結婚式と死の運命と終わりと
結婚式にはラインバッハ家総出席することになっていた。噂の渦中のイザークからカミーユにネェルにそしてシュザンヌまでもがいる。酒を引っ掛けられたりと、結婚式を台無しにするために虎視眈々としているんじゃないかと警戒していたが、カミーユが釘を刺してくれているらしい。あのシュザンヌに釘を刺すとはカミーユの成長が止まらない。
当のあたしは初めて着るウェディングドレスをヨランダに着付けしてもらって浮かれていた。そりゃウェディングドレスや白無垢着たら、浮足立って小躍り超えた激しめのダンスをしたくもなる。絶対に一生着ることはないだろうと思っていたのだから、そんな気分になるのも致し方なし。
「お嬢様、お綺麗ですよ」
メイクもしてもらって、全体を再確認してからヨランダが言った。
「ありがとう………ヨランダ泣いてる?」
「………泣いていませんよ」
そう否定する声はちょっとだけ濁っていた。
「ヨランダには沢山迷惑をかけてきましたから、涙ぐむのもじがだありまぜんヴあ」
途中で感極まってグウェンも泣いてしまった。沢山迷惑かけたのはグウェンなんだろうが、ここ半年はあたしも迷惑をかけてきたので訂正を促すことはしない。
新郎側の出席者は皇族全員で、しかも他国の王族もいたりして、ちょっとの粗相で心象評価はガタ落ちなのは言わずもがな。
だから前日にカミーユと共にいつも通りを過ごして、今は借りてきた猫のように大人しくしているのだ。
「うっわ、どえらいイケメンがおるねんけど」
控室から出ると、キマりにキマッてドストライクな新郎のシャルと正装に身を包んだカミーユと談笑していたので、大好物と大好物が目の前で仲睦まじくしていたせいで、つい似非関西弁を口走ってしまった。
二人共あたしのドエライ発言に気を取られてしまって、見つめてくるだけで容姿を褒めてくれなかった。
「あ、いや、二人があまりにもカッコよかったから、つい」
「私は責めませんわよモモカ。激しく同意しますわ!」
頼もしい味方もいるが、現実には影響しないのである。
「ありがとう。でもグウェンが一番綺麗だよ」
恥ずかしさを一部も感じさせない心からの一言で、後ろで浮いていたグウェンが無言で倒れた。あたしも目を泳がせて真面に前を向けなくなってしまった。くっ場の雰囲気に吞まれている自分が恥ずかしい。
「姉上もお美しいですよ」
はにかむ表情で言われてグウェンの身体が倒れた姿勢のまま反っていた。
「二人共ありがと………」
誰かに容姿を褒められる度にこういうしおらしい反応になってしまう。今日はいつも通りの調子になるのは後々になるだろう。
本日の大まかな段取りはリハーサルをやって、またちょっとお色直しして、本番。細かい内容は、これから先にシャルが入場して、あたしがカミーユと共にバージンロードを歩く。当初はイザークと歩く予定であったが、カミーユがどうしても一緒に歩きたいと言ったので交代した。お姉ちゃん大好きなのは嬉しいことだ。
クラリスが入っている教会の合唱団と共に讃美歌斉唱して、牧師が聖書を朗読する。この牧師も大司教との位で、ありがたーい朗読を聞けるようだ。
次に誓約。よく耳にする問いかけだよね。健やかなるときも、病める時もうんたらかんたらってやつを誓う。
そして指輪交換と誓いのキス。もうこれがメインだと言ってもいいくらいだろう。リハーサルでは流石に形だけだけど、形だけでも想像するとドキドキと鼓動が高鳴る。
これで終わりじゃなくて、結婚宣言して、証明書にサインして、全員に報告する。これでようやく一緒に退場して挙式は終わりだ。
この後の披露宴も催しが沢山あって、あたし達がすることも多い。挨拶やらケーキ入刀やらテーブルラウンドやらの中に、皇帝が用意した催しが挟まっており、恐らくだが心休まる時はないのだろうという予定表を見せられた。
「シャルル様、リハーサルを始めますのでご入場ください」
シャルを呼びに来たのはヴィクトルだった。クレマンティーヌの魔術教師になってから、色々と気に入られて様々な催しのお手伝いをしているらしい。暇を貰っているが、一応はラインバッハ家の執事なんだけどな。このままクレマンティーヌのところに就いてしまって辞めてしまうのだろうか。そうなると寂しい気もする。
「これはグウェンドリンお嬢様………いえ失礼、お嬢様ではもうありませんか」
「宣言するまではまだお嬢様だよ。だからいつも通りでいいよ」
「そうですかでは………いつも以上にお美しいですよ」
「ヴィクトルはいつもそんなこと言わないんだけど」
「おや? 言っていませんでしたか?」
「いつもはあたしの浅慮に鼻で笑ってるじゃん」
「まさか、そんな畏れ多い事をする訳がありませんよ」
この発言からも語尾に笑いがついている気がする。
「じゃあボクは先に行っているね」
まだ積もる話があると思ってかシャルは先に行ってしまった。
「お嬢様、一つ質問をしてもよろしいですか?」
「うん? いいよ」
「ありがとうございます」
急に畏まられるとどんな質問が飛んでくるか気になる。
「お嬢様はお幸せですか?」
愚問だった。結婚式を挙げる直前の新婦に対してする質問じゃないだろう。だけどヴィクトルは揶揄っている訳でもなく、碧い瞳は至極真剣であったので、あたしは真っすぐに返す。
「うん。幸せ」
「………そうですか。それは良かったです」
澱みもなく答えると、ヴィクトルは優しく微笑んでくれた。一瞬寂しそうな表情を見せたように見えたのは、あたしがヴィクトルに抱いている印象を投影してしまったからかもしれない。
「では私も準備に戻りますね」
「うん。頑張って」
25日 21:10投稿予定です。
ブックマーク、評価、励みになります。ありがとうございます。




