表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/111

さよならお嬢様(3)


 魔術会では予定通りにグウェンドリンお嬢様と出会えて、更には合流さえもできた。


 ネェルフアムお嬢様はいつも通りに猫を被ってグウェンドリンお嬢様と接していた。もしかしたら普段の態度が猫を被っていて、グウェンドリンお嬢様と接している時が裸のネェルフアムお嬢様なのかもしれない。まぁどうでもいい。


 それよりもグウェンドリンお嬢様がバカップルのようなやり取りをしていて、失礼ながらにも落胆した。グウェンドリン・ラインバッハは媚びない靡かない挫けない。この三拍子が揃ってこそのお嬢様なのに、王宮へ行かれて、いやシャルル皇子と出会ってしまって変わってしまった。


 私の中のグウェンドリンお嬢様が瓦解していくように感じた。


 闘技場では件のクレマンティーヌとも合流できた。ネェルフアムお嬢様はクラリス皇女に捕まってしまって移動できなくなっていたが、グウェンドリンお嬢様が私の事をクレマンティーヌに伝えていたようで、既に興味を示されていた。


「ヴィクトルさんは魔術の資格をお持ちで?」

「いいえ。私は中級魔術までしか使えませんので」


 私が魔法を使えると知っているのはグウェンドリンお嬢様だけである。そしてそれ以外の人間に言うつもりはない。


 ネェルフアムお嬢様にはグウェンドリンお嬢様と出会う前に私の呪いをかけておいた。いつ発現し、何が起こるかは分からなかったが、この魔術会中は何かが起こるのが確定はしていた。


 まさか魔術壁が割れてこの場にいる全員に実害が及ぶとは思っていなかったことだ。


 私は何が起きても対応できるようにしていたので、炎を操って上空へと逃がしてやった。ただその対応と同じようにカミーユ様も防御の魔術を展開しているのは意外だった。


「この後お時間ありますか? もう少し静かな場所でお話しがしたいので」


 炎を全て空へと逃がしてやると、クレマンティーヌが近づいてきて耳打ちしてきた。これは私に惚れている仕草ではない。感じるのだ。底知れぬ悪意を。だからこそ私は笑顔を作って答える。


「えぇ是非とも私もお話がしたかったのです」


 王族の魔術に興味があるのだ。今の魔術を受け流したのを見れば中級魔術しか使えないのは嘘であると見抜ける。これもまたネェルフアムお嬢様の目論見通りであるならば、どこまで見据えているのだろう。


 懇親会では一通り挨拶をし終えたクレマンティーヌと私は雨の降るバルコニーへと抜け出した。


「貴方、魔法が使えますね」

「………まさか、私はしがない一執事ですよ」


 クレマンティーヌは「嘘が下手ね」と笑った。


 クレマンティーヌの言い分はこうだった。先程放たれた魔術は上級魔術であり、あれをいとも容易く制御できるのは魔法を使える力量を持っている人間にしか熟せない技だと。そもそも放った人間、第一皇子が魔法を使えるので、それと同等の力を持っていなければおかしい。とのこと。


「貴方シュザンヌさんに拾われたと聞きましたよ。あのシュザンヌさんがしがない執事をわざわざ拾うはずがありませんわ。貴方に拾う価値があったのでしょう。そうですわね………魔術が使えるは付属品で、もっと興味を引くもの、人を不幸にする何かを持っているのでは?」


 洞察力があるのではない。この女もまたシュザンヌの浅はかな心情を理解している人間の一人だという事だ。シュザンヌが分かりやすいせいで、私の秘密も露呈し易いのは度し難い。駆け引きを楽しめないではないか。


「そうですね………」

「ヴィクトルの右目は呪われているんですわ」


 右目の呪いを話そうとしたら、この暗くじめりとした場所にはそぐわないカラッとした声が響いた。


 二人で声の方を追うと、ネェルフアムお嬢様がドレスの裾を軽く上げて膝を曲げていた。


「貴女は確か………ネェルフアムさん。その……呪われているとは?」

「そうなんです。クレマンティーヌ様は学生の頃は呪術専攻してらっしゃっていましたよね? そういうのご存じでは?」

「確かに私は学生の頃は呪術専攻をしていましたが………」


 クレマンティーヌは突然の幼い訪問者に咎めることもせずに思考に至った。そして暫く考えた後に、細い目が大きく開いた。見据える先には柔和に笑うネェルフアムお嬢様。


「ヴィクトルは私の専属執事ですの。ですがお気に召したのであれば、魔術の師として御貸し致しますわ」


 何もかもを察しているネェルフアムお嬢様はそう提案する。


 私もまさか少しの会話だけでクレマンティーヌがその提案を呑むはずがないと馬鹿にしていたが、クレマンティーヌはそれを貸し借り無しの条件で承諾した。


 つまりこの右目の呪いはクレマンティーヌに関係しているというのは正しいと考えられる。


 ネェルフアムお嬢様とクレマンティーヌは私の呪いに関する情報を持っている。ネェルフアムお嬢様は全てを話す気など毛頭ないのだ。私が自分でクレマンティーヌから聞き出せる状況を用意するだけなのだろう。答えは私自身が見つけなければいけないようだ。



1日 21:10投稿予定です。



ブックマーク、評価、励みになります。ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ