さようなら小娘(2)
ラインバッハ家を追いやられてから旧友であるクレマンティーヌに文を出して、同窓会を装って会う事になった。
「シュザンヌさんはその娘を不幸に陥れたいと」
「えぇ、こんなことになっているのもあの小娘のせいですわ。貴女、何かいい案はありませんこと?」
暫く考えてからクレマンティーヌは呟いた。
「ないことありませんよ」
「どんな案ですの?」
「イザークさんを陥れることになりますが、よろしいですか?」
「それはっ………」
この女の陥れるは死を彷彿とさせるので、あの女が死んだときの憔悴しきったイザーク様の顔を思い出して躊躇いが生まれた。
「せいぜい没落するだけです。そこで心も体も傷心しきったイザークさんをシュザンヌさんが大きな愛で引き受けたらよろしいんですよ。そうなるように私が計らいますから」
クレマンテーヌは私の心情を理解していて、かけてほしい言葉をかけてきた。
「………分かりましたわ」
私達は友人関係ではない。故に義理堅い信頼なんてない。互いに利害関係があるからこそずっと手を組んでこれている。だからこそある意味では信頼関係はあるのかもしれない。
隠居暮らしの私が第二王妃のクレマンティーヌに上から目線でものを言えるのは重大な秘密を知っているからだ。
この女は第一王妃を間接的に殺害している。表沙汰では火事で亡くなったことになっているが、強めの睡眠薬で眠らせてから火事を起こしたのだ。
なぜ知っているかというと、第一王妃はクレマンティーヌの目の上のたん瘤である。この女はそれを何もしないで平然と放置しているはずがない性格だと私は熟知している。だから嘘に嘘を塗り固めた会話をして、最終的に後ろめたさがあったのか、それとも嬉しかったのかクレマンティーヌがボロを出したのだ。
その切り札のカードを切って、対等の立場を捨ててまでも私はあの小娘を不幸にしてやりたかった。
イザーク様に反逆心ありと噂が広まり、クレマンティーヌの計画通りに架空の革命が起こりそうになっていた。
そして魔術会後にクレマンティーヌからヴィクトルの素性を教えられた。まさかあのヴィクトルがナディアの子供だったとは。似ているのは黒色の髪の毛だけで他は父親似なのだろう。
クレマンテーヌは第三皇子と第五皇子を子供に持つが、どちらも皇位継承権としては劣る。どうあがいても次期皇帝は第一皇子であった。そうなれば第一王妃を殺害した意味がない。
クレマンティーヌは自身が権力も愛もを独占するためならば何を捨てても構わない人間だ。第一王妃を殺害したことで皇帝の寵愛を独占し、自身の息子を次期皇帝にしようとしているのは昔から知っていた。
私とクレマンテーヌは目的は違うが似ているのだろう。
所有物である第三皇子とあの小娘が婚約したのだ。私がラインバッハ家に身を置いていたならばクレマンティーヌの伝手でネェルを王宮に送って、第三皇子とくっつけることができたはずなのに、それができなかった。
クレマンティーヌも第三皇子には愛想が尽きているようだったが、あの小娘の潜在的な光を受けて人が変わった第三皇子と小娘の能力を道具として買い直した。それは私の手から離れている事なのでどうにもできない為に爪を噛むしかなかった。
あの光を道具として扱える訳がない。クレマンティーヌは光に当てられて自分の影が濃くて足元を疎かにして破滅するに違いない。
ヴィクトルを煽り立てて第一皇子と第二皇子を殺害させれば、自然と第三皇子が王位継承権一位に繰り上がる。ヴィクトルには甘い言葉を吐いて騙してその気にさせるに違いない。
だがそう計画通りにいかない。
あの小娘が関わっている時点でご破算するの。舞踏会で悉く思い知ったわ。絶対にヴィクトルは裏切るに違いない。思ったとおりにならないはず。
あの光を摘むには………私自身が直接手を下すしかない。
結婚式場でヴィクトルの動きを見ていた私は誰よりも逸早く隣にいるネェルに覆いかぶさるように防御姿勢を取った。
だからこそ早めに起き上がることができたが、抱いたはずのネェルはいなくなっていた。ヴィクトルが第一皇子やイザーク様と戦っている間にネェルを探したが煙が目に染みて、炎の熱で体力を奪われて探し切れなかった。
ただ変わりに忌々しい小僧を見つけた。
この小僧もあの女に似ている。最近よく笑うようになったと訊く。
同じ光を消すには、同様の光を消してやればいい。心の支えを失った人間の気持ちを味わえばいい。今まで幸せだったんだから、不幸者の気持ちを味わえばいいんだ。それが調和ってものですわよね? そうですわよね女神様。だから私のする行動は赦されますわよね。
誰かが持っていた小型のナイフが落ちていた。それを拾って小僧を引きずってあの小娘に引導を渡しに私は姿を見せた。
23日 21:10投稿予定です。
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