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結婚式と死の運命と終わりと(2)


 準備に戻る背中を見送って、あたしはカミーユと新婦入場の段取りを話し合うことにした。


 腕を組んで入場するだけなのだが、粗相がないように念入りに段取りをしても損はない。シュザンヌに揚げ足を取られるのも嫌だしね。


「新婦のご入場です」


 さっきまで話していた聴き馴染みのある声に促されてあたしとカミーユは入場した。


 大きく開いた二枚扉から中の空気がふわりと出て行き、あたしのヴェールが揺れる。


 魔術が乗ったマイクを持っているのはヴィクトルだった。司会進行役でもあるんかいってツッコミを入れたかったが、歩く動作に集中しよう。


 大聖堂は壁面は豆腐のように四角くそこから上部へと段々に小さな四角いブロックを重ねた形をしている。上部からは調和の女神らしいものが描かれたステンドグラスから日差しが差し込んできていて、唯一の光源として室内を照らしている。


 その暖かな日差しを受けたバージンロードをこれでもかという程に御淑やかに歩いて行く。


 ゆっくりと着実にシャルに近づいて、登壇の前に腕に絡まっていたカミーユの腕が離れた。距離的には大して長くないはずなのに万里を歩かされた気分だった。リハーサルなのにこんな気分にされるとは、結婚式おそるべし。


 辿り着いて聞こえないように息を吐くとシャルが微笑んでいた。


 讃美歌には何故かソロパート部分があるんだけど、唄うのはクラリスであって、意外にもクラリスは歌が上手かった。しかもいつもの甘ったるい声を活かしてのソプラノの最高音が心地よい。うーむ、本当は場末の歌謡姫だったとかじゃないよね。


 讃美歌に聞き惚れた後に牧師が聖書を朗読し始めると、うんたらかんたらと呪文のような言葉が耳に入ってくる。現実世界の聖書を良く知らないので違いがあるかどうかも分からない。ただ調和の女神を崇めていることだけは分かった。


 この世界実は一神しかいない。だから神々って言うとグウェンは首を傾げるのだ。


 そんなことよりも、次は互いに誓約を空言のようにする。「誓います」と本気で言うのは本番でいいのだ。じゃなきゃ胸が張り裂けて心臓飛び出ちゃうからね。既にバクバクドキドキしているのに、本番では本当に飛び出すんじゃなかろうか。


 それで誓いのキスな訳だが、シャルがヴェールを取ってくれて形だけするってのがリハーサル。なのにシャルは顔を近づけてきて、その整った甘い顔が視界一杯になっていくのを見逃せないあたしがいた。


 ガンつけられたらガンを飛ばしたままにする乱暴で自然動物のような癖のせいで、目が血走っている事であろう。


 そんなあたしを見てシャルは笑みを溢した。


「頬を合わせるに変える?」

「いっ、いやっ! 大丈夫! ドーンとして!」

「無理は……してないね」


 瞳の動きや表情の機微であたしの思いが伝わってしまうのは、嬉しいけど恥ずかしい。


「してないしてな――」


 視界が一気に陰って、右頬に湿った熱が刻印された。 


 ゆっくりと光を取り戻して、白い肌のシャルの顔が視界に入った。


「やっ! やりましたわ! やりやがりましたわ!」


 牧師と立ち位置を同じにいるグウェンが言葉荒くしてガッツポーズをしている。何が起こったのかを頭の中では理解しているはずなのに、身体が追いつこうとしていない。


 シャルは魔術会の時からあたしに触れる事ができるようになった。だけどそれはあたしが差し出した手を取るような受け身な場合だけであったのだ。だから自発的に触れられることは基本的になかった。だからだから………リハーサルでさえもキスをされるとは思っていなかった。


 不意の一撃である。それが急所に当たってしまった。


 ようやく身体が反応を見せる。絶対に茹蛸みたいな顔になってる。前向くの無理。


 牧師がなんか言っているが何も聞こえない。シャルも何かをやっているが思考が定まらない。とりあえず真似しておいて、気がついたらリハーサルは終わっていた。


 あたしの頬にある熱は既に全身を迸っていて、誰の声も寄せ付けなかった。多分ネェルとかイザークとかクラリスとかに話しかけられた記憶が薄っすらとあるけど、生返事になっていたことであろう。



26日 21:10投稿予定です。



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