は大白蛇と向かい合うように座した。



「独り言が多くなられましたねぇ、ふふ。それにそういう皮肉っぽいところ、嫌われてしまいますよ」



艶やかな赤い唇が言葉を紡ぐ。



「抱けぬお前に嫌われようとも構うものかよ。で、何か分かったか」



素っ気無い態度を返す大白蛇に蛇神は笑みのまま頷いた。



「星を見れば分かります。もうこの運命、決められたのでしょう」


「それは…良いことだとは言い難いな。おい、蜥蜴丸。帰るぞ」



前簾の向こうで牛の傍らに控える牛飼童に大白蛇が指示を飛ばす。



「…えっと、それは独り言……ですか?」



御簾の向こうから素っ頓狂な返答をする牛飼童に思わず黙り込む大白蛇の代わりに蛇神が動く。

前簾から顔だけを覗かす。



「いいえ、御当主様の命令よ」



うっすら笑みを作って蛇神が言うと蜥蜴丸は“へぇ”と気のない返事を返し、牛車の向きを変え始めた。



「私はそれ程、独り言が多いか…?」



黙り込んで考えていた大白蛇が蛇神に聞く。



「いやぁ~…何と言うか、私が生真面目なだけでしょうか」



前簾向こうから聞こえてきた思いもがけぬ声に大白蛇は口を綻ばせた。

日差し避けに扇子を使っていた大白蛇は代わりに袖で口元を隠す。



「本当に私は面白いものに囲まれて生きているなぁ」


「それは良かったですねぇ。今日は雲も無く、月も明るうございます。星見も楽に出来ますねぇ…」



わざとらしく蛇神が物見から空を見上げる。



「星見などと言う簡単なもの誰にでも出来るわ、目さえ良ければな。いつも通り水面を見る。帰ったらすぐに準備を始めろ」


「助手の妹がいるじゃないですか、あの子に星を見てもらえばいいのではないですか。たまには星見も一興」



相変わらずの調子で話す蛇神の言葉に吹雪の話題が出る。

大白蛇がふむ、と何事か顎を擦って考え始めた。

…あの時の痛みを思い出したのかもしれない。


「あまり巻き込みたくはない…それに夜だぞ、夜。ここ最近暇がなかったせいで溜まっているしな」


「なるほど、今度こそ嫌われると…明確に」


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