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皇帝と不安と結婚式と


 魔術会が終わって一か月程経ったある日、皇帝陛下から呼び出しがあり、あたしとシャルはまた謁見することになった。


「お主たちの結婚式の日取りが決まったぞ」


 例の如く水映の間で謁見を行って、皇帝が開口一番にそう言った。


 驚きよりも、ようやくかとズシリと構えている自分がいた。


 グウェンの時は半年かけて関係を今のあたしとシャルぐらいの関係へと昇華していた。そこから昏倒事件に発展し、ぎくしゃくした関係になり、何があったのかネェルと婚約した。


 だからこそ結婚式なんて挙げていなくて、この単語を聞いたグウェンは感極まって絶句している。 


 あたしとしては、ようやく念願の結婚式だ。これを終えれば正式な妻となれる。そうすれば余計な人間がシャルとの間に入って来れなくなる。つまり死の運命は回避されたも同然だ。終わりが見えた時、ちょっとした高揚と安堵が溢れてくる。


「建国祭の最終日にすることにした」


 建国祭は名の通りで、約一週間をかけてやるお祭りだったよね。その最終日に行うって国を挙げての結婚式って言っても過言じゃない。一国の皇子様と結婚式をあげるんだもんな。うーむ、なんか緊張してきた。


「ありがとうございます父上」

「ありがとうございます」

「………なにか不安があるのか?」

 

 シャルの礼に合わせてあたしも礼を言った後に、至って普通を取り繕っていたはずなのに皇帝に心の内を見透かされた。そりゃあ人生初めてで、しかもかなり特殊な状況下の結婚式なんだから緊張しかしないし不安もない訳じゃない。ただ専らの不安は一つだった。


「えっと………本当に結婚式をしてもいいんですか?」

「イザークの事か。確かにかの噂は次第に大きくなってきているな」


 噂を流した人間の思惑通りなのか、噂は王都全体に広まっている。現在の皇帝を気に食わない勢力が奮起して決起集会していたところを憲兵に捕まったなんて噂まである。実際にはそんなことはないのに、架空の反対勢力までが出てきてしまった次第だ。


「グウェンが不安なのも理解できるが、わしから送れる言葉はそんな些細な事は気にするでない。だ」


 皇帝は豪胆にも言ってみせるけど、死の運命が大いに関わってきている結婚式のせいで、あたしでもそこまで楽観的になれなかった。


「うむ? まだ表情が晴れないようだな。余の子と、イザークの子が結婚式を挙げるのだぞ。二人の関係が良好でないと行う訳がなかろう」


 そうは言うも、巷で流されている噂に尾ヒレがついて、イザークが実権を握る最初の一手としてあたしを使って、シャルを射止めて堕としたなんて言われている。それを知らない皇帝じゃないだろうから、本気であたしの不安を取り除こうとしてくれる気遣いを感じる。


「そもそもだな。イザークを王宮に呼ぼうが呼ばまいが、結婚式を挙げようが挙げまいが、噂を流している人間が良いように解釈させた噂をまた流されるだけだ」

「父上、グウェンはそういうことを言っているんじゃないんですよ」


 シャルの口調は穏やかなものの、内心は怒っているのは眉根が少し上がっているのを見ればわかる。父である皇帝陛下も、わかっているようで言葉を続けた。


「わかっておる。ただ根を絶つのは二人共分かっている通り容易ではない。不備があったり不慮が起こるかもしれないと臆していては、噂を流している相手の期待通りになってしまう。だから精鋭たちに任せてドンと構えて結婚式をするがよい」


 皇帝は頬に皺を作って笑ってみせた。皇帝陛下も噂を流している人間を探しているのだ、恐らくこの王宮内から流れている事実も知っているはずだ。それを踏まえて結婚式を挙げると言い通しているんだ。もしかしたら結婚式を挙げることで、噂を流している人間を特定できるのかもしれない。


 噂という呪いのせいで慎重になっていたのがあたしらしくなかった。


 バチン! と両手で頬を叩いて気合を入れなおす。


 二人共赤く腫れてジンジンするあたしの頬を見て目を丸くさせているが、気合を注入したあたしはそれが籠った宣言した。


「分かりました。やります結婚式」

「………大丈夫?」


 無理していないかとシャルの目が訴えてきている。だから不安を取り払った笑顔で返した。


「大丈夫。絶対に最高の結婚式にしようね!」


13日 21:10 投稿予定です。



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