悪役令嬢レベル37 ここではないどこかへ逃げる
わしは悪役令嬢37歳じゃ。
ひょんなことから転生前の記憶が急に戻って(階段から転げ落ちた外因性ショック、すげ~痛かったぜ)パニックになった。
乙女ゲームに転生してめっちゃストレスなんじゃが、ちと慣れてきたんで日記でも書こうと思う。
今日も今日とて、ベッドに寝転がる。
シーツを引っ張ってくるまっとった。
胸にじわりとくるんじゃ。
なにがくるかっていうと~。
罪悪感がじゃ!
悪役令嬢としては、当たり前の日々やったけんど、
転生前の乙女ゲームゲーム大好きっ子として、悪役令嬢のメイド虐の日々を振り返ってみっと――
「あああああああ……」
なんつうゴミ何じゃ、わしは!
人でなしなんて言葉が、生ぬるすぎるわいっ。
今まで発狂させたメイドたちの顔が、走馬灯のように浮かんできよった。
わしは良心の呵責に耐えられずに、シーツの中で悶え続ける。
「くううううっ、どうすればええんじゃろ!?
わしこれから、どうすればお天道様にむかって顔向けできるんじゃ!?」
前世でわしは、いい子だったんじゃ。
ちょっとゴシックロリータはいとって、こじらせておったけど。
何食わぬ顔でな、メイドに謝ったら許してもらえるやろか?
えええい、そんなレベルじゃないわい!
ほんにメイド虐の日々を思い出すだけで、寒気がする。
それはもう、とんでもなく卑猥な日々じゃった。
そう卑猥だったんじゃ。
脱がせたり、道具つこうたり、えろえろじゃ!
自分で言うのもあれじゃが、なんで平気で人のSAN値ぶっ壊すような真似ができるんか、首根っこ捕まえて問い質したい。
その答えはたぶんあれなんじゃ。
そういう風に作られたゲームキャラじゃから。
そうであって欲しいっ。
そう思ってねーと、ちょっと自分のゴミくず加減で立ち直れんから。
わしの転生した悪役令嬢は、主人公キャラを引き立てるために、徹底的に外道に特化したキャラじゃ。
将来、国を裏切って魔王に寝返るようなキャラだったはず。
とんでもねー! 破滅しかねーじゃねーか!
そんでメイド虐だけじゃなくて、学園での振る舞いとかも思い出したら……
「く、苦しいっ。
ダイレクトに胸が苦しいんじゃ、胃が痛いんじゃっ」
そうやって苦しむと同時に、転生前の大学生19歳と、悪役令嬢として生きてきた18年間が、冷静にわしを見つめてきよる。
なんぞ上の方から見つめてきよる
そんでなぜかお嬢ことばで、わしに囁く。
なんか本当に、心の中から聞こえてきよる。
わしのSAN値も、もう狂っとるんじゃ。
(あらあら、そうやって良心の呵責に苦しむのはよろしいですけど、これからどうなさるの?
この世界がゲームの中だと分かった今、あなたはこのままだと破滅に向かうのよ。
どうなさるの?)
「どうなさるのって、どうすればいいんじゃ!?」
(悪役にハッピーエンドルートってあるのかしら?)
「そんなのあるわけねえっ。
悪役が悪事働いて幸せになりましたなんてゲームっ、わしは知らん!」
(なら、どうなさるの? このまま滅ぶの?)
「それはいやじゃー!」
「大丈夫ですかお嬢様!?」
いつの間にかわし専属のメイドが、学園専属の「魔法医」を連れてきていた。
わし、壊れたように独り言をいっとったから、お医者さんを呼ばれてしもうた。
被っていたシーツをはがされる。
やめてくれー!
わし多分いま、涙とか鼻水とかでぐしょぐしょになっとるから!
こんな時、心を通わせとったメイドやったら気を効かせて、わしを抱きしめたりして、慰めてくれるんじゃないやろか?
じゃがメイドはただドン引きして、立ち竦んどるだけじゃった。
そうだよねー。
魔法医はとりあえずわしに治癒魔法かけて、山もりの薬を置いて帰っていきおった。
メイドは「何かあればお呼び下さい」と言って、ささっと隣室に引き下がってまう。
閉じられた隣室のドアを見つめて、独りベッドの上で気が抜けるわし。
さびしいんじゃ~、あったかい感じがなくて。
なんぞ、すっごくさびしい。
じゃがこれもみんな、わしのせい。
転生前のわしだけだったら、へこみ過ぎて立ち直れんけど、わしの中の「19歳+18歳=37歳」としての経験則が考えとる。
どうすれば破滅しねーかを。
わしはもう一回シーツにくるまって、うんうん唸ってがばりと起きた。
「そうじゃ、ここでない何処かへ逃げっぞ!」
真夜中、はだしで逃げ出したんじゃが、ハッと我に返って思う。
ここでない何処かって、どこじゃ?
どこまで行っても、ここはゲーム世界じゃろが。
わしの経験則ゴミじゃなっ。
わしは超へこんで、とぼとぼと学園寮に帰る。
今はSAN値こなごなになってしもうたが、また気分がようなったら日記つけるかもしれん。
そんときは、まあよろしゅうたのんます。
それじゃな、おやすみなさい。