第3話 見たくない現実と見せない優しさ
「相変わらず、容赦がない野郎どもだ」
「――さん、あそこ家を除いて生存者はゼロ名でした」
「そうか。望み薄だが、確認しないわけにもいかないから、行くぞ」
「はい!」
【正義の弾丸】が去ってから十数分後、静寂に包まれていた村中から女性たちの声が聞こえていた。
その女性たちは一か所に集まり、マリの家を目指して歩き出した。
家に近付くにつれて、マリの耳にもその声が届き始める。
「それにしても、どうしてこんな辺境の地にある隠れ村がバレたんだ?」
「辺境とはいえ、我々の名簿にある村ですから、居たのではないでしょうか」
「……想像したくないが、居るんだろうな、内通者が」
「調べますか?」
「いや、個人的に調べてみたが、一切の証拠が残っていなかった。……内通者の話はここまでだ」
内通者について話しているうちに、マリの家に辿り着いていた。
扉を開けると、戦場の香りが女性たちの鼻を襲った。
「うっ――」
「血の匂いが凄いな。相変わらず【正義の弾丸】は、その名に合わず残虐な真似をしやがる」
「よくここまでの匂いで、鼻を摘ままないで大丈夫ですね」
「慣れだろうな」
部下と思われる女性が鼻を摘まんでいるのに対し、指揮官と思われる女性は鼻を摘まむどころか、逆にクンクンと現場の匂いを体内へと送り込んでいた。
「慣れたくないですね」
「慣れるってことは戦場に行き慣れるってことだからな。本来は慣れない方がいいんだけどな」
ついに二人は部屋に踏み入れた。家中に血が飛び散り、白い漆喰の壁が真っ赤に染まっている光景は、なんとも残酷なものだった。
「やっぱり生き残りは居なさそうですね」
「そうだ――いや、ちょっと待て」
家から出たいのか、部下と思われる女性は、壁に横たわった元々人であっただろう肉塊を、同じく肉塊となった者たちを集めた肉塊の山へ、急ぎ早で持っていこうとしていた。しかし指揮官と思われる女性は肩を掴んで止めた。
「あの壁を見ろ」
「壁ですか? ただの壁にしか見えませんが」
「よく見てみろ」
「よくですか……あっ!」
「分かったか」
「はい! 垂れている血が途中で途切れています!」
部下と思われる女性の指摘通り、女性の死に際で飛び散った血液が壁を伝っていたのだが、マリが隠れている隠し部屋と壁の僅かな隙間に入り込んで、垂れた血液が途中で途切れていた。
「私が開けるから、警戒を怠るなよ」
「はい!」
指揮官と思われる女性が隠し部屋に手を掛けた。しかし彼女が手を引くより先に、隠し部屋は開かれた。そして開くと同時に小さな物体が勢いよく、部下と思われる女性へと突撃を行った。
「ぐへっ」
不意打ちに変な声が漏れた。しかし軍人である彼女は、即座に敵対存在として魔法を放とうとしていた。
「ファイ――」
「待て!」
「はっ!」
指揮官と思われる女性の掛け声に、彼女は魔法の行使を中断した。そして冷静な目でお腹に乗っている存在に目をやった。
「子供?」
「おばあちゃん!!」
その子供――マリは部下と思われる女性のお腹から飛び退き、見るも無残な姿となったおばあちゃんの下へと駆け出した。
「止めろ!」
「はっ!」
部下と思われる女性が、マリへと掴みかかり、その視界を塞いだ。いま家に広がるのは、幼いマリには残酷な光景だ。それを見せないようにしたのは、指揮官と思われる女性の優しさだろう。
「おばあちゃんはどうなったの?」
マリが震えた声で言った。
二人の女性は俯きながら、答えた。
「君のおばあちゃんは、自然へと還ったんだよ。心に抱える魔力と共に、自然の母の下へ還ったんだ」
部下と思われる女性の手が濡れていく。
マリは涙を流しながら、現実逃避するための眠りに入った。
「……連れて帰るぞ」
「良いんですか? ――さんがこの子を【マーリン】のメンバーに入れるつもりがなくても、他の団長たちは入れようとしますよ」
「……だが私たちが連れて帰らなければ、この子は死んでしまう。後処理は私が行うから、この子を魔女館まで頼む」
「はっ、責任を以て、連れて帰ります」
「頼んだぞ」
見ずとも分かる悲しい現実




