表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/110

第一皇女と場所と結婚式と

「ねぇねぇグウェンちゃん」


 共謀関係となったクラリスがあたしの部屋に遊びに来るようになったとある日、ダンスの自主練習をしていると窓の外から射しこむ日差しを見つめながらクラリスはあたしを呼んだ。


「グウェンちゃん?」


 無視して頭の中で拍子を続ける。クラリスの頬が膨れたのを視界に入れつつ、ターンをする。


「ねぇねぇねぇねぇ!」

「うるっさいなぁ! なに!」


 膨らんだ頬から甲高い声で呼ばれたので、元々から不機嫌なあたしは同量の声で返した。


「カミーユちゃまって何が好き?」


 あたしが反応したことで、悪態もつかずに話を続けるクラリスの自己中心的な図太さにため息を吐く。


「知ってどうするの」

「もちファンレターと一緒に送るの。そしたらぁもっとお近づきになれるよね」


 検閲して燃やすように手紙を送っておこうかな。


「モモカ、この女から恋の波動を感じますわ。この女! カミーユに恋していますわ!」


 なんじゃその波動わ。とツッコミを入れたいが、クラリスはカミーユを語る時に恋する乙女の顔をする。カミーユの事を思い遠くを見つめながら空想へと落ちて虚ろで蕩けた表情。そりゃあカミーユのファンならば恋をしていると言っても差異はないが、これは俗に言うガチ恋ってやつかもしれない。


「あんたカミーユと添い遂げたいの?」

「えぇやだぁグウェンちゃんったら、クラリスちゃんとカミーユちゃまがお似合いだからって、そんな早いよ」

「一言も言ってないんだけど?」


 変な妄想をまるで現実のように恥ずかしそうに語るクラリスに冷ややかな視線を向けても、相当にお熱なので気づきもしない。


「実姉公認の仲になっちゃったら、クラリスちゃんもグウェンちゃんのように結婚式を挙げちゃおっかなぁ」

「ん? あんた、あたしの結婚式の日取り知ってるの?」

「そりゃあね。結婚式場の手配はクラリスちゃんがしてるもん」

「え、そうなの?」


 それは逆にあたしが知らない事であり、この女がそんな段取りよくできる人材とも思ってもいなかった。


「あーっ! クラリスちゃんが年がら年中何もしていない無職だと思っていたんでしょ!?」

「まぁね」

「歯に衣着せてよ!?」

「あんたにだけは嘘つかないから」


 嘘を吐けば不利になるから、嘘を言う必要が無い。鬱陶しくて粘着質なところ以外を目を瞑れば、なんとも清々しい関係性だろうか。


「信頼が厚いってコトだよね!」

 

 ポジティブな解釈だが、否定もできない。


「そんなことよりも、場所は決まってるの?」


 日程は皇帝陛下から直々に告げられたけど、場所などはまだ決まっていない。


「うん。ノルン大聖堂だよ」

「ノルン大聖堂ですって!?」


 グウェンが驚きの声を上げていた。名前だけ聞くに大層な場所なのだろうが、あたしは知らなかった。


「あれ? ピンときていない?」

「モモカモモカモモカ! ノルン大聖堂は私の女神様である調和の女神様が祀られている場所ですわ! あぁ女神様! 女神様と縁ある地で、祝宴を挙げられる事を心から感謝いたしますわ!」


 グウェンは天に祈りって感謝を告げていた。

 調和の女神様のおかげでこうなっているのだが、最終的にそこで終わりを迎えるのは何か陰謀めいたものを感じるところだ。


「いや、現実が追いついていなかっただけ………てかそんなところで結婚式を挙げて本当にいいの?」

「いいもなにも、皇族は大聖堂で結婚式を挙げるのが習わしなんだよ? 知らなかったの?」

「う、うん………」


 これに関しては知識不足だった。


「てか、あんた大聖堂と縁があるの?」


 あたしの知識不足を追求される前にクラリスへと質問をしておくと、クラリスは得意気な顔になった。


「ふふーん。クラリスちゃんはこう見えてシスターなんだよ」

「俗物塗れなのに?」

「ひどっ!? 王宮にいる時はクラリスちゃんなの! シスタークラリスの時はちゃんとしてるもん!」


 要するにこいつにも二面性があるってことだ。しかも悪い方が普段で、良い方が外面。シスターをしている時が良いのかは知らないけど。


「じゃあどんなことをしてるのよ」

「クラリスちゃんは療養所の建設費用の献金とか、心の病にかかった人を癒したりとかかな?」


 こいつが人の為に行動を起こしているのが想像できない。心の病にかける方が得意じゃない。


「あーっ疑ってるな! ちゃんとこれで癒せるんだからね」


 そう言いつつ天秤を出すクラリス。


「わかったわかった。信じるからそれしまって」


 天秤にいい思い出がないのでしまうように促すと、ふん、と鼻息を荒くして不満げにしまった。


「かあいいグウェンちゃんの為にシスター仲間と頑張ってんだからね!」

「それは………どうもありがとう」


 やりきれない感謝なのは、あたしがクラリスの事をそんなに好きじゃないからなのだろう。それはあまりにも失礼だが、そういう関係なのだし仕方のないことだった。ただ、この王宮でできた等身大に話せる友人関係だというのは仕方ないけど受け入れている。


「モモカ、絆されてカミーユとこの女を引き合わせてはいけませんですわよ!」


 あ、絶対にそれだけはない。

 カミーユの貞操はあたしとグウェンが守る!







16日 21:10 投稿予定です。


ブックマーク、評価、励みになります。ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ