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魔術会と噂と者々と(2)

「手紙が盗まれている可能性か………」


 明日の魔術会に備えて英気を養って寝る前に、本日得た情報をシャルの部屋で共有していた。


「よくあることなの?」

「ない。とは言い切れないけど、今回の場合でもグウェンが舞踏会にでないのを不審に思った人が、確認をとれば露見するんだ。そんな簡単に発覚しているのに、皇族の身内から手紙を盗むのは行動と報酬が見合っていないよ」

「確かに、ワザと足跡を残しているっぽく見えるね」

「実行犯は突き止めるのは難しい事じゃないだろうけど、そこから噂を流している人物に辿り着くのは容易じゃないだろうね。………それよりもボクがグウェンにどうして舞踏会に出席しないのかを聞いておけば、もっと早くに気付けたんだ。ボクの落ち度だ」


 シャルは何でも背負い込む。それは彼が優しすぎるからだ。他人の事柄でも、自分にできたことが少しでもあって、それを見逃したり取り逃したりすると、自責の念に駆られる。何もそこまで追い詰めなくても………と心配になる。


「あたしだって自分で確認しなかったんだし、それに遅かれ早かれ発覚していたんでしょ? シャルが気負う事じゃないよ」

「………」


 シャルは納得のいっていない顔だった。


「シャルル様は恐らく、私達の事を気遣っていたのに、その些細な変化にさえ気が付けない自分を責めていらっしゃるのですわ。私にはわかりますわ」


 ダンス一番のグウェンが社交界に顔を出さなかったことに不信感を覚えなかった自分に嫌気を覚えているのね。確かに好きな人の変化に気が付けないのは心にくるよね。あたしが今、その事に気がつけなかった事実はどうしよう。


 どうやら優しい者同士は心が通じ合っているようだ。


「そんな落ち込まないでさ。舞踏会があった日はシャルの手伝いをしていたから、どっちにしろ行けていなかったよ」

「お馬鹿、そんな風に言うとシャルル様が余計に束縛したうえで気がつけなかったみたいになるじゃありませんの!」


 グウェンの言う通りでシャルは塞ぎ込んでしまった。言葉だけで励ますの難しっ。


「も、問題です。あたしはこの一か月でどう変化したでしょうか? 三つ答えなさい」

「な、何を言ってますのモモカ………」


 グウェンの白んだ目を意識せずにシャルの返答を待つ。


「えっと………植物だけじゃなくて林学や農学にも詳しくなったのと、ネイルオイルを変えたのと、筋肉質になったのと、あとはより綺麗になった」


 四つ答えてくれた。呆れていたグウェンは自分が言われたと勘違いして耳まで真っ赤にして照れていた。あたしも弛んだ頬に気を入れなおして会話を続ける。


「正解! ほらね、ちゃんとあたしの事を見てくれているじゃん。因みにあたしからは、あたしが好きな紅茶と洋菓子を把握してくれた。ずっとあたしを庇うように歩いてくれる。作り笑顔が減ったかな」


 シャルだけに言わせるのは不公平だったので、自分でも気恥ずかしい事を言っておく。


「ボクそんなに作り笑顔だったかな………」


 明確に言葉を間違えたせいでシャルはしゅんと項垂れてしまう。


「あ、いや、そうじゃなくて。んー言い方が悪かったかも、なんだろう。心から笑っていない? 合わせている笑顔みたいな?」

「同じ意味ではありませんの!?」


 あたしは慌てて訂正してみても、どうやら同じ意味に聞こえるみたいだ。


「相手の感情を読み取る手探りな笑顔とか? まぁまぁそう感じるのが減ったのは良い事じゃない」


 その場の雰囲気に合わせて相手が欲しがっている対応をする。普通は感じないんだけど、一緒に過ごす時間が増えたおかげでシャルの笑顔の判別ができるようになったのだ。それは親睦が深まった良い事実ではあるのだ。だからこそネガティブな意見ではない。


「だとすればグウェンのおかげだ。君が楽しそうに笑うから、ボクも楽しくなっているんだろうね」


 言った後に頬をかいているシャル。あたしも全身がゾワゾワとしてムズ痒い。


「じゃ、じゃあこのまま魔術会も楽しくいこう!」


 あたしの意図が伝わったことに満足して、照れくささを追いやるように言った。



 その日の夜、あたしは夢を見た。


 時計が十二時の針を刺そうとしている一分前。舞踏会で踊っていたあたしは、自身にかかった魔法が解けるのを恐れて、地上へと続く只管に長い階段を駆け下りていた。


 眼下に見える階段の終着点は見えずに、赤い絨毯と階段とその奥にある暗闇だけがあるだけだった。あたしは追いつかれては、バレてはならないという謎の強迫観念にかられて、折りにくい靴をその場で脱いで両手に持ちつつドレスの裾を持ち上げて、また駆け下りていく。


 終わりが無い階段を駆け下りていく。


 無限に続く階段だ。どれだけ駆け下りても、どこかで元々の定位置に戻されているのではないかと錯覚してしまう奇妙な階段だ。


 背後にある洋風の城の窓についている大時計が十二時の数字に針を重ね合わせた。


 ゴーン。と低い音が鳴り響いた。何度かその音が鳴り響くと、城が瓦解しだす。いやこれは城が浮き上がっている。外壁やこの階段をパージするように、空へと浮き上がっていくのだ。


 あたしは更に急いで階段を降りるも、背後に迫る崩壊に巻き込まれて階段の残骸と共に宙に投げ出された。


 宙へと昇っていく城に落ちていく瓦礫の中手を伸ばしてみても掴めそうにない。


 その時手の中にあった靴が発光して、人の形へと変化していった。


「助けてあげましょうか?」


 発光している人型は見覚えのある女性の形をしていて、落下途中にも関わらずそう訊ねてきた。状況を視ろと悪態をつきたかったが、あたしは伸ばした手をその人型へと伸ばして頷いた。


「ですわよね」


 人型は笑っているように見えた。

 人型が伸ばしたあたしの手を掴んで、宙へと引き上げてくれる。今までどん底へとただ落ちていくだけだったのに、上へと上へと見た子もない景色と共に引き上げてくれる。


 いつの間にか遠くにあった城へとあたし達は辿り着いていて、城の大広間へと着地した。


 大広間には見知った顔が全員いて、誰も彼もが幸せそうな笑顔で談笑をしていた。


 人型は強く握ってくれていた手を離して、その人達の中に入って行く。


 そして振り向いて、またあたしに手を差し伸べてくれるのだった。


 長い金髪ではないあたしは格闘技でできたマメだらけの手を見てから、一歩そちらへと歩み寄った。


 そんな夢。


「あんた、あたしの夢に侵入した?」


 変な夢をみたらグウェンに訊ねるのが日課であった。


「してませんわよ。モモカの夢はハチャメチャですもの、侵入するのも命がけですわ」

「大冒険スペクタクル映画が大好きだからね。フィリップがジャイ〇ン枠になりがち」

「な、なんの話ですの?」

「こっちの話だよ。まぁ侵入していないならいいよ。さっ魔術会だ魔術会」

「変なモモカ。………いつものことですわね」


 洗面所へと向かうあたしに投げかけた言葉は、ちゃんと聞こえているんだからね。 

1日21:30に更新予定です。


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