10
朧月夜。
満ちた月はぼやけ、満月とは言え暗い。
種類も分からぬ、鳥が低い声で鳴いている。
「…舞雪か。どこへ行くつもりだ」
今当に門を出ようとしている舞雪。
特に荷物はないようで両手はがら空きだった。
「大白蛇様…。起こしてしまいましたか」
大白蛇の声に舞雪が振り返る。
そこで初めて舞雪は回廊を歩いている大白蛇を見つける。
「いや、暇でな。普段ならこの時間帯は外にいるからな。それで舞雪、どこへ行くつもりだ」
「少々…気になることがありまして」
言葉を濁す舞雪に大白蛇は確信すると同時に驚きを隠せなかった。
「女か…!あのお前が、羅切に処されているのではないかと噂されているお前の所用が女だと!?」
「誰もそんなこと言ってませんよ!?昨日百鬼夜行に遭ったと言ったでしょう、それですよ、それ!」
即座に否定したおかげか、大白蛇もすぐに納得した。
“そうだな、お前に女が出来るはずもないからな…”と非常に失礼な呟きごとを聞いたが、反論できる舞雪ではない。
更に言えば、自分に纏わる噂が気になるが早く外に行き所用を済ませたい。
「しかし、お前にはまだ早い。百鬼夜行は伊達ではないぞ」
「この前まで見なかった百鬼夜行でした…少しですが、この百鬼夜行が発生した原因に心当たりがありまして」
珍しく譲らない舞雪に大白蛇は止めても無駄だろう、と薄々勘づく。
「吹雪がいるのだぞ。笑えぬではないか、久しぶりに会ったはいいが二日で永久のお別れとは」
「なるべく早く帰ってきますので…」
そう言うと舞雪は踵を返して門の向こうに消えた。
心当たりがあるとは言え、あの新米の新米に一体何ができるのだと大白蛇はため息をついた。
急に陰陽師の位が与えられることに天狗にでもなっているのだろうか。
いや、しかし舞雪にそんなことはあり得まい、あれは謙虚だ。
そこまで考えると大白蛇は、舞雪が消えた闇と言うには仄明るい暗闇に眼を向ける。
「…こんなことになるなら今晩も女の家を訪ねれば良かった」
お前が言うから日中だけで済ませたと言うのに。