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太陽の光が指す室内。

障子は虫に所々喰われ、穴が空いていてみすぼらしいが、そこから差す光は美しい。

狭い室内に座す者が一人いた。

舞雪だ。

相対する人がいないのにその表情は険しい。



「まだ居たのか」



開きっ放しだった襖から声が響く。

舞雪が振り返れば、どこにも特徴のなさそうな野良着の老人が顔を覗かせていた。

特徴があるとすれば、片足を引きずるようにしている点か。



「当たり前です。もう時間がございません。あなたが了承するまでここにいます」



断定する舞雪は意思の強い目で老人を見つめた。



「何度言っても変わらない。俺の意思は曲げられない」


「その様なことをしても意味がないと、本当はもう…ご存知でしょう」


「誰にとっての無意味だ。俺にとっては無意味ではない」


「人を殺めれば病がなくなる。そう本気で思っているのですかッ!」



その声は静かな室内に響いた。

空気を一通り震わせると声は霧散する。



「簡単に言わないで欲しい。それだけではない、もっと特別な儀礼を踏んでいる」



その言葉を聞いて舞雪の表情はますます険しくなった。

普通の老人が知っているはずがない、一体誰がそんなことを吹き込んだのか。



「あなたのそれは…悪戯に百鬼を呼び、徘徊させるだけです…」



焦ったところで仕方がない、しかし時間がない。

舞雪の見た夢では今日の晩である。

今日の晩――百鬼はいよいよ力を増幅させ、その力は行き場をなくす。

そして赤子が母親を求めるが如く、捨てられた女がそれでも男を慕うが如く――…術者の元へ至る。


人はそれを返りの風と呼ぶ。


病で娘を亡くした男が、病を亡くそうと我を亡くす。

それで良い訳がない。


思いのほか長くなってしまったが、今帰っている暇はない。

早く説得しなければ。

舞雪は隈が出来かけた目の下を擦った。


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