眼帯執事と教育と秘蔵の魔術と
魔術会で購入した最新の魔術書を読み切って、あたしは自分の新たな可能性に辿り着いていた。
グウェンの身体が先天的に覚えている魔術は四つある。あたしが新たに覚えたの魔術は十二個あって、そのどれもが水に関係する魔術だった。それはヴィクトルに教育された自分の身体にあった魔術を会得するのが魔術を極める為の近道という教訓。
あたしはふと思ったのだ。あたしの魂がグウェンの身体に入っているのならば、あたしの先天的な魔術もあるんじゃないかと。これまではグウェンの魔術だけを注目していたが、あたし自身が魔術を所持している可能性も無いとは言えなかった。
そもそもあたしにギフトがないのが異世界転生として気に食わないって気持ちが発端である。
あたしは見た物はなんでも真似ができる特技を生かして、見た魔術も真似できるかもしれないと考えた。
『お嬢様、身体にあった魔術でないと会得することはできませんよ』と、ヴィクトルには苦笑いされたけど、これだけは諦めきれずに王宮に来ても、王宮の図書室を利用して勉学に励んでいたのである。
そして魔術会で得た目から鱗が落ちる知識で、あたしは新天地に辿り着いた。
鏡の魔術。対象の魔術をそのまま鏡映しにして使用する魔術だ。水映の間から着想を得て、水鏡を作り出し、鏡の魔術を発動することができるようになった。グウェンの水が得意分野と、あたしの物真似が得意の分野を掛け合わせることで、ようやくこの境地に至れたのだ。
ただ使用すると魔力を全て持っていかれる欠点を抱えているので、まだヨランダの固定の魔術でしか試したことはない。まぁそういう魔術を会得できたのだ。あたしの魔術道も順調に歩めている。
この魔術を会得したことはグウェンとヨランダしか知らない。シャルに教えたい気持ちはあるけど、知る人間は少ないに越したことはない。なので秘蔵の魔術として取っておくことにしている。秘伝の必殺技みたいでカッコイイしね。
王宮に設置された図書室から自室へと帰る途中に、見覚えのある影が遠くを通り過ぎたので速足で追いかけると、その影が記憶の中にある人物と一致していたので、あたしは声をかけた。
「ヴィクトル?」
声をかけると一人の兵士に先導されるように前を歩いていた執事服の男が立ち止まって振り向いた。いつもの眼帯をした、ラインバッハ家の一執事であるヴィクトルであった。
「これはこれはお嬢様。ごきげんよう」
「はい、ごきげんよう。なんでいるの? またネェルの付添い?」
微笑み眩しい挨拶を交わして率直に訊ねる。厄介なネェルを探してみるも見当たらない。そもそもネェルが一緒にいたのならばあちらから接触してきそうなものだが、それらしい姿はやはりない。
「いいえ、今日は私個人で御呼ばれしたのです」
「へぇ、あたし呼んだ覚えないけど」
王宮にラインバッハ家の誰かを招くのは、あの噂のせいで憚られていたので、誰も呼んだことはない。だからヴィクトルと出会ったのは魔術会ぶりであった。
「それはそうです。本日はクレマンティーヌ王妃に御呼ばれしたのですから」
「あっ………そうなんだ」
何かと黒い一面を彷彿とさせてきたクレマンティーヌの名前を聞いて、あたしは警戒心を最大値へと上げた。後ろにいるグウェンも眉を顰めている。
それに、クレマンティーヌの名前を出した時に、引率の兵士の表情が少し険しくなったのを察した。それはあまり公にしたくない感情の現れだろうと予見できるせいで、すぐに元の仕事人の表情へと戻していたが、人の感情変化に目敏いあたしでなきゃ見逃しちゃうところだったね。
「クレマンティーヌ王妃に私が魔術を御指導することになりましてね。暫くは王都に身を置く所存です」
「ネェルの専属執事はどうするの?」
「休暇を頂いているので安心してください。それにネェルフアムお嬢様にはアンネがいますからね。私などがいなくても、どうにかなるのです」
アンネは戦闘が不向きな専属メイドなんだけどな。ラインバッハ家から戦闘値がズバ抜けたヨランダとヴィクトルがいなくなったら警備的な事情は大丈夫なのだろうか。大丈夫だから寄こしたんだろうけど、心配ではある。
引率の兵士が咳払いをした。どうやら時間が差し迫っているらしい。
「それでは」
「あ、うん」
ヴィクトルはまた兵士に連れられてクレマンティーヌのところへ行ってしまった。
「追いませんの?」
背中を見送ると、グウェンに訊ねられるも。
「追ったところで何にもならないしね」
自分から積極的にクレマンティーヌと接するのをやめたので、ヴィクトルとクレマンティーヌのやりとりは気になるが、悪い方向へと行くことにならないよう願うしかない。
12日 21:10 投稿予定です。
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