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弟と幸せと前日と


 結婚式前日。あたしは緊張をほぐす為に建国祭をカミーユと満喫していた。


「姉上、こちらは如何でしょう?」

「おーそれも美味しそうだね」


 鶏肉の串焼きを差し出してくるのをカミーユから受け取る。


「そんなに食べてよろしいんですか?」


 あたしの両手には鶏豚羊と多種多様な串焼きが握られており、口の周りはテカテカに光っていることであろう。


「いいのいいの、どうせ明日は食べてる暇なんてないんだし、今にお腹にいれておくべきなのよ」

「食い意地だけは張っていますわね」


 悪かったな、もうやけ食いして気を紛らわしたいんだよ。


「姉上が結婚ですか………」

「なーに、実感ない?」

「感慨深いんですよ」


 しみじみと遠い目をしながら言うカミーユ。


「あたしはまだ実感が足りていないかも」


 転生前でさえも結婚式なんて参列するのも片手の指で折れるくらいしかない。まさか当事者になるなんて一度もない。それにこれはグウェンの結婚式でもあるけど、あたしの結婚式だ。


 結婚式の仔細段取りを見たけど、やっぱり誓いの口付けはある。グウェンのファーストキス――かは知らないけど、特別な意味合いを持つ口付けをあたしがしてもいいものかと、結婚式前日になっても切り出せないでいる。


「姉上ともっと早くに仲直りしておけばと後悔しています」


 カミーユの言葉からは後悔の念が浸みついていた。


 カミーユとの関係を修復できても、カミーユはイザークの仕事を手伝うようになり、あたしはあたしで王宮へと行く準備を始めたおかげで、昔の姉弟のように共に過ごした期間は一か月に満たないのだ。そして今度はシャルに嫁ぐので、もう姉弟仲良く過ごす時間なんてないのかもしれない。


「あたしもそう思うよ」


 背後にいるグウェンが物寂しい表情をしていた。


「だから今日はシャルが気を利かせてくれたんだよ」


 明日の主役である心優しきシャルは姉弟水入らずの時間を作ってくれたのだ。あたしの事を何でも見ていて、何でもお見通しみたいだ。ちゃんと近くにシャルの私兵を二人の時間を邪魔しないように付けてくれているのも抜け目がない。


「義兄上と呼ばなければいけないんでしょうね」

「いいじゃんシャル義兄上って呼んであげなよ、きっと喜ぶよ」


 カミーユがシャルを義兄上と呼ぶ日が来るなんてね。顔が良い男と顔が良い男が仲良くしている垂涎のものだ。


「姉上は………幸せですか?」


 宗教の勧誘かと警戒してしまうのは一人暮らしで身に付いてしまった悲しき性。これはカミーユがあたしの幸せを想ってくれている言葉であることは考える間もいらなかったので、あたしは逡巡せずに返す。


「うん。家族も元気だし、結婚もできちゃうし、ダンスも魔術も向上しているし、こうして大事な弟と何事もなく過ごせているんだから幸せだよ」


 グウェンの言葉ではないが、ラインバッハ家に身を置いてきたあたしの言葉である。カミーユはもうあたしの弟と言っても過言ではない。


「……そうですか。良かった」


 そういう割にはカミーユの表情は幸薄そうな笑顔だった。


「も、モモカ。カミーユに伝えてくださいまし、結婚してもまた一緒に踊りましょう。と」


 あたしがカミーユと接する時間が無くなるということは、グウェンもまた接する時間が無くなるという事だ。この姉弟はいつも自身の思いに蓋をして物惜しんでいたが、今日は互いに伝えたいことを伝えれているのだろう。


「カミーユ、結婚後もまた踊ってくれる?」

「そうですね………落ち着いたら踊りましょう」


 妙な間があったがカミーユが承諾してくれたことでグウェンは沈んでいた面持ちにぱぁっと花を咲かせた。


「あ、そうそう、あたしブレイキンダンスできるようになったよ」

「ブレイキンダンス? ですか?」

「モモカ! あれを往来でするのはお行儀悪いですわよ!」


 まだこの世界にはない物珍しい近代のダンスをカミーユに披露してあげようかと思ったが、一度見せたグウェンに止められてしまった。結婚式の余興にとっておこうかな。


 それからはカミーユとダンスの話をしていると、楽しい時間は直ぐに過ぎ去ってしまって、二人の憩いの一時は終わりを迎えた。



18日 21:10 投稿予定です。


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