魔術会と噂と者々と(6)
「えぇ! カミーユちゃまとグウェンちゃんとネェルちゃんって家族なの!?」
魔術会も無事に? 終わって、この町で一番デカい館で懇親会が開かれていた。そこで念願の推しであるカミーユと話していた驚愕の事実の如く驚いていた。どんだけ上辺にしか興味が無いんだこいつ。
「御姉様、はい、あーんですわ」
「はいはい」
クラリスから解放されたネェルはあたしにべったりであった。シャルもどうしていいかと声がかけ辛い程にべったりだ。
ちなみにグウェンはネェルから離れるように、カミーユの周りを浮遊して、失礼な事をいうクラリスにネチネチと小言を言っているみたい。
「やぁグウェン久しぶりだね」
三人で軽食を食べていると、今回の魔術会の主役になっていたフィリップがやってきた。
本来の主役であるオーギュスタンは、クレマンティーヌ曰く、疲れたから寝たらしい。自分の力を誇示して、周りに迷惑かけた挙句の果てに睡眠欲を優先させる。あの王様の背中を見て育ったとは思えない程に自己中心っぷりである。
「久しぶり~、凄いじゃん魔術使えるようになったんだね」
「シャルル殿下もお変わりなく。……グウェン、君は僕を分かっていないね。僕は何でも持っている男だからね。あれくらいの魔術なんて簡単に使えてしまうのさ」
「ね、土系統を使う魔術だったから、体幹の良さもあって相性良さそうだったね」
「あ、あぁよく見ていたようだね。一見しただけでそこに気がつけるとは流石はグウェンだ」
フィリップは得意気に笑っている。魔術の腕も自分が上だと誇示しているのだろう、どいつもこいつも魔術を使う輩はいけ好かないね。
「御姉様、少し席を外しますわ」
唐突にネェルがそう言って、皆に挨拶をしてからそさくさと人混みに消えていった。催したのかもしれないが、何にせよ子泣き爺のように貼りつかれていては気分が休まる瞬間がなかったので、離れてくれて良かった。
「そういえばフィリップとシャルは初対面じゃないんだね」
と言うと何やら二人に緊張が走ったように見えた。
「なんか隠してる?」
ジロリと問うと、シャルがフィリップへと確認をとるような目線を投げかけた。フィリップは逡巡してから頷いた。
「機密事項なんだけど、フィリップ君はボクの私設兵に志願しているんだよ」
「はっ!? なんで!? あんた貴族じゃん!?」
「こ、声が大きいグウェン!」
衝撃の事実に声を大にしてしまい、慌ててボリュームを下げた。
「ご、ごめん。でもシャルの私設兵ってどうして」
「それは………」
「僕がシャルル殿下をお守りしなければならないと天命を得たからだ」
「て、天命?」
フィリップの口から天命なんて言葉が出るとは思いもよらずに訊ね返してしまう。
「そうだ。グウェン、君に勝負で負けてから数日後の事だ、僕の夢に調和の女神様が現れて天命をくださったのだ」
「それでシャルを守る為に私設兵に志願したってこと? あ、だからオトウサマに師事して魔術を習っていたんだ。フィリップってそんなに女神様を信奉していたっけ?」
「信仰する心は誰にでもあるものさ」
そりゃあそうだけど、フィリップは女神様とか信じないタイプだと勝手に思っていた。勝利の女神は既に抱いているのさ。みたいな気障なこと言いそうだし。
「今日の魔術会のおかげで建国祭には入隊できるはずさ。その時はよろしく頼むよグウェン」
「………入隊してもあたし王宮内にいるし、フィリップは下士官だから王宮では会う事はなくない?」
あたしが知る限りの事実を伝えると、フィリップは目を叩いた。
「は? ………そうなのかい?」
「そうだよねシャル」
「左官にならないと出入りは出来ないかな………」
申し訳なさそうにシャルが言う。
「ぼ、僕はいずれ下士官、尉官、そして左官になってみせる!」
「が、頑張ってね。それでシャルを守ってね」
壮大な天命を全うしようとしているフィリップには頭が上がらなかった。これから外に出る時の護衛としては出会うことになるのだろうな。
魔術会の主だった出来事はそれで終わった。カミーユは忙しそうで声をかける暇もなく、ネェルも帰り際に挨拶しただけだった。久しぶりに会ったので、もう少し長く他愛ない話をしていたいと思えるのは、あたしがラインバッハ家を故郷だと思っているからだろうか。だとすればこの寂しさは悪い気持ちではない。
シャルとは落ち着いたら一緒にラインバッハ家に行こうなんて話をしながら一日を終えた。日中であったことをお互いに話に出さなかったのは、確認する行為なんて必要ないと、互いに思い合っているからだとあたしは強く感じた。
9日21:10に更新予定です。
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